ゲームクリエイター図鑑No.005北尾 雄一郎#2「「個性の光る団体芸」をジェムドロップはやりたい」(後編)

「ゲームはおもしろい、ゲームを作ってる人も実はおもしろい」

多種多様な技術を持った人々が集まるゲーム業界。あの魅力的なゲームたちは、どんなゲームクリエイターが生み出しているのか。ベールに包まれた「ゲームクリエイター」の生態を解き明かし、この地に生息する「ゲームクリエイター図鑑」の完成を目指す。その過程として、一部のレポートを公開しよう。

 

クリエイター図鑑 No.005
今回、お話をお聞きしたのはジェムドロップ代表の北尾 雄一郎氏。ジェムドロップを創業して10年を迎えた北尾氏はどのようなクリエイターで、どのような夢を持っているのか。東京ゲームショウにブースを出展し多忙な中でお聞きしました。

とてもユーモラスに自身の体験を語っていただき、また自身の思い描くゲーム会社運営についてとても熱のあるトークを聞くことができました。

前半に続き、10年を迎えたジェムドロップ。代表の北尾氏にこれまでとこれからをお聞きしました。

企業文化を模索した10年とこれから

過去タイトルも並ぶジェムドロップブース

――そう考えると、チームを作って、それが結果となって出るのが十年、二十年かかると。

北尾さん そう。だから、今やってるのがいいのか悪いのかはまだ、分かんないです。達成できるのがベストなんですけど。

――10年でたどり着いた答えとしては、まだまだこの道は険しいと

北尾さん 険しいですね。人を増やす増やさない問題っていうのがあって、人を増やさない方が安定するけど、経営的には人が多い方がやれることも増えたり、同時にお金も稼がないといけないとか、でもいい人は取りたいとか。で、うちって採用計画がないんですよ。例えば他社って今年何名採用するとか計画があると思うんですけど、スタッフや私が「一緒に働きたい!」となるべく思う人を採用してます。なので採用計画とか決められないんです。

――経営的にめっちゃ大変では?

北尾さん 大変ですよ(笑)ま、それはでも、その方法で採用した結果離職率も低くなってますね。人数を揃えるって方針ではないので。

――社員旅行とかも行かれていますね。これもツーカーにつながっていくのでしょうか

北尾さん みんなで同じ体験するとやっぱ強いんですよね。どこどこにみんなで行って、一緒にやったことは共通の経験になるんで、あの時のあれって共通体験が生まれると、やっぱチームの連携力じゃないんですけど、共通の認識が増えるんですよ。そういうのはやっぱりあった方がいいんじゃないかなと思ってますね。

ーーこれはリモートワークにも通じるところがある気がしますね。新卒がリモートで働くと伸びないって聞くんですが、やっぱり現場で一緒に体験することに意味があるんでしょうか?

北尾さん 伸びないんじゃないかな。少なくとも他社さんでは「伸びにくい」というお話を沢山聞いてます。うちも最初リモートをやったんですけど、無理だってすぐやめました。新卒はやっぱりリモートだと先輩に聞きにくいし、同期との話もしにくいし、あと、カメラオフにされたら全然表情見えないじゃないですか。それだと一緒にやる意味がないなって。

――外注と変わらないですよね。

北尾さん そうなんですよね。一緒にやる意味がないのでそういうのに気を付けてますね。今回の展示とかもあれぐらいの規模になると、一時的にアルバイトさんを雇った方が安いと思うんですけど、設営も運営も実は全て開発スタッフがやってるんですよ。そうすると、やっぱりさっき言った共通体験と共通認証が、大変だっていうのも含めて経験として残りますし。あと、インディーや個人開発って自分の作ったのを自分で展示して直接評価されるじゃないですか。あれはすごいいいなと思って。規模が大きくなるとそういうのがなくなるけど、それはインディーのままのほうがいいんじゃないって思っていて。ディベロッパーって作ったら終わりで広報活動とかしないんですけど、インディーは全部やんなきゃいけないし、パブリッシャーになるなら、お客さんはこういう人で遊んでる顔はこんな顔だって分かんないといけないし、そういうのを開発にも知ってほしいので、出展の設営や運営とかもやってますね。

――目的が自社でゲームを作って出していくっていうところがあるから、開発だけやればいいじゃなくて、自分のタイトルとして扱ってほしいということですね。

北尾さん 究極的には、スタッフ一人一人が私のおかげでこのゲームが売れたとか、私のおかげでここおもしろくなったって、いい意味で勘違いしてほしいんです。もちろん勘違いだけでなく、事実としてもなってほしい。それが理想ですよね。

――確かに他の出展者だとインディー以外では自分たちで出展してないかもですね。個人開発者とかインディーの人で、いろんな人が自分のゲームをやってるのをずっとメモをとって改善してを繰り返している人もいますね。

北尾さん スマホやオンラインゲームだとアクセス解析とかすると、確かにお客さんがどう遊んでるとかは調べられはするんですけど、会場だと操作しているところとかも見えるし、表情も見えるし。ああ、あそこミスっちゃいましたか?みたいなのも見れるし、情報量が全然違うので、そこがやっぱり大きいんじゃないかなと思いますね。

――東京ゲームショウ以外に出展されていますか?

北尾さん 今年は出してないですけど、ビットサミットとかデジゲー博とか、あとぜんためですね。東京ゲームショウだと、四日間で40人が運営に参加してて、社員の半分が参加してローテ組んでやってますね。多分無駄でコスパが悪いんですよ。悪いけどやった方がいいんじゃないかって。あの時こうやったとかあのお客さんこうだったとか、去年こうやったからこうしようみたいなのができるので、遠回りなんですけど、わざと遠回りしたところがありますね。あと、なぜ出展をするのかを言わないとなんかやらされてるみたいになっちゃうので出展意図に関しての話はスタッフにしてますね。

盛況なジェムドロップブース。運営しているのは全部開発メンバーだった。

――たしかに、説明は大事ですよね。

北尾さん 今年の出展なんて過去作品の9作でスペースの8割ぐらいを占めているんですけど、それを出展する意味も説明をしてます。半分は過去作を遊んでいたお客さんのためで、買ったことがある人に見てもらったりするんですけど、そのお客さんが知らないタイトルが3つ4つあるんです。ゆるキャン△(『ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP ~麓キャンプ場編~』)やったけど、キズナアイのゲーム(『Kizuna AI – Touch the Beat!』)もあるんだってなって、知って頂けたり、また購入して頂ける可能性があるんですよ。なんでそれを認知して頂くのが半分。

もう半分は対パブリッシャーさんで、ブースの上にあるバナーに作ったゲームが全部載ってるじゃないですか。全部作ったって分かるようにしていて。すると、プロデューサーが上司や経営層を説得するのにこれ作ってる会社なんですよって一目でわかるようになってる。営業ツールですね。そういう出展の仕方してる会社さんって、あんまディベロッパーでもまだないと思うんですよ。でもディベロッパーもそれぐらいやってもいいんじゃないかって思うんですよね。僕らは普通のディベロッパーで終わりというのがあんまり好きじゃないので、そういう風にこうパブリッシャーさんといいお付き合いがしたいですし、僕らもパブリッシングをしてるんで、自社タイトルの展示もしたい。ゲームショーって新作ばかり展示しますけど、過去作をプレイして頂いたお客さんもいるので、何回でも展示していると、好きなタイトルをまた展示してくれてるんだって嬉しくなってもらえると思うんですね。

――すごく考えて出展してるんですね……!たしかに、『狼と香辛料VR』も展示されていますが、確か5年前の作品ですね。

北尾さん そうですね。でも、2024年に再度アニメ化が決まったって話もありますので、さらに新しい方に購入頂けたら嬉しいですよね。

宮田 新作を宣伝するだけなら今はネットでも十分だと思うんですけど、こうやってリアルな場所にファンが集まってくる意味は大きくて、ジェムドロップさんのスタジオへのファンとの接点って考えるととても重要ですよね。

目先のお金よりも、ファンコミュニティへの長い時間軸での投資としてやっている感じですよね。

――ジェムドロップダイレクトも珍しい試みですね。

北尾さん あれは不定期でやっていて、パブリッシングタイトルが出た時とか。今回みたいな東京ゲームショウに出る時にやってるぐらいですね。配信メディアとしてもまだ登録者数2800人ぐらいしかいないんですけど。流していかないとなって思ってます。

――ディベロッパーで三千人弱ってなかなかいないと思うんですよ。個性のある運営だなって思いました。

北尾さん 最終的にはパブリッシングも本格的に参入したいと思っているんで、少しずつやっていますね。うちは自社タイトルでもIPをお借りしてタイトル制作することも多いので、オリジナルばかりではないのですが、IPをお借りしてプロモーションをすると勉強になることも多いですね。

――ちなみに参考にしている会社ってありますか?

北尾さん 名前を出しちゃうと……ちょっと良くないかなって思うんですけど尖った会社とか、自社パブリッシングしてる会社は参考にしていますね。やっぱあれですね。あの最初に日本一入ったのはすごく大きくて、あそこもやっぱディベロッパーでパブリッシャーだったんですよね。今思うと独自路線のタイトルばっか作ってたんですよね。その影響は大きいです。だからそこでやればできるっていう謎の自信をつけて、理論で考えて「やめよう」じゃなくて一度やってみよう。わかったやってみよう。みたいな精神は根付いてます(笑)。

――北尾さんの信念に基づいた会社を経営してるのを聞けて興味深いなって思いました。作りたいゲームを作るんだ熱意のある学生にこういう会社があるんだって知ってほしいなって思いますね。それにしても、採用計画がないのはすごいですね。

北尾さん 今ちょうど僕らディベロッパーってとても難しい山場を迎えていると思うんですよ。ゲームって今は、トリプルエータイトルがあって、インディがあって。で、この中間が今一番歴史がありつつ苦しいところなんですよ。それ故に楽しさもあるとは思うんですが。で、インディーっぽいことやりたいけど、インディーって、一人二人が常人を超えた情熱やリビドーで作ってるから勝てないところがあって、トリプルエーは人数でも予算でも勝てない。なので、どう戦うかなっていうのがあって。

で、僕ら的には私が好きやからっていうのもあるんですけど「個性の光る団体芸」をジェムドロップはやりたいんですね。個人のクリエイターが「私のおかげでこのタイトルは上手くいった」は個人芸なんですよね。これは個性なわけなんですけど。でも、団体は足並みが揃ってないと、これがうまくいかないんですよ。インディは別にそれでいいんですけど。集団のそれこそ30人とか40人でインディーの作れないものを作るってなったら、団体芸の良さを使うのがベスト。なので両輪というか「個性の光る団体芸」がうまくいく仕組みをうちは作ってやって行きたいという感じなんですね。

――インディを取材してると、どうしても最初は尖ってるんですけど、人数が少なくてボリュームが作りきれなかったり、10年かかったりするんですよ。多分、今後の課題になると思うんですけど。ボリュームと尖り具合が両立するインディーゲームが出てきてほしいですね。

北尾さん 今後ちょっとずつ、そういうのも増えるでしょうし、シフトもするだろうと思います。ただインディはもうなくなることはないと思うし続いてほしいし、たぶん続いて行く。尖ったゲームがいっぱい出る土壌みたいな必要なんで。

――最後になりますが、学生にアドバイスもいただけないでしょうか

北尾さん 何のアドバイスにもならない気もしますけど、多分うちだけじゃないけどお話ししたような同じことを考えているゲーム会社が他にもあるはずなんですよ。若手が活躍できる場がある会社もあるでしょうし、あと、今いる会社でやってることが、後で役立つこといっぱいあるし、僕もね過去に作ってたゲームの経験が別のジャンルで役立ったりするわけです。経験ってすぐに使えるものじゃなかったりもするので、まずは目の前のことをちゃんとやるというのが良いのではと思いますね。

あとね、やっぱゲーム完成させてなんぼですね。特に若い頃の経験で、やっぱマスターアップまでやったっていうのは大きくて、沢山の何々やってましたって言うより頭から最後までやるのが一番で作り切ってほしいですよね。就職については賛否両論はあるんですけど、僕は中小の方がお勧めできます。大手は生活も保障されやすいし、なんなら副業もしやすくて、副業でインディーゲーム作りやすいとかメリットもあるかもしれないですけど、僕は割と中小の方が早く経験をつめて、チャンスもいっぱいあるんじゃないかなと思いますね。とは言え各々の生活スタイルとか考え方もあると思うので、一概にどれが良いとは言いにくいんですが、経験を積むなら中小の方が確率は高いかと思います。

――ありがとうございました。

「ゲームクリエイター図鑑」No.003をお届けしました。ゲームを作るために代表になり10年をかけてここまでたどり着いた北尾氏。スタッフの意思疎通をより円滑にする工夫をしながら10年を迎えた同社が今後どうなるのか、また北尾氏が目指すゲームはどういったものなのか。世に出る日を楽しみに待ちたいと思います。

過去の「ゲームクリエイター図鑑」は以下をご覧ください。

ゲームクリエイター図鑑No.002 藤井トム#01「新卒カードで花屋に就職、どれだけゲームが好きかに気づく」

 


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