インディーゲームインタビュー
様々なゲームクリエイターに開発したゲームについてインタビューする本企画。今回は『虹の降る海』について、開発チームにインタビューをしました。本作はAppStroreとGoogle Playで配信されており、ドット絵とキャラクターグラフィックが特徴的な和風ADVゲーム。内容は宝船で七福神と交流しながら一年間を過ごすものになっていて、選択肢によって22のエンディングを迎えることができる一作。満足できる内容を求めた結果、シナリオの量もどんどん増えていった本作はどのように完成したのでしょうか。さっそく見ていきましょう。
■開発について
●開発のきっかけ
「冠を持つ神の手」というゲームの影響が大きいです。
「かもかて(冠を持つ神の手)」は吉里吉里2で作成されたフリーゲームで、このゲームのおまけとして公開されていた「二次創作キット」でゲーム制作を始めました。
テキストタグをファイルに書き込むだけで「かもかて」の世界観を使った二次創作ができるツールで、それだけではゲーム制作とは少し違うのですが、そこに簡単なスクリプトを追加することもできました。スクリプトを追加するだけで、キャラクターにアイテムを持たせたい(変数管理)、時間によって明るさを変えたい(条件)など自由度が高まり、世界を操っているような気持ちになれて楽しかったことを覚えています。とは言っても当時はプログラミングの知識はほとんどなかったので、「tjs2 XXXXX(やりたいこと)」でググってほとんどコードをコピペしていました。
その頃から自分の中の世界観でかもかてのようなゲームを作ってみたいと考えていたのですが、みなさんご存知のようにどうしても「エターナる」んですよね。ひとりでゲームをコツコツ作るのはとても大変で何度も何度も挫折し、作っては途中の状態で諦めてしまうということを繰り返しました。どうしようもない状態で、偶然Twitterで見かけたUnityゲーム開発者ギルドというコミュニティに参加したのがもう一つの大きな転機です。
そのコミュニティの人たちと一緒にUnity1weekという企画に参加して短い時間でもゲームを完成させる体験をしたり、そこでイベント情報やアセットの情報を追ってみたり、困ったときに助け合えたりして(と言いつつ私は教えてもらうばかりでしたが)、ずっと心にあった「虹の降る海」制作に着手することにしました。「かもかて」をプレイしたあたりからずっと作りたいと思っていたのですが、結局完成まで10年程度かかってしまったことになります。
●開発チームは何人くらいでしたか
私とイラストレーターさん、それからコンポーザーさんの3人で作成しました。
●開発で苦労されたところは?
全体的な作業量の多さです。もちろん楽しかったので続けられたのですが、苦労しなかったところはありませんでした。やはり個人/少人数のゲーム制作は一人当たりの膨大な作業量が一番の壁になるのではないでしょうか。私はそれで何度も挫折しました。このゲームはマップを移動(ドット絵、音楽、効果音)、キャラクターと交流(立ち絵)、イベントが発生(シナリオ、音楽)、セーブロード(UI)などの要素があり、もちろんそれぞれにコードを書いていく必要がありました。コードを管理していたGitLabでタスク管理をしても全然減らず、自分でテストプレイをしているとバグを発見してしまうのでむしろ増えていくといった状態でいつになったらリリースできるのだろう……と思いながら作業を進めていました。
ゲームを完成させるには規模を小さくするのは鉄則ですが、せっかく素敵なイラストや音楽をいただいている手前、妥協したくないという気持ちがあり、結果的に「すごく頑張る」という低次元の解決方法に陥りました。特にプログラミングでハマってしまうと時間がどんどん溶けていくことと、他の人にお願いしている分はその方が忙しいときなどは自分にはどうしようもできないことが大変でしたが、今回どの作業にどれぐらい時間がかかるのかが少しわかるようになったので、次回は手を動かす前にきちんと設計して少しでも先の見通しをよくしたいです。
それ以外の点としては自分の中でも面白いと思うゲームを作りたかったので、シナリオの内容を満足できるまで書こうとしたら100イベント以上16万文字になってしまい、推敲、実機での確認が大変すぎました。でも大量だった分、自分が毎回完璧にはストーリーを覚えていられないので、あ、このキャラクターここでそういうこと言うんだ、という新しい発見が毎回あって自分でテストプレイしていて面白かったです。
また、終盤の作業は終わりが見えているのにもかかわらず本当の終わりがなかなか来ない状態が結構きつかったです。自分自身もこれがアプリ初リリースということで無名で誰にも注目されていない中でテスターさんを集めることに苦労しました。プレイしてくれた友人には本当に感謝しています。完成まであまり見せたくないなと思ってそんなに情報を公開していなかったのですが、私程度の知名度の作者は死ぬ気で宣伝してやっと見てもらえるか見てもらえないかだと思うので情報発信はもっと頑張ろうと思います。
■ゲームについて
●おすすめのポイントを教えてください
イラストは一押しですがその魅力は一目で伝わりやすいと思うので、ここではサウンドをおすすめします。日常モードで聴ける曲、イベントの雰囲気にあった曲、各キャラクターのテーマ曲など心に沁み渡る和風チップチューンがとても素敵でおすすめです。
もう一点、シナリオは好みが分かれるとは思うのですが、切ないストーリーにうまくハマってくれるタイプのプレイヤーさんだと全部のイベントを見て楽しんでいただけるようです。
●開発チームお気に入りのポイントを教えて下さい
私は世界観が気に入っています。キャラクターデザインの細かい意匠や音楽も非常にこだわっていただき、シナリオとマッチした世界観が表現できたと思っています。
+ ハラパさん
ベンテンさんとビシャモンさんが好きです
+ Andyさん
サウンドは「チップチューンと和楽器による世界観を楽しんでいただけたら」と思って作成しました。
ドット絵+和風のキャラデザ、ということでチップチューンと和楽器を組み合わせる、というコンセプトは決まってました。
和楽器の個性的な音色を活かして、どこか儚く切なく懐かしいメロディを、
ドット絵の世界観をサポートするファミコンを彷彿させるチップサウンド。
和楽器は奏法なりである程度使い方が決まってくるものの、課題は、全曲に渡りチップチューンをどう扱うか、でした。
例えば、チップチューンだけならファミコンの曲を参考に出来るのですが、今作は和楽器と組み合わせる際の棲み分けを特に気にしましたね。。
「親しみやすいメロディ」「どのキャラの曲かすぐ分かるように」「チップチューン、和楽器、それぞれの良い部分、切ない部分を使う」
そんなイメージで作られたのが、虹の降る海のサウンドです。
プレイしてくださった皆様に、好きな曲が一曲でもあったなら嬉しいです。
ゲーム中の特に好きな部分はおふくが「選択次第でどんなifの存在にもなれるところ」で、とくに後半から各エンディングに向けてのイベントが豹変する部分が好きです。
各キャラもおふく次第で未来が変わっていく、のが切なく、儚く、あたたかい
どのエンディングも「なるほど…こういうパターンもありだな~うんうん」って…
ここが面白くて、全パターン絶対見たい‼︎ ってなりコンプリートしました。
グッドエンドはもちろん感動なのですが、怖いエンドもそれはそれで良くてちょっと癖になってました。
おすすめポイントは、「全てを閲覧達成したくなるマルチエンドも含めた豊富なイベント数」「七福神のイメージを一新し、美麗に描き直した新たなビジュアルによる解釈」「ドット絵という制限された表現の中に宿る世界観」です。
■チームについて
●チームの紹介をお願いします。
本業の傍らで個人開発をしています。ですので基本的には一人です。
今回のチームでは、イラストレーターさんは以前からTwitterでイラストを見ていて素敵だなと思っていたハラパさんに立ち絵だけ一枚当たりの依頼という形でお願いしようと思い切ってお声がけしたところ、予想以上に興味を持ってもらえたため、キャラクターデザインやドット絵も含めて一緒にチームとしての形で制作していただけることになりました。
立ち絵はもちろん、元々私が描いていたドット絵も非常に可愛くリメイクしていただき、おかげさまでゲーム全体がとても魅力的になりました。
AndyさんにはBGMと効果音をお願いしています。Andyさんは音の園という素材サイトを開設していて、そちらの音楽素材を使いたいなと思ってずっと聞いていたのが知ったきっかけでした。
虹の降る海は和風モチーフなのでドット絵に合うようなチップチューンBGMを使いたいな~と思っていたのですが、和風チップチューンというもの、この世になかなか存在しないんですよね。そこで、最初は自分で作ろうと思ってmagical 8bit plugというプラグインについて調べていたのですが、このときAndyさんの記事に出会いました。
少し前の記事ですし最近の曲を見てもチップチューン系の曲は作っていないようだったのですが、TwitterもフォローしているAndyさんとの勝手な再会に感動し、依頼を受け付けていらっしゃるとのことだったのでこちらもダメ元でお問い合わせしてみました。お忙しい中ようだったのですが融通をきかせていただき、和風なチップチューンという無理なお願いも聞いていただけました。七福神、初夢に関連したゲームということで1月1日のリリースに間に合わせたかったのですが、本当にキャラクターの雰囲気などを非常によく理解していただき、12月31日の最後の最後までリテイクに対応してもらえたおかげでとても雰囲気にマッチした楽曲になってくれてよかったです。
●次回のリリース予定などについて教えてください
虹の降る海は私が担当している部分はほとんど終わったのですが、お二人にお願いしている立ち絵もドット絵も、効果音もまだ緩やかに更新している最中ですのでユーザーの皆様にはゆっくり楽しんでいただきたいです。
また、英語版もリリースしました。次回作は水面下で息抜き程度にごにょごにょやっています。いつかコンシューマゲームを作りたい気持ちがあるので、そのためにはPC向けのゲームを作った方が良いと思うのですが、本作のリリースのフィードバックでスマートフォン向けのアプリゲームの知見が少したまったので反省点を生かしながらもう一本だけスマートフォンでゲームを作ろうかなと思っています。宇宙の話の予定です。お話のボリュームは抑えるけれど内容の密度は保ちつつ、今度は操作性でプレイヤーさんを苦労させないように頑張ります。
●この記事をご覧の開発者や学生の皆さんに一言お願いします
ゲームをリリースするのって大変ですよね。Unity1weekなどの短期間のゲームジャムで何かに追い込まれながら小さい作品を作るのだって本当に大変だしできる人はとてもすごいのですが、自分以外に楽しみにされていない、でも自分にとっての渾身の一作をリリースするのは本当に本当に厳しい道のりでした。
ただリリースしたことで、何者なのかわからない私のゲームでも遊んでくれる人がいること、インディーゲーム自体を応援してくれる人がたくさんいること(特に最近はそういう流れがあって嬉しいですよね)、自分が好きなゲーム、自分しか好きではないかもしれないゲームを作ったのに他の人も好きになってくれることがあることがわかりました。私のゲームは広告ありの無料ゲームなのですが、投げ銭で支援していただいた方に攻略ページのパスワードを渡す仕組みにしたところ、予想以上に支援していただけて、無料でも遊べるゲームを応援してくれる人がいるなんて!という嬉しい驚きでした。自分の好きなゲームを作れるのがインディーの良いところだと思うのですが自分のためだけにどんなに独りよがりに作っても、結局遊んでもらえるのが楽しいということが今回のリリースでよくわかりました。一緒にリリース頑張りましょう!
前回のインディーゲームクリエイターインタビュー記事はこちら
目次 1 インディーゲームインタビュー1.1 田平 […]…
こちらの記事もチェック!
和風サイバーパンク仮想世界「UKIYO」を舞台にしたADV『浮世』インタビュー!開発メンバーが集まった経緯にも注目!
プレイヤーにエゴを肯定してもらいたい――あなたのエゴを認めたい――新・学園RPG『モナーク/Monark』インタビュー!
ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)
スキルや知識を学びゲームクリエイターとして成長・活躍し続けたい、同じ業界にいる仲間と市場の動向や技術についてなどの交流したい、日本のゲーム業界・職業自体の価値を上げ今より良い環境を作っていきたい……。そんなゲームを愛する人たちの未来に、必要な情報や機会を提供します。
ゲームクリエイターズギルド公式サイト ▶ https://game.creators-guild.com/
▼学生向けLINEの登録はこちらから!
▼社会人向けLINE登録はこちらから!
GCG会員になると開催予定のスケジュールの確認やWEB会員証をゲットできます。