『湖ノ狼』インタビュー
今回は、『湖ノ狼』インタビューをお送りします。山形県村山地方に伝わる「藻が湖伝説」に着想を得た本作はどのように作られたのでしょうか。
早速見ていきましょう。
『湖ノ狼』について
狼が仲間を探して湖を渡る。という探索型のゲーム。三人称視点で狼を操作、実際の山形県の地形をベースにしたマップを探索しながら仲間を探していきます。
狼たちの行く手を阻むのは巨大な湖。この湖はかつて山形県の村山地方に広がっていたとされる「藻が湖」であり、本作はこの湖を現代に伝える「藻が湖伝説」から着想されています。
時の流れとともに痕跡が消えてしまった「存在したかもしれない」存在を、民俗学的な視点から見つめ、新たな解釈で物語化。その世界観を美しいビジュアルとともに体験するというゲームになっています。
ゲームデザインと開発は東北芸術工科大学の鹿野研究室。使用エンジンはUnreal Engine 5。山形ビエンナーレ2022でプレイアブル展示されます。
■開発について
・『湖ノ狼』開発のきっかけについておしえてください。
2022年の2月に「大歳ノ島」という作品を公開したのがきっかけで、山形ビエンナーレのキュレーターの1人、三瀬 夏之介さんに展示のお声がけをいただいたことです。彼は「藻が湖伝説」に関するプロジェクトを進めており、そこで文化財とアートが混ざり合う空間にて、ゲームを展示するというチャレンジをすることなりました。
湖ノ狼
https://www.zugakousaku.com/okami
大歳ノ島
https://www.zugakousaku.com/otoshi
山形ビエンナーレ2020「現代山形考 ~藻が湖伝説~」 https://biennale.tuad.ac.jp/project/yamagatako
・開発チームは何人くらいでしたか。
4名になります。開発期間が短期だったのもあり、全体の企画やビジュアル、プログラミングに関しては私が1人で進めました。地形解析は当研究室に所属している学生の齋藤光佑氏、一部の文化財のモデリングに株式会社ニコンの中川源洋氏にサポートいただきました。小道具では鹿野松太郎氏にアドバイスをいただき、テストプレイに関しては家族にも協力してもらっています。
・開発で苦労されたところは?
なによりも開発期間が数ヶ月と短期だったことです。大学での仕事をしながら合間を縫っての開発になりましたので、とてもハードでしたし、何よりも無駄のない効率的なモデリングやプログラミングが求められました。アセットも積極的に利用し、徹底的に開発工数をコンパクトしながら、ビジュアル表現やユーザー体験をしっかり作り込む工夫をしています。
・ゲームエンジンは使っていますか?
Unreal Engine5を使用しました。アルゴリズム部分はすべてBlueprintで実装できました。C++は使用していません。
■ゲームについて
・本作のモチーフとなっている山形県村山地方の「藻が湖伝説」をゲームにしようと思ったのはどうしてでしょう?
藻が湖伝説が非常に魅力的な物語だったからです。これは山形の村山地方が大きな湖だったという、とても興味深い伝説です。そんなことはあり得ない、と現実的に捉えることもできるのですが、古文書に記されていたり、あたかも湖があったかのような「船着観音堂」や「貴船神社」といった地名や文化財が残されており、とても浪漫のある世界だなと思いました。
「藻が湖伝説」について(宮本晶朗氏)
https://www.tuad.ac.jp/gg/column/4074/
コンテンツ市場がグローバル化すればするほど、私は日本のローカルな魅力を発信するチャンスなのではないかと考えています。地域の民俗的な伝承や風習などは、世界中のどこを探してもない、唯一無二ものである可能性があるからです。すなわち自分達の生まれた地域の小さな昔話や歴史に、世界をも魅了する圧倒的なオリジナリティがあるのではないかと思うのです。
・本作のおすすめのポイントを教えてください。
狼たちと旅をするような面白さができることです。あれ?これ以上進めないのかな、仲間はまだいるのかな?と手探りでゲームを進めていくうちに、小さな冒険をしているような感覚になってもらえたら。そうした体験のために、ユーザーを自然に導くためのレベルデザインを心がけました。
また、このゲームには強大な敵もいませんし、難解なトリックもありません。展示用ゲームということもあってプレイ時間も長くなりすぎないよう慎重に設計し、操作も極力シンプルに、アナログスティックの移動だけで行えるようにしました。
こうした引き算とは逆に、神話のような世界観を表現すべく、多様な解釈ができるビジュアル表現の密度は高めにしてあります。周りに展示してある文化財やアートと関連づけながら「藻が湖伝説」という魅力的な世界に想いを馳せる。そんなゲームを目指しました。
・狼たちが駆けるフィールドは実際の村山地方を再現しているのでしょうか?
実際の地形を国土地理院の情報ベースにしてモデリングしましたが、展示するゲームの規模感に合わせて、縮尺を調整しています。プレイがより面白くなるような距離感や、より山形の盆地が表現できるようなスケール感を表現しました。
・一部のオブジェクトはニコン社の「郷土芸能や民俗芸能の継承や文化保存のための3Dアーカイブ」を使用されていますね
株式会社ニコンのチームは以前から山形ビエンナーレに参加しており、そこで3Dアーカイブ技術を活かした文化財の記録を進めてきた実績があります。非常に意義のある取り組みに感動しまして、今回その3Dモデルを有効活用する一環として「湖ノ狼」の中でデータを使用させていただきました。
・本作の今後について教えてください。(展示予定などがあれば)
「大歳ノ島」「湖ノ狼」と二つのゲーム作品の展示をするなかで、Steamなどでリリースしてください、という要望をいただくことがあります。今後は配信することを念頭においたゲームも制作してみたいと考えています。
■研究室について
・研究室のご紹介をお願いします。
鹿野研究室は、東北芸術工科大学の映像学科にあり、コンピューターグラフィックスを用いた表現、ビジュアルデザインについて研究や制作を進めています。今後はUnrealEngineを代表するリアルタイム3DCG表現を軸に、新しいゲームのあり方や、社会課題をテーマとしたインタラクティブな表現に力を入れていきたいと考えています。
未来派図画工作のすすめ(その他の作品紹介ページ)
●ありがとうございました。
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