トンデモクリエイターインタビューとは?
今回インタビューにお応えいただいたのは…?
今回は神戸に本社を構えるプラスシグナル社の代表、大久保悟氏にインタビューを行いました。大久保氏はコナミ、カプコンで20年近くゲームサウンドディレクターとして活躍し、平成28年に独立。サウンドディレクターとしてはもちろん、UE4を使うことで新しいサウンドへの可能性にもチャレンジしています。
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インタビュースタート!
――今日はよろしくお願いいたします。大久保さんは独立されるまでにコナミとカプコンでご活躍されたと聞いておりますが、コナミに入社されたのは何か理由があったのでしょうか。
大久保さん コナミに入社するまでのきっかけですが、1番最初は中学生の時にたしかMSXのカートリッジだったと思いますが、コナミだけカートリッジにSCC音源チップを積んでて、ダントツに音が良かったんです。(『F1スピリット』『グラディウス2』など)(『グラディウス2』は※『グラディウスII -GOFERの野望- 』とは別)それを聞いて「すげえ!!」と思って。音楽を聞くためだけにゲームを買ったりとかしていた中学生時代があって、ゲームサウンドを作る仕事って面白そうだなと思っていたんです。当時、カセットテープに録音して何回も聞いてましたね。音源チップを使うというこだわりを見て、これを仕事にすると面白いだろうなと思いました。中学の時はそんなこともあったんですけど、高校になるとゲームにはあまり興味がなくってバンドに熱中していましたね。
――高校では、音楽活動の方に進んだのですね。そこから大学に進まれたわけですね。
大久保さん 大学に入って「楽そう」という不純な動機からゲームセンターでアルバイトするようになったんですよ。そこで、ほかのゲームセンターの店員さんと常連さんからいろんなゲームを勧められてやってみたら、カセットからCDロムに変わってきて、ゲームサウンドがすごいことになっててびっくりしたのと、高校の時、バンドにのめりこんでいた時に地元で有名な人がいて彼は高校を卒業してすぐにチュンソフトで働いていたんですね。それで、『かまいたちの夜』を遊んだ時にクレジットに彼の名前を見つけて、それまでファンタジーの世界の出来事くらいに遠いことだと思っていたゲーム業界のサウンドの仕事が「あれ?現実の世界じゃん」って急に身近に思えてきて「じゃあ応募してみよう」と。その頃バイト先に来ていた常連のお客さんが「コナミ募集してるよ!」って教えてくださったので、応募に踏み切りました。
――これは、教えてくれたゲームセンター常連の人に感謝ですね。
大久保さん ちなみにその人はバンナムさんに就職されました。
――おお。その人もゲーム業界に進まれたんですね。それにしても、1990年代のゲームセンターの常連には、よくわからないけどすごい情報を持っている人がいましたね。
大久保さん そうそう(笑)その人も情報網をもっていて、どこの会社がサウンドを募集してるとか、ゲームセンターにゲーム会社の人が来ると「彼はどこそこ社の誰々さんだ」って教えてくれたりして、なんでそんなこと知ってるんだろう?って思ってました(笑)
――ネットも無い時代にどうやって情報を集めていたんでしょうね(笑)コナミを受けるときは サウンド職で受験されたのでしょうか?
大久保さん 大阪で会社説明会があって、開発の募集職種は3種類だったんですね。プログラマー、デザイナー、サウンドなんです。当時はデザイナーも2D、3Dが分かれていなかったですね。全部で3000人ぐらいの応募があったらしいです。
――さ、3000!?
大久保さん 1995年ってバブルがはじけて就職難の中でゲーム業界だけまだ景気が良かったんですよ。初代プレイステーションも出たころで、ゲーム業界が人気の就職先だったんですね。コナミもすごい人気でした。あと、時代背景もあったと思うんです。当時はプランナーが募集されていなくて、プログラムも絵もできない人はサウンドで応募するみたいな感じでした。その頃DTMが急速に普及し始めていて、パソコンを使って気軽に音楽を作れるような時代になってきたので、音楽的な知識はないけど、音源を触れるから応募してみようみたいな人も多かったと思います。ですから、サウンドの応募だけでも1000人くらいいたそうです。
KONAMI(コナミ)の商品・サービスの最新情報をお伝えする公式サイトです。KONAMI(コナミ)では、人気コンテンツを…
――1000…すごい時代ですね。その中で、面接を通られたわけですね。
大久保さん 自分が特別優れていたとは思わないんですけど、面接の時に言った1言が効いたのかなと思うんです。当時は効果音もサンプリングまるごとするわけではなくて、MIDIとかで効果音を作っていたんですよね。「マイコンBASICマガジン」(いわゆるベーマガ)に「ドラゴンの鳴き声はこう作る」って音階が書かれていて、そういうものにすごく興味があったので「ミュージシャンになりたいと言うよりは、ミュージックエフェクトというかSEを楽器で作ることに興味があります」って言ったのが効いたのかなって思ってます。効果音を希望する人は希少ですし、それに加えて音階で効果音を作ることにコナミは物凄いこだわりを持っていて、面接を担当してくださった方もガチでこだわりを持ってらっしゃる方だったんです。
コナミ、カプコンでの経験を聞く
――大久保さんもコナミもこだわりがあったところがマッチしたみたいですね。1996年入社だと、アーケードがまだまだ盛り上がっていてPS1やニンテンドー64ぐらいの時期ですね。サウンドの仕事全般されていくわけですか?
大久保さん 最初は曲を作ったり、雑務、音声編集とかをしていたんですが、自分は同期に比べてデビューが遅かった。というのも担当していたタイトルの開発が延びちゃって、同期が作ったゲームが次々世に出て行くけど、なかなか自分の担当作が出なかったんですね。
――同期の名前がスタッフロールに乗る中、なかなか前に進めないみたいな時期があったんですね
大久保さん コナミって中学の時から夢見ていた企業だったんで、めちゃくちゃ楽しくて、浮足立っていた一方で、同期も先輩も天才というかめちゃくちゃ仕事ができる人ばかりだったんで「なんで自分はここにいるんだろう?」っていう感じで担当作もなかなか出ないし、焦りとか憤りというのはすごく感じてましたね。
――初年にそういうモヤモヤを感じつつ、2年目、3年目と進み10年以上お勤めになるわけですが、印象深かった作品は?
大久保さん 印象深いもの…楽しんで作ったものといえば、『パワプロクンポケットシリーズ』や『テニスの王子様スマッシュヒットシリーズ』が特に楽しんで作ったタイトルになるんですけど、自分の価値観が変わるというか、ターニングポイントになったタイトルがあるんですよ。めちゃくちゃマイナーなんですが『ハイパーオリンピックinナガノ64』っていう長野オリンピックのタイトルです。
2010長野オリンピックの特集ページです。競技日程や実施種目などを紹介します。 日本オリンピック委員会(JOC)公式サイ…
大久保さん これってウィンタースポーツのゲームなんで、ボブスレーとかスキーとかあるんです。滑走音があって歓声があって風などの環境音もあって。リアルタイムにこれらの音を変化させたりと、インタラクティブ性がすごく必要なんです。チーム担当のプログラマーとサウンド部署のプログラマーとで、滑走スピードとかオブジェクトの角度に対してゲームのサウンドのパラメーターをこういう風にしようと話し合って調整をしながら作ったんです。それで「仕事が面白い!」ってなって自信がつきました。
――音がどこから聞こえるのかを細かく調整しながら作っていったわけですね。
大久保さん そういうことがわかり始めたら、「今度はゲームサウンドでこんなことやあんなことをしたい」って欲望が次々と出てきて、次の開発で『ハイブリッドヘブン』というアクションRPGの担当になった時に、サウンドプログラマーの方にウザがられるくらい「ああしたいこうしたい」ってめちゃくちゃ要望を出してたんですよ。ツールで対応できない要望もあって、サウンドプログラマーの方にずっと貼りついていて(笑)。ついには「プログラムを教えるから自分でやれ」って言われたんです。C言語のSwitch case文とかif文など簡単な構文だけだったんですけど、自分でプログラミングをして音を制御できた時にはめちゃくちゃうれしかったですね。 そこからサウンドプログラマーも兼任するようになっていろいろと表現の幅が広がってきてキャリアができていった感じですね。それまでも大学生の時に自分で本を買って、プログラミングを独学しても全然身につかなかったんですけど(苦笑)、ゲーム内でこういう音が鳴るから、こういう条件の時にこうしたいみたいな具体的な目標というか、やりたいことが明確になっていると習得が早いですね。
――目標が明確でやりたいことだと習得も早いですすよね。大久保さんは現在、UE4を使ってサウンドの仕事をされていますがコナミ時代にルーツがあったんですね。
大久保さん たしかに、そうかもしれないですね。それで自分のキャリアが変わったと思いますね。もう仕事が楽しくて仕方なくて、なんかバグが出てもうれしいというか、プログラマーとしても開発に参加してるんだ。みたいな気分になって、バグ出たのに嬉しいみたいな(笑)すごい生きているという実感もあって。微調整まで含めて、全部自分で完結できたので仕事のスピードも凄く早かったと思います。
――バグが出てもうれしい(笑)ゲームを作っている実感が湧いてこられて、それで仕事を楽しまれているのがすごく伝わってきます。そういう中で、コナミさんを退職されたのはなぜなのでしょう?
大久保さん コナミの待遇とかに不満があったわけではなく、当時、コナミ大阪がパワプロプロダクションという名前に変わって、野球のゲーム開発オンリーなったんですね。それで、もっと色んなゲームを作りたいっていう思いもあって転職を決意しました。コナミの他部署へ異動願いを出す事も考えたのですが、当時は家庭の事情で関西を離れる事もできなくて。
――パワプロの開発陣は野球にものすごい情熱を燃やしていると聞きますね。
大久保さん そうですね。野球が好きな人にとっては素晴らしい職場だと思います。本当にみんな野球が好きな人たちですごく楽しんで仕事されていましたね。選手のパラメータを決めるときなんてすごく白熱していて楽しそうで、彼らにとって天職なんだろうなと思いました。私は野球が嫌いとかではないんですけど、野球ゲームをずっと4作、5作と続けて、やりきったかなっていうのがあったんで、転職に踏み切りました。
――そこから、カプコンに移られたとのことですが、ゲームの作り方は会社によって違いましたか
大久保さん こだわりを持って制作をする点については同じなのですがそれ以外は・・・。あくまで当時の大阪のコナミとの比較になるのですが、もう全然違いましたね(笑)サウンドの持ってる権限の範囲だったり開発フローも違っていて大変勉強になりました。これはどちらが良いとか悪いとかではないんですけど、カプコンでは大型タイトルが多く1つの開発チームの人数も多いです。開発も長期です。その過程では様々なチェックがあって、このチェックが厳しいタイトルも沢山ありましたね。コナミの時はサウンドチームの中でこれが良いってなったら、基本的にそれでOKだったんです。カプコンではチームの企画の方やディレクター、時にはプロデューサーと様々な方のチェックがありましたし、根回しも色々と必要でした。これは本当にどちらが良いとか悪いではなくて、双方それぞれのやり方だからこそ出せるクオリティーや作風があるかと思います。
ゲームというエンターテインメントを通じて「遊文化」をクリエイトする株式会社カプコンのウェブサイト。ゲーム情報サイトをはじ…
――印象に残った仕事はどういったものでしたか?
大久保さん 結構最近のことなので、開発していたタイトルに関することは言いづらいのですが、経験できて良かったのは新人や若手の育成を担当させて頂いていて、若い子の考え方や悩みを知ることができたり、育成のために若手にどんな経験をさせる事が必要なのかとか、そういう事を学ぶことができたのは大きいかなと思います。
――大久保さんはサウンドクリエイターのキャリアというテーマで、講演もされておられますが、これもカプコンでの経験が活きているわけですね。
大久保さん キャリアプランニングについてなんですけど、大規模開発をやりたいのか小規模開発をやりたいのかとか、パブリッシングまでやりたいのか、音作りに専念してクライアントに寄り添いたいのか?とかで結構進むべき方向が変わると思います。僕は小中規模開発の方が性に合ってると思っていて、そういう人はマクロが組めるとかお金の計算もするとか、結構いろんなことやらなきゃいけないです。逆に何かに特化して専念をして仕事をしたい人は大規模開発を中心にやってるような会社が向いてるんじゃないかなと思います。キャリアの中で自分のスキルやノウハウは今後アウトソーシングで生きてくるのではないかと考えるようになって、あとは勢いで独立です。おかしいな、就職した時は定年まで絶対にサラリーマンでいようと思っていたのに(笑)
独立して感じた「人材育成の必要性」
――どういう開発に参加したいかに焦点を当てた考え方なのですね。それで神戸でプラスシグナルを旗上げされて、東京で事務所をオープンされていったわけですね。
大久保さん あるクライアントからラブコールを受けて「ぜひ一緒に仕事をしましょう」ということで、大型チームの中心人物になるような内容の案件だったんです。独立からそれまでの間は残念ながら関西からのお仕事が無かった事もあり、もう関東で仕事する方が早いかって思って東京に事務所を構えました。
――当時は今ほどインディーゲームが盛り上がっていなかったりして、小規模開発が少なかったのかもしれないですね。
大久保さん それもあるかもしれません。ただ今では関西発の案件も結構あります。東京にオフィスを作ったんですが、今後に備えて関西にもオフィスを作ろうと考えています。
――仕事が増えてきたわけですね。
大久保さん さすがに案件が増えてきて。フリーランスの方を雇ったりとかしていたんですけど、それだと再委託になっちゃうんで社員として雇用できるような体制にしたいですね。最近の関心としては自分が稼ぐだけではなくて、若手をちゃんと育成して将来の業界のためになることをやっていかなきゃいけないって思うようになったんです。人を育てて、業界にプラスシグナルのチームとして参加できるようになろうと思ったのもあって、今は体制を整え直しているところですね。
――なるほど。これは聞いてみたいことなのですが、大久保さんのように法人を設立されて、案件が増えて仕事を断っても「そういわずにお願いします」ってまた案件が来ると聞いていましたが、その一方でサウンドの仕事だけでは生活が難しい人も正直いるじゃないですか。何が違うのかというのは関心があって、その違いは大久保さんがこれまでに経験してきたプログラムができることや、大久保さんが独自に習得されたUE4が触れるだけじゃないんような気がするんですがいかがでしょう。
大久保さん UE4を触れるのは大きいんですけど、僕が大事にしているのはクライアントに喜ばれたり、安心してもらえることだと考えています。クライアントのプロデューサー、ディレクター、プランナーさん達に安心してもらうためには「今サウンドはこういう状況で、将来こういうリスクがあるので、こういうテストしましょう」とか「こういうフローやシステムで実装をしましょう」という提案をするんですよ。そこができる人とできない人の違いってのが、ゲームエンジンを触れる人触れない人の違いに現れてるのかもしれません。
――おお、そこまで言えると確かに違いますね。説得力がある
大久保さん 単純に良い音、悪い音ではなくて、このゲームにはこういう意図があってこういう世界観でこういう遊びだから、こうアプローチをしてこう進めましょうとちゃんと説明や提案ができる。コンテンツに対して深く向き合いながら制作をすることができるかどうかは大切だと思います。
――私のイメージですが、サウンドの人は大勢おられて、「サウンド作ります」と言ってくれたり、Twitterでフォローしていただくこともあるのですが、それだけでは難しいのかもしれませんね。
大久保さん 自分の場合は、「サウンドで何かお悩みのことはありませんか?」とか「どういうところで悩まれてますか?」という方向からアプローチする感じでしょうか。UE4のブループリントってプログラマー以外の人がプログラミングやってもいいよという設計思想のもとに作られているんですが、そういうエンジンが登場してきたという時代背景も後押ししてアウトソーシングでも音を作るだけじゃなくて、設計だったり、組み込みまで含めてクライアントをサポートができるようになってきています。
――UE4を使って、いろいろなサウンドでできることをサイトで披露されていますね。
大久保さん あっ!こちらは完全に趣味ですね(笑)
――見ていると、「こんなことができるの?」と驚くことがありますね。
大久保さん そういった趣味で作成したものがクライアントが困ってる時に、実はこんなことができるんですよとか。提案につながることもあります。
――それ単体で、すぐになにかできるわけじゃないけど、悩んでいる人から見たら「それどうやるの?」ってニーズが結構あるんですね。
大久保さん そういう趣味で作ったものをたくさん集めて自分の中にサンプルとして持っていて、それが仕事に生きてきたりしていますね。ただゲームエンジンが扱えるだけでは難しい面もあります。CEDECでも話したんですけどインハウス経験がないと、やっぱり人が育てるのが難しいという現状があって、ゲーム会社のサウンド部署にいないと学べないことっていうのは結構あるんです。自分はそこで勉強したことが今に活きていることが多々あるんですよ。今後の時代は、アウトソーシングがどんどん中心になっていくと思うんですけど、このままでは人を育てるのが難しくなる一方だと思います。
この数年で汎用ゲームエンジンの普及に伴いサウンドクリエイターの働き方やサウンドのアウトソーシングのやり方にも変化が出てき…
――インハウスのご経験とは、一言では言えないでしょうがどういうものがあるのでしょう?
大久保さん 自分はインハウスで仕事をしていた時からずっとメモをとっていて、仕事の魅力は何かとか、いろんな職種があるとか、ワークフローに対する提案方法だったりとか、環境構築だったり困った時どうする?とか表現方法のアレコレなどをドキュメントとして蓄積してるんですよ。こういうTIPSが今は3000行くらいありますね。
TIPSの一例
ゲームサウンドづくりの魅力
- 作った音が「遊び」とつながる面白さ
- 単発の音をたくさん作って、それがゲーム上で組み合わさって一つの世界が出来るのが面白い
- 動いていない絵でも動いているように見えてくる力
- 20年作り続けても飽きない。この楽しみを世の中に知ってほしい
世界と連動してリアルタイムに変化する音(インタラクティブ)
- パンニングや音量、エフェクト、音楽が状況に応じて変化
序盤に決めないといけないこと
- 仕組み・仕様を決める
- コンセプトを決める
- 必要な人員やコストを出す
- チームビルド
- ファイル更新や管理方法
- メーリングリストやレポートラインの整備
などなど…
制作環境の構築
- スピーカーの位置に注意し、キャリブレーションをしっかりと行う
- ヘッドフォンは長時間つけても疲れないものを
- ラウドネスメーターで音量を監視
パラメータに乱数を持たせる
- PAN 0<>127の中で32~96の範囲内でランダムで鳴らす
- ex 森の中で聞こえる鳥の声など
- ex 雨の音を装飾する水の音など
予算が足りない!
- 作業効率を上げる チェックコスト、手戻りを減らす
- PCやツール類の整備 PCを良いものに。効率化ソフト。ミドルウェアを使う→バッチ処理はPCを変えるだけで劇的に速くなることも
などなど…
――おお、さすが現場で経験したメモだけあってリアルですね…
大久保さん これらのノウハウを持った上でクライアントの方と接してるんですね。これがない状態で「音をつくります」だけでは仕事につながらないのはそういうことだと思います。自分以外にもこういうインハウスでの経験を生かしたスタイルをとっている会社がだんだん増えてきているので、音だけを作り続けてきた人と差が出てしまいますよね。
――これは頼りになりますね。プログラマばっかりの会社が自社タイトルを作るときのような、サウンドの知見が少ない時などに喜ばれると思います。
大久保さん 社内にサウンドがいない会社さんだったら、どんなことで困っているのか?もしくは今後どんなリスクが予測されるかをパッと答えられるだけで安心して頂けて「では大久保さん、お願いします」みたいな流れになる事はあります。スタンスとしてはコンサルティングに近いのかもしれません。
――これは凄い説得力ですね。 本当にいろいろなことが書かれていますね。
大久保さん このTIPSですが、「ディレクターチェックはディレクターが忙しくて疲れている時を狙え!」とか「最初からダミーファイルをぶちこんでサウンド用のメモリーを確保しろ」とか、やったらダメな怒られちゃうテクニック?も書いてしまってますね(笑)
――いやー、これはインハウスでの開発経験や開発現場を踏んできた人ならすごくわかりますね。
大久保さん そうなんですよ、やっぱり自分にとってインハウス経験の有無は大きいと思います。
――チームで作る時ってコミュニケーションが大事ですし、そのとき「何につまったのか」いうのを参考にされていると別の開発で同じようなことがあるでしょうね。それがこうやって引き出しになってるのがすごい。
大久保さん 時にはずっとクライアントの悩みを聞くだけの時もあったりしますね。それも大事な仕事の1つだと考えています。
――それでうまく進むことがありますからね。なるほど。いや、今のは凄かったですね。本当にキャリアの中で積み重ねを感じました。
大久保さん こうやって書き出してみると1冊本が書けるぐらい色々あって、自分の経験してきたこととか、トラブったことは全部書いて「次に起こったらこうしよう」と。これは思考の整理にもなりますね。
――いや、勉強になりました。これはほかの分野でも役立つでしょうね。見ていて思ったのですが、仕事が細分化されて外注ばかりでやっていくと、こういうことって経験できないし、伝えられないですね。
大久保さん そうなんですよ。僕も何期か会社を経営してみてやっぱり業界の為に新しい人を育成していかなきゃいけないっていうのが最近の心の変化ですね。
――サウンドは外注が多いイメージがあって、時に素材やアセットを使うこともありますが、こういう相談はできないですからね。
大久保さん サウンドクリエイターを使わず素材だけ購入する方法も、それはそれで否定はしないです。予算や時間の制約もあるので。でも、やっぱりちゃんとお金になっているコンテンツとなるとサウンドもしっかりと作られていることがほとんどなんで、そこはお伝えしますね。「サウンドもしっかり作っておかないとコンテンツそのものが安物に見えちゃいますとか。となるとユーザもお金を出しませんよね」っていうお話をすることはあります。
――確かにそれはありますね。反対にサントラになって、何度も聞く名曲もありますからね。 話題は尽きませんが、若手の人、特にこれからまあサウンドでがんばっている若手の人のアドバイスをお願いします。
大久保さん 失敗を恐れないでほしいですよね。チャレンジをとにかくして失敗をする経験ってすごく大事で、それって若手の頃しか許されないですし、失敗から学べることも多いです。失敗の経験って、成長するためには絶対通過しないといけないので、失敗を恐れないで欲しいというのがまず1点ですね。それからもう1点あって明るくいてほしいですね。仕事で戦力にならなくても、明るい若手が入ってくるだけで、職場には良い影響が出るんで大事だと思います。暗い空気を出しちゃうと悪いことしかないんで、この2点だと思いますね。でもって目の前の仕事をちゃんとこなしていけば良いと思いますね。
――そうですよね。先ほどのメモを見ていると失敗しても次に活かせばいいんだ。と思いました。学生についてはどうでしょう?
大久保さん これは絶対自分の言ってることが正しいってわけじゃないんですけど、ゲームサウンドクリエイターって、狭き門だと思うんです。だから何としても業界に入って実績を作るところが第一条件ですね。学生さんと接してるとよく勘違いされるのが、「自分のやりたい風にやりたいことをやる」というのは確かにそうなんですけど、そこにこだわり過ぎて最初の一歩すら踏み出せないというのであれば、本末転倒なんですね。だから、まずデビューして実績を積んでいけば、転職とかは全然できる世界なので、まずは入ることですね。もちろんやりたいことを見つけるのは大事なんですけど、意外と実務経験を積まないと本当にやりたいことって見つからなかったりするものだと思います。結構あるのが、「地元じゃないと働きたくない」とか「あれがイヤ、これがイヤ」と言って、デビューできる可能性を狭めてしまっていたりとか。
――「~じゃないと働きたくない」は結構よく聞きますね。そういわずにどこでも引っ越してゲーム作るくらいの気持ちが必要ですよね。やりたいことにこだわるのも重要ですが、実務経験を積んでからでないと見つからないというのもその通りかなと思いますね。大久保さんも、やりたいことが仕事の中から見つかっていましたね
大久保さん そうですね。まずは業界に入ることだと思います。あと自分の周りだけなのかもしれないですけど、こんなに情報が溢れている世の中なのに、全然情報をキャッチできない学生さんが多いんですよ。ネット上とかゲーム開発情報とか、大量に溢れてるのに何も知らない子が多いなって思います。それは学校が悪いとかじゃなくて、学校の勉強だけじゃ絶対に足りないんですよ。学校の勉強だけで足りてると思ってる子が想像以上に多いですね。業界に入ってきている学生は、学校以外で自主制作をしていたりとか、ゲームを作るサークルに参加したりとか、自分の足でいろいろ見て回ってますね。conpassとかpeatixにも学生でも参加ができるゲーム業界のイベントなどがありますし、YouTubeとか、ゲームサウンドを作ってる人達のブログなど沢山情報があります。facebookやDiscordにも業界のコミュニティがあるので参考にしてほしいですね。
――これは永遠のテーマみたいなところがありますね。これは、自分たちももっとやっておけば…という後悔もあるから余計にみんな言いますね。
大久保さん 学校に行ってないけど、独学で習得して業界で活躍している人がいっぱいいるのも知ってほしいですね。視野を広げて、自分以外にどんな人が業界を目指してんだろうとか、そういう所まで見てみてほしいなあと思います。苦言になっちゃった。(笑)
――誰もがどこかの現場で痛感して、そして同じ思いをしないようにと後輩に忠告することだと思います。最後にプラスシグナルのことについても教えていただいていいですか?。
大久保さん 先ほども触れたのですが、今取り組んでいるのは新しい人を採用してチームとして動けるようにしようとしてるんですよ。ある程度の規模の仕事をやろうとしたら、このままではやっぱり限界があるのでプラスシグナルというチームで動けるようにしようと思っています。
ちなみにゲームサウンド以外も結構やってるんですよ。お化け屋敷のサウンドとか、医療機器のサウンドとか。なので、チーム化を進めつつもう1つ目指してるのがゲームサウンドのノウハウや知識を活用して、もっと様々な業種に進出していこうという野望?があります。
――UE4などが今どんどんゲーム以外の分野に出ますからね。
大久保さん そうなんです。会社としては主軸としてゲームはもちろんやるんですけど、それに加えてインタラクティブアートや、舞台演出など様々なことに進出していこうというのが、今後の目標ですね。実は今度UE4で作ったピアノアートを展示するんですよ。知人友人と複数でアートチームを組んでまして。ピアノを弾くと、その演奏で花畑ができるっていうアトラクションなんですけど、これもやっぱりゲームサウンドの発想だったり、技術が組み込まれているものです。ゲームではないんですけど、ゲームエンジンであるUE4を使ってます。これからも色んな事にチャレンジしてみたいと思います。
――今日はありがとうございました
インタビューを終えて
今回のインタビューを終えて感じたことですが、3000人の就職活動を乗り越え、20年以上ゲームサウンドの仕事に携わってきた大久保さんのサウンドとゲームを愛する姿勢が伝わってきました。また、3000行にも及ぶメモも圧巻でした。それは、20年以上の経験の中で起こった出来事の数々が書かれており、他の業種でも応用ができるように思いました。自分の仕事やゲームへの取り組みを改めて考えることができ大変勉強になりました。今後もゲームを作る人たちのヒントになるインタビューができればと思います。
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