CEDEC2023が8月23日~25日に開催されました。楽屋でまったりで行ったアンケートをもとに、様々なセッションのレポートをお送りいたします。
今回は『FINAL FANTASY XVI ~オールレンジのプレイヤーに向けたコンバットデザイン~』のセッションをご紹介いたします。セッションでは『FINAL FANTASY XVI』で全てのユーザーに楽しんでもらうためのコンバットデザインの制作方針について、またプレイヤーとエネミーそれぞれで取り組んだ具体的な制作手法について解説がありました。アクションゲームの開発に携わる予定がある方はぜひ、最後までご覧ください!
FINAL FANTASY XVI ~オールレンジのプレイヤーに向けたコンバットデザイン~
本セッションでは FINAL FANTASY XVI( 以下FF16 )のバトルパートのコンバットデザインを紹介します。これまでのFFシリーズのコンバットは、ターン性のコマンドバトルから始まり、様々な手法でターン性のコマンドバトルからコンバットを発展させてきました。最新作となるFF16では、完全リアルタイムのフルアクションでコンバットを構築しました。
これまでのFFシリーズを遊んできたシリーズプレイヤー層、アクションゲームを好んで遊ぶライトプレイヤー層、アクションに奥深いやり応えを求めるヘビープレイヤー層、これら幅広いプレイヤー層に楽しんでもらえる為の、FF16のコンバットデザインの制作方針とその具体的な制作手法をご紹介します。
受講スキル
- アクションゲームのバトル制作に興味のある方
得られる知見
- ターゲットを見据えた上でのコンバットデザインの実例
『FF』のバトルデザインとアクションを作る上での課題
2023年6月22日にリリースされた『FF16』は、シリーズ初となる本格派アクションゲームです。同作はアクションが苦手な層から得意な層まで、幅広いユーザーをターゲットにシステムを構築。アクションが苦手な層には「アクションをプレイできている実感」を得て楽しんでもらえるように、アクションが得意な層にはやり込み甲斐のある奥深いシステムになるように、“敷居が低く天井が高いコンバットデザイン”を目指したそうです。
アクションが苦手な層と得意な層の両立を目指すためには、“効率性に変化はつけつつ、不正解をなるべく作らないコンバットデザイン”にする必要があります。
ここからは、我々が『FF16』のコンバットデザインを制作するにあたっての具体的な手法をご紹介します。
“敷居の低いコンバットデザイン”の実例
まず『FF16』で注目されているのが、付け替え可能なサポート機能。これまでリアルタイムバトルをプレイしたことがないプレイヤーでもバトルを楽しめるように、プレイヤーが苦手とする多様な要素をサポートする3つの機能を導入したそうです。
オートスローサポート
敵の攻撃をいなす、攻撃回避サポート機能。リアルタイムバトルで対峙した敵が攻撃を仕掛けてきたら攻撃をかわす必要があるため、反射神経が要求されるシーンでサポート機能が有効的。この機能によってゲーム全体がスローになり、攻撃が回避しやすくなる。敵の攻撃に合わせてタイミングよく回避ボタンを押す必要があるが、それがバトルの実感が湧く要素にもつながっている。
オートポーションサポート
敵から攻撃を受けて体力ゲージが減った際、自動的に回復するサポート機能。所持している回復アイテムの性能を考慮し、その性能をベースに無駄なく回復を制御することができる。この機能を実装した結果、回復アイテムを大量に抱えたまま死亡するなどのリスクを大幅に減少できるようになった。
オートアタックサポート
攻撃ボタンを連打することで敵との間合いや対峙位置を自動で把握、複数の攻撃パターンを状況に応じて自動に使い分けて敵にダメージを与える機能。敵にダメージを与える上での攻撃の最適解を自動で検出させるのではなく、見栄えのよい戦術を作ることを意識して自動選択のアルゴリズムを構築。習得した多彩なアクションを戦術に組み込み、より魅力的な戦術で攻撃することを目指した。
反射神経が問われるアクションや体力などのゲージ管理、アクションの使い分けなど、プレイヤーにとって苦手な要素は様々で「難易度」という一軸では語れない、と鈴木さんは語ります。またアクションが苦手な層の中にも「攻撃は自分でしたいけど回避はサポートしてほしい」という人も。そこで、これらのサポート機能を「装備品(アクセサリ機能)」として提供。装備品は任意で付け替えができるため、難易度の調整を簡単にできるようになったそうです。
これらのサポート機能を実装するにあたり「ゲーム難易度を設定して遊ぶのではなく、アクセサリで難易度サポートをする」ことを大切にしました。
またプレイヤーには「今は攻めるべきターンか、引くべきターンか」を最低限考えさせるようにしており、オートバトルは意図的に採用していません。戦闘中にプレイヤーが考える要素を0にしないことで、よりバトルの実感を持たせるようにしています。
“天井の高いコンバットデザイン”の実例
アクションが得意な層を意識したコンバットデザインとしては、操作テクニックで戦闘の効率性が変化するシステムを導入。「ジャストタイムで攻撃を回避すると、敵の攻撃速度が低下してプレイヤーの攻撃チャンスが生まれる」などのような技術介入要素を取り入れたそうです。
マジックバースト
主人公の基本攻撃の効率性を変化させる技術介入要素。剣撃を放った後にタイミングよく△ボタンを押すことで、至近距離から魔法を打ち込むことができる。連撃の攻撃力が増加し、敵の体勢を崩しやすくする効果がある。
パリィ
敵の攻撃にプレイヤーの剣撃をかち合わせることで発動し、相手の攻撃ターンを無理やりプレイヤーの攻撃ターンにする、高度な技術介入要素。パリィを成立させると敵がひるむため、その隙に攻撃力の高い技を繰り出すことができる。過去作よりもパリィの受付時間を長めに設定し、敵の攻撃終わり近くまで技を有効になるように調整した。
この他にも様々な要素を採用していますが、これらの技術介入要素は戦闘の効率性にだけ特化したものなので、上手く操作できなかったらペナルティを科されることはありません。
「必ずこの操作をしなければならない」という感情が湧かない範疇で、ボーナス要素を出すように気をつけています。
技術介入要素を導入する際は、戦闘における成功体験を感じやすくしてプレイヤーの成長を実感できるようにすることがポイントだそう。たとえば、タイミングや反射神経が要求される技術介入要素の発動条件は、戦闘における成功体験を感じやすくするために意図的に緩めに調整した、と仰っていました。
遊び方に多様性を持たせて深みのあるゲームに
『FF16』では、ストーリーを進行することで召喚獣の力を習得することができ、召喚獣の力を習得するとプレイヤーの戦術が拡張されます。ただし、数種類の召喚獣の力を全て同時に使えるわけではありません。どの召喚獣を使い、どのアビリティの力を使うのか、プレイヤーがリアルタイムで考える仕様にしたそうです。
【召喚獣の例】
・フェニックス
プレイヤーが瞬時に移動して敵との間合いを詰めることができる、空中戦術に長けた召喚獣。汎用性の高いフィートアクションになるよう調整を行った。ガルーダそのものの攻撃力はそこまで高くないが、ガルーダのフィートとアビリティを用いて攻撃戦術に深みを持たせることができた。
・ガルーダ
ガルーダの爪で敵をプレイヤーの目前まで引き寄せ、敵の体勢を崩すことができる。重量級の敵には、特定のタイミングでアクションを当てて敵の体勢を大きく崩し、攻撃をするチャンスタイムを生み出すことができる。アグレッシブに攻めを継続するアクションスタイルが好みのユーザーに向けて調整を行った。
・タイタン
タイタンの腕を用いて敵の攻撃を防ぎ、その敵に対してプレイヤーが攻撃を与えることができる召喚獣。敵の攻撃の中には一部防御不可能な攻撃が存在するため、全ての攻撃を防ぐことはできないが、敵が攻撃を放つ瞬間に敵を引きつけて防御をすると防御不可の攻撃も防ぐことができる。タイタンはスピード感が大きく劣るが、破壊力のある攻撃ができる。アビリティ発動のタイミングを見計らう必要があるため、技術介入のアクションを好むプレイヤーに合わせて調整を行った。
手触りの良い操作感で面白さを追求
アクションゲームが得意なプレイヤーであれば、多少癖のある操作感のキャラクターでも「使いこなしたい!」と受け入れられやすい反面、アクションゲームが得意ではないプレイヤーは「操作感が悪くて難しい……」と、ネガティブな要素になってしまいがち。そこで『FF16』では、操作キャラクターとプレイヤーのリンク感を上げるために様々な調整を行ったそうです。
操作可否が分かりやすいポージング
プレイヤーがキャラクターを操作できない状態の時は「操作できなそうなポージング」にして、納得性を上げた。
アクションごとのキャンセルタイミングを調整
一つのアクションを実行した後、次のアクションを発動できるタイミングをアクションカテゴリごとに個別設定。攻撃を放った後にどのタイミングで移動を許可するのか、またどのタイミングでジャンプを許可するのか等、アクションのカテゴリごとに調整した。
※キャンセルタイミング…次のアクションに遷移するタイミングのこと
- 尖った部分と凹んだ部分がそれぞれあるように
- 凹んだ部分を他の召喚獣でカバーする
- いわゆる「死にスキル」ができないようにすることを目指す
攻撃前の予兆記号の徹底
敵が攻撃を放つ前に、必ず予兆記号となるような動作を入れるように徹底。予兆記号が出た時点でどういう攻撃が来るのか、また攻撃が来そうなタイミングはいつなのか、感覚的に分かりやすいように記号を調整した。予兆記号から攻撃動作に移るときにシルエットを変化させることで、理不尽感を払拭するだけでなく反撃のタイミングを窺うことができるようになる。
カメラ外からの攻撃を抑制
複数の敵がいる場面で画面外から敵に攻撃をされると理不尽に感じやすいため、敵がカメラ外にいるときは攻撃をしないように調整。画面外の敵が近接攻撃をする時はカメラ内に敵が移動、敵が描画されたことを検知されてから攻撃を仕掛けてくるようになっている。なお、魔法を使用して遠隔攻撃をしてくる敵は対象外。
攻撃権のチケット制を導入
アクション初心者は複数の敵に対して一度に対処するのが難しいため、敵に攻撃権のチケット制を導入して敵が攻撃を放つ時にシステム側からチケットを発行。チケットをもらった敵のみ攻撃を放つことが許可される仕様にした。なお、敵の攻撃後はチケットは返却される。チケット発行数はモード毎に変化させて戦闘難度を変化させている。
ご登壇者
鈴木 良太さん
株式会社スクウェア・エニックス 第三開発事業本部 コンバットディレクター
<講演者プロフィール>
1999年に株式会社カプコンに入社。20年にわたって3Dアクションゲーム、2D対戦格闘ゲームを専門に開発に携わる。2019年に株式会社スクウェア・エニックスに入社。現在は、FINAL FANTASY XVI でバトルディレクターを務める。
《代表作》
FINAL FANTASY XVI
Devil May Cry 5 (発売元:カプコン)
Dragon’s Dogma(発売元:カプコン)<受講者へのメッセージ>
本セッションは、アクションゲーム開発に興味がある方、これからアクションゲームの開発に携わる予定がある方、そのような方々に向けたアクションゲーム開発入門セッションとなります。本セッションを通して、アクションゲーム開発に興味を持っていただける方が、ひとりでも多く増えて頂けると嬉しいです。
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