トンデモクリエイターインタビューとは?
今回インタビューにお応えいただいたのは…?
今回は福岡博多に本社を構えるトライコア社の代表、由比建氏にインタビューを行いました。トライコア社はゲーム業界内外の業務を受託するだけでなく、自社開発したタイトル『夕鬼 零』が海外アワードで授賞されるなど多方面で成長しているゲーム会社です。代表の由比氏はプログラマとして開発に参加するだけでなく、専門学校で先生として後進の育成にもあたっておられます。
会社名:株式会社トライコア
事業内容:コンピューターゲームの企画・制作・販売 デジタルコンテンツの企画・制作・販売 専門学校等の講師業務 各種セミナー等の企画・運営 前各号に附帯関連する一切の事業 他
所在地:
【所在地】
福岡県福岡市博多区古門戸町10-20 博多古門戸アパートメント402号
トライコアって、トヨタ自動車のお仕事もしてるんだって!
https://www.tri-core.co.jp/works
インタビュースタート!
学生の頃からゲーム業界への就職を固く決意し、時に大胆なチャレンジを繰り返してきた由比氏。今回のインタビューではチャレンジと失敗と、そのチャレンジの中から見つけた答えも必見です。読んだみなさんも、私のように「!!?」と思うことでしょう。では、見ていきましょう。
――今日はよろしくお願いします。トライコアについて教えてください。
由比氏:トライコアは福岡のゲーム会社で、コンシューマーでのゲーム開発を経験したメンバーで独立して作りました。受託開発の他に自社開発したゲーム『夕鬼 零』をリリースして続編を開発しています。
■某有名社長もびっくり!「え、キミ高校生なの!?」
―― 誰もが子供の頃にゲーム業界に行くと一度は思うものですが、由比さんが本気でゲーム業界に行くと決めた瞬間はいつだったのでしょう?
由比氏: 小学生の頃からゲームを作るんだ。と思って『RPGツクール』に触れたりしていたんですけど、本当に決めたのは中学校の頃です。塾の友達連中で、みんなでゲームを作ろうとして、大失敗に終わったのがきっかけでした。チームで作る…はずが、僕がドット絵を描いて、シナリオも書いて、みたいになって失敗におわりました。でも、その時にゲームを作ること自体がすごく楽しくて、進路を決めました。
――チームワークの難しさを感じて進路を決めたわけですね。他にも由比さんは高校生のときに、ゲーム会社の会社説明会にも行かれたとか。
由比氏: 中学生の時からサイバーコネクトツーのゲームにハマっていたのと、当時サイバーコネクトツーが説明会やります。って告知を博多で積極的にしていたので、じゃあ行って見ようと(笑)会社説明会ですから、周りの人はみんなはスーツなのに、僕だけ私服でした(笑)
―― 会社説明会はスーツを着ていくもの。なんて高校生の時には知らないでしょうから仕方ないですよね。
由比氏: 高校を通して参加したわけではないので、制服で参加したわけでもなかったですね。説明会では質問もしました。何を質問したか忘れてしまいましたけど、結構イタいことを言いました(笑)
―― 質問まで…強すぎる…。その説明会には松山社長もいらっしゃったのですか?
由比氏: おられましたね。「え、キミ高校生なの!?」からはじまって、いい感じにコミュニケーションを取ってもらいました。
―― 松山社長も驚かれたでしょうね。高校生で会社説明会に参加して、得られたものはどういったものでしたか?
由比氏: ぼんやりとしていた「ゲームクリエイターという目標像」が、早い段階ではっきりと見えたのはとても良い収穫でした。
就活直前ではなく、なるべく早い段階で説明会等に参加することは、気持ちを固めるためでも、人生設計をする上でも、とても有意義だと思います。
―― 青春の1ページでもあり黒歴史でもあり…ですね。それが貴重な経験になって、専門学校に進まれたわけですね。
由比氏: そうですね、親にエンジニアになるならゲームの専門学校に行ってもいいと言われ、デザイナー志望だったのですがエンジニアの道を選びました。専門学校時代は真剣に勉強しました。入学までプログラムはやったことがないし、授業の教科書は分厚くて、知らないことだらけだしで、これをやり遂げないとゲームクリエイターになれないと思ったので、授業以外でも自習も取り組みました。その成果もあって、サイバーコネクトツーのインターンシップに受かりました。自習をガンガンやっていったのが大きかったと思いますね。
―― 目標にむけて必死に頑張ったわけですね。由比さんは現在、専門学校で先生もされていますがご自身が教える側になって感じることはありますか?
由比氏: 教える側になって感じたことは、授業はクラス全員の学習ペースに合わせるので、もっと高度なことを教える時間がないケースが多いということです。授業内容を理解できている場合はもっと難易度の高いことに自分で挑戦して、授業外で先生をつかまえてガンガン質問していかないと、ゲーム会社に入ってからの成長力にも影響してしまうと思います。
―― ゲーム会社に入ることが目的ではないですからね。先生も限られた授業時間の中で試行錯誤しながら授業を行っているのですね。
由比氏: 「もっと授業外であの子に教えたかった…」と思うこともあるので、卒業後に先生を捕まえて、より専門的な悩みを聞いてもらうのは有効かもしれません。
―― 最近はゲーム業界が新人に求める内容もより高度になっていますが、教師でもあり現役のゲームクリエイターでもある由比さんが感じることはありますか?
由比氏: ひと昔前は、ゲームを作りたいのなら、ゲームの根幹の仕組みを理解しないと画面すら出せませんでした。ですが今は、エンジンやアセットの質が上がったので、昔に比べて手軽にゲームを作ることができるようになりました。
―― 確かに由比さんが学生だった当時はゲームエンジンも今とは異なりますし、ゲームの作り方も異なります。それだけ進歩しているので求められるものも変わっているのでしょうね。
由比氏: 当然エンジンやアセットの質が上がることはいいことなのですが、ゲーム会社に入ってからは、エンジンを使うことだけでは身につかない、ゲームの根幹の仕組みの知識が必要とされるケースがそれなりに存在します。今の新入社員の方々は、総合的なゲーム作りの力は高い反面、どうしてもその辺が不足してきてしまうので、必要になった際に改めて根幹の仕組みを学習しなおすのは、気力的にも技術的にも大変だなと思います。
■入ってみたゲーム業界。痛感したゲーム会社で働くのに大切な要素。「コミュニケーション」
―― 実際に、入ってみたゲーム業界は想像していたのと違いましたか?
由比氏: 学生の時にゲーム作りはチームでやるものだ。と授業で散々言われていたんですけど、「とはいえ、僕はプログラマーだし指示もらってそれをやってればいいんでしょ?」と思っていました。が、そんなことはまったくなかったです。自分で考えて、仕事を組み立てて、コミュニケーションをとって…っていうのは本当に必要だと感じました。これはどの会社、どのチームでも同じだなと。
―― そうですね。ゲーム会社でのチーム開発は専門学校でのチーム制作とは違いますよね。
由比氏: 規模も違うし、年齢や経験も違う人と共同で開発をするので、チームメンバーの連携をとるのがとても難しいです。
同年代と違い、気持ちを汲むのも大変で、チームメンバーとの共通知識が前提のスピーディな話し合いが展開され、開発速度が専門学校のチーム制作と全然違いますからね。
由比氏: この辺が苦手だと、会社に入ってから苦労するのかなと思います。特に「あのゲームのアレを実装して」「あの映画のあの場面の感じを出して」という、少し前のエンタメ作品を知ってて当然のものとして会話に出され、苦労した面が多々ありました…。よく話に上がるものはきちんと知っておく必要があると思います。
―― ゲーム会社の人は忙しい中でも最新作をチェックしていたりするので、チーム内で話題に登るものは押さえておきたいですね。由比さんが実際に就職して、チーム制作で相手の気持ちを汲むことなどのコミュニケーションの重要性に気付いたのはいつくらいでしょう?
由比氏: 正直に言うと、入社後1年から2年目くらいだったかなあと。インターンで先輩にコミュニケーションの大切さを教えてもらったのがすごく大きかったですね。と言っても、当時の僕はコミュニケーションの経験が不足していて、先輩を困らせてしまった自覚があります…。当時の先輩に合うと今も言われますね(笑)チーム制作の経験がほとんどなかったのも原因なのかなと思います。
―― 新人だと結構トンガってる人もいたりしますし突っ走ってしまう人もいますからね。会社はわかってくれないなあって思う時もありますし。話は少し変わるのですが、ゲーム会社に入ってみて周りにすごいスキルを持つ先輩や上司がいて、とても真似できないと思ったりもすると思うんですが、そういうことはありましたか?
由比氏: すごい人は本当に多かったですね。一生追い付けないんじゃないかって思うくらいすごい人がいっぱいいるんです。でも、そこであんまり落ち込まないのも大事です。自分のできるところ、長所を見つけてチームに貢献していくことが大事だと思います。
―― 由比さんが自分のできるところ、長所を活かしてチームに貢献したのはどんな事でしたか。
由比氏: 自分なりの長所を作っていこうと感じることがあったので僕は、他の人があまりやりたがらないけど自分が苦にならない事ができるように注力しました。エクセルからデータを読むとか、チェック範囲がやたら広いとか、他部署と調整がいるとか。こういうプログラマが苦手なことをやっていった結果、班を任せてもらったり、今のゲーム制作でメンバーを引っ張っていくことに生きているのかなと思います。専門学校の授業ではエンジニアでもイラスト制作や英語の授業もあるんですけど、これも意味があったと思います。プログラムの最前線は英語ですし、社内でデザイナーの手がふさがってしまったときに、自分で自社のサイトやUIを作ってみた時に役立ったと思います。
ゲーム会社勤務から独立へ。海外展開も。
―― いろいろな経験を積んで、独立して自分のゲームを作ろうと思われたのですね。
由比氏: 勤めていた会社では大きなタイトルにも取り組んだし様々な経験もできたんですけど、ちょっと不完全燃焼な部分がありました。僕が小学生の時に思い描いたゲームクリエイター像に「ゲーム雑誌で殿堂入りになる」とか「有名コミック雑誌に載る」とかいろんな目標を持っていたんですけど、自分の中で思い描いていたイメージとは異なる形でクリアしちゃって、自分が1から作ったタイトルで勝負したいという気持ちがありました。
―― 会社を始められて3年が過ぎたとのことですが、由比さん自身が変わったことはありますか?
由比氏: 元々、僕は内向的な性格で人に会うのも苦手でした。トライコアの代表になってからは、社外に出ていろんな人の話を聞いたり吸収して、その内容を社内のスタッフに共有したりするようになりました。日々成長させていただいています。
―― ご自身にも大きな変化があったのですね。その他にもこれまでしたことがないことにチャレンジする中で得たものはどういうものなのでしょう?
由比氏: 高校生の時に会社説明会に行ったのは例なんですけど、ゲーム業界って右も左もわからないけどとにかくチャレンジをすると意外と、優しく教えてくれる人もいるんです。それで、チャレンジに失敗した時もなぜチャレンジに失敗したのかを分析していくと、次にチャレンジしても失敗しなくなるんです。これって、大事だと思うんです。
―― そのチャレンジがつながって今に至るわけですが、今もチャレンジはされておられるのでしょうか。
由比氏: トライコアとして独立した今も、チャレンジはしていますね。英語もそんなに得意じゃないけど、自社タイトルの『夕鬼 零』を台北ゲームショウに出展しようと決めたんです。グーグル翻訳を駆使したりしてなんとか出展しましたが、台北ゲームショウ2020 IndieGameAwardのVR部門の大賞をいただきました。
―― アワードの受賞おめでとうございます!まさか台湾ゲームショウも大胆なチャレンジだったとは。その『夕鬼 零』はどのようにはじまったのでしょう。
由比氏: 企画の起こりからして、「作れるものを作ろう」と決めていました。どこのディベロッパーでも、最初の自社開発って準備時間もお金もかかるのですけど、時間もお金もかかるからこそ自社開発以外の業務にも時間を割いてしまってなかなか開発が進まない。ということがあるので、僕たちは無茶でもいいから自分達が今できるゲームを作ろう。と考えていました。元々、3年間お金を貯めてそのお金で半年の開発期間を確保してゲームを作ろうと計画していたんですが、3年は長いし、半年で作ったゲームをただ出してもがヒットするとは思えないので、その前に宣伝にもなるゲームを作ろうと考えて今回のビジュアルノベル+VRの『夕鬼 零』を作り、次回作のアクションホラーにつなげようと考えました。
―― 『夕鬼 零』は国内外のメディアでも高い評価を得ていましたね
由比氏: ノベルという性質上、ゲームじゃない。という意見もありましたが、地元の小学生に協力してもらって、スタッフが持っているドローンで彼らが走っている姿を撮影してオープニングムービーにしたり、街の駄菓子屋さんに交渉して店内の撮影に協力してもらいました。ほかにもシナリオにジェンダーなどセンシティブな内容を入れた点が評価をいただいたのかなと思いますね。IGNではメタスコア9点をいただけましたし、海外の方から人生観が変わったと言っていただいたりしました。
「命を削らないゲーム開発」を目指したスタジオが描く、平成初期ならではのホラーとは……。…
―― 登場人物は確かにセンシティブな部分もあって様々な「怖さ」が表現されているなと思いました。
由比氏: 最初の社内ブレストの中で、自分たちが小学生の時に何が怖かったのかを話し合って出たのが、「真っ赤な夕方に帰る時が怖い」とか、「夕焼けに伸びる影が怖い」って言う話が出ていました。他に怖いモノとして、理解しがたいオトナ、不審者が挙がったんですね。それで、生徒に向けて全力で「おはようございます!!」と言ってくるおはようおじさんを登場させました。なぜ、そうなってしまったのかも作品の中で描いています。作品のテーマに小学校高学年の頃に急に視野が広がったことでの根拠のない万能感や、大人に対する不信感を込めたりして、その辺はうちのライターが頭をひねりましたね。
―― 視野が広がることでの次回作は同じ世界観で、アクションなんですね。
由比氏: 同じ世界観で同じライターが違う登場人物を書いていますので、楽しんでもらえると思います。歩き回りながら、隠れたりして進んでいく内容ですね。現在開発を進めていて、メインプログラマーを自分がやってるのはちょっとやりすぎだったかなと思っています。社長をしながら、開発もしながら、先生もしながらなので何足もわらじを履いてる状態ですね(笑)
―― 日々チャレンジされている姿勢は勉強になりました。今日はありがとうございました。