「ゲームはおもしろい、ゲームを作ってる人も実はおもしろい」
多種多様な技術を持った人々が集まるゲーム業界。あの魅力的なゲームたちは、どんなゲームクリエイターが生み出しているのか。ベールに包まれた「ゲームクリエイター」の生態を解き明かし、この地に生息する「ゲームクリエイター図鑑」の完成を目指す。その過程として、一部のレポートを公開しよう。※今回は、ゲームクリエイターズギルドの宮田も参加し、意見交換をしています。
クリエイター図鑑 No.006
今回、お話をお聞きしたのはインフィニットループ代表の小野真弘氏。副社長として同社を長年にわたり支えてきた小野氏は2023年8月に代表取締役社長に就任。
自身の体験を交えながら、同社の理念である「地方からの技術発信」「最先端の最後尾を独走する」についてとても熱のあるお話を聞くことができました。また、インフィニットループは北海道札幌市、宮城県仙台市にグループ会社を持ち、高い技術とゆるい社風が特長となっています。そんな同社の様子をご覧ください。
https://twitter.com/iloop_sapporo/status/1760588630371029468 「ゲームはおもしろい、ゲームを作ってる人も実はおもしろい」多種多様な技術を持った人々が集まる[…]
「地方でもしっかり発信ができる」ことを証明する
──インフィニットループ(以下、IL)はサッポロファクトリーに入られていて、珍しいところにオフィスがありますね。
確か4回くらい引っ越した過去があるはずなんですよ。人数が増え業務拡大に伴い次々と引っ越しを重ねていて。私がパートナーとして参加してからも2回は引っ越しています。商業施設でもあるサッポロファクトリーを選んだのは、単に面白そうだからなんですけど(笑)他のビルなどの内見もしましたが、一度サッポロファクトリーを見てしまったのでどうも引っ張られちゃいました(笑)
──たしかに魅力的ですよね。商業施設の中にあって面白いですし。
天気が悪い時に館内でランチやちょっとした買い物が完結するんです。真下がロッテリア、その前にゲームセンター、斜め向こうに映画館。これは素晴らしいんじゃないかなって(笑)
──わかります!ゲーセン近いのは最高ですね。
今のオフィスはもともとは電力会社さんのショールームでした。サッポロファクトリーって1~3棟あって、1条館と2条館が商業施設でお店が入っていて、3条館がオフィスなんですよ。本来は入るとしたら3条館なんですど、「1条館のここ空いてますよね?」「いいえ、ここはテナントなので」といったやりとりを繰り返した結果、ご納得いただけたようで。
じゃあってことで入りました。(笑)
──なんとかしてここに入ろうと(笑)
もしかしたらサッポロファクトリー内でもちょっとイレギュラーかもしれません。個人的なことを言うと、ススキノがちょっと遠いかな、と。
──呑みに行くのに遠い(笑)そんなこんなでかなり広いオフィスに入られたわけですが、現在170人いらっしゃってまだまだ社員を増やしていく感じですか?
その予定でいますね。ゲーム開発会社って、首都圏にしかないと思っている学生さんは実はまだまだ多くて、たまに学校の先生でもそう思っている方がいらっしゃいます。実際に「札幌でやられてるんですね」って驚かれることもあるんです。ILの創業ポリシー・コンセプトでもある「地方でもしっかり発信ができる」ことを証明するために、受け皿の会社の1つでありたいという気持ちは強くあります。
ただ人数を増やすことだけがビジネスとして本当にいいことかとは別としては、地方でも何ら遜色なくやっていけますよっていうのを証明するためにも、これからも元気に拡大していこうと思っています。
──地方から発信ということでいうと、札幌にはゲーム会社が結構ありますね。
デベロッパーさんを中心にたくさんいらっしゃいますね。そしてどういうわけか札幌と福岡はゲーム会社同士が仲良いなと思います(笑)南北で連携してるのいいなと思ってます。
──たしかに、CEDEC + KYUSHUにもVRを出展されていますね。
まずVR事業は5年くらい前に、もともとは社内の部活動から始まり、プロダクトができあがり、これが後に『バーチャルキャスト』というVRのコミュニケーションプラットフォームのサービスとなることで事業化・子会社化したという経緯もあり、やがてCEDEC+KYUSHUに出展させていただくことになりました。
『バーチャルキャスト』は配信特化型で始まり、やがて教育支援にも展開してきたのが現状ですね。
──教育ツールとしてどういう使い方をされているんでしょう?
ネット高校にN高がありますが、こちらの授業の補助ツールとして、例えば宇宙空間に自ら飛び込んだかのような体験をするなど、非日常を体験するのに活用しています。
──それはわかりやすくて、良さそうですね。
想像だけではなかなか理解しにくいものに適していると思っています。
──その1か月前の2023年8月に、小野さんが社長になられて松井さんが会長になられましたね。
2023年は変革の年なんですよね。『バーチャルキャスト』は一つの役割を果たし到達したことである種の区切りとなりました。この区切りと社長交代は時期が同時期になったこともあり、松井やその他キーマンを筆頭にさらに挑戦することができる環境が得られました。目下新規事業に着手中です。
──どんなことをされているのでしょう?
事業について具体的にこれだ!と申し上げるのは難しいのですが、最近流行の生成系を取り込んだ可能性も探っています。AI関連は多分、ゲーム系デベロッパーの中では積極的な方だと思います。実際のプロジェクトに部分的に導入してみたり、あるいはそのための調査研究をしたり、開発者の生産性向上を目指したAIツール導入なども積極的です。権利の問題が話題になりますけど、それをもちろん理解した上で、使える範囲で積極的に使っていくのが今のスタンスですね。
──かなり広範囲に使われているのですね。たしかに権利の問題もありますね。
プログラマーにしてもデザイナーにしても、AIツール活用に共通して言えることは、生成されたものが妥当なのか・正しいのかといったところを人間側でレビューする必要が当面はあるということだと思っています。よく「人間はAIに仕事を奪われる」といった話も聞きますが、逆でむしろハードル上がって仕事が増えているんじゃないかと思っています。もっと人間がんばろうって(笑)
新卒採用に力を入れる
──新しい技術にも積極的に取り組みながら、新規事業を動かされているわけですね。少し話はわかりますが、仙台にも事務所がありますが、それも採用の一環でしょうか。
2016年に仙台支社をつくりました。いろいろ背景がありましたけど、やっぱり札幌で人数を増やしてきたものの推移に限界はあったので物理的に拠点を増やし仲間を増やしていこうと決断しました。なぜ仙台だったのか?というのもよく聞かれますが、単純に近いからというのがひとつ、もうひとつ重視したのは人口です。札幌が200万人にとどかないぐらいで、仙台は100万人前後、ちょうど2倍の関係で、そのスケール感なら同じような採用モデルでもある程度は戦っていけるのでは?という見込みと、ILの地方から頑張ろうという方針にもマッチしていたので決めました。
──仙台は学校も多いですし、地元で働きたい人も多いでしょうね。
大学もありますし、仙台市には高専が複数あるんですよね。東京に行く人もいますが、地元や好きな場所で働きたい需要は全国でも増加していると聞きますし、それらがかみ合って現在で35名ぐらいですね。仲間づくりを頑張りたいのも仙台での目標です。
──採用の話ですが、新卒採用もされているんですか
4~5年前からついに新卒を本格的に採用をはじめ、2023年で10名を採用実績、2024年も16名の内定が決まっています。札幌や仙台の出身者が多いんですが、たまに大阪とか道外の方もおられて、きっかけがゲーム開発よりVR開発だったりもありますね。社内教育も試行錯誤ではありながら着々と進めています。人生に一回しか切れない新卒カードを切ってILを選んでくれたからにはしっかりを迎え入れようという思いもあります。170名くらいの体制になって、ようやく間接的な業務へのゆとりがが生まれたことも影響していますが、これからも継続できたらと思っています。
──新卒採用も力を入れていますが、YouTubeに小野さんそっくりなキャラが登場する動画もあったりで、会社案内などにも力を入れていますね。
ゆっくり解説の動画はですね、当時社長の松井の重要業務だったと聞いています(笑)ありがたいことです。制作~監修まで100%松井ひとりで担当していたんですよ。
──え、あれ松井さんが作ってるんですか?
ゆっくり動画へのこだわりと品質があったのだと理解しています(笑)ほぼ完成に近づいた段階で私が(キャラとして)出演していることに気づきました。
──え、知らんなかったんですか?
もしかしたら極秘プロジェクトだったのかもしれません(笑)。おかげさまで私はまあまあいじられることも多く助かっています。そんな動画も今や会社のホームページで一番最初に出てますからね。
──ほんとだ!
この動画はILが15周年の時に制作されたもので、ILの歴史はこの動画を見ればすべてわかるっていう集大成となっています。今後も何か作るかもしれないですね。もしかしたら会長タスクの最優先になってるかも。
──すごい柔軟な会社だなって思いますね。
うまい棒を買いすぎてテレビの取材がきた
確かにこの辺は自由にやらせてもらっていますね。それは松井が一番最初に作ったベースがそうさせているんだと思います。一番最初は、コーラ飲み放題という謳い文句で、缶のミニコーラを詰め込んだ冷蔵庫がありました。それが人数がだんだんと増えてきた頃からうまい棒に変わったんですよ。そのうまい棒食べ放題は今も続いてるんですけど、一番多い時で月間2000本消費したんです。
──2000本!?駄菓子屋みたいになってる!
段ボール単位で卸売業者さんから直接買ったり、チョコレート味は冬限定だとか詳しくなったりして。個人的に一番面白かったのは数年前にうまい棒が値上げしたとき、うちに取材が来たんです。「値上げになりましたけど、どう思いますか」って(笑)
──うまい棒買いすぎて取材くるとか(笑)え、テレビが来たんですか?
そうですそうです。どう思うかって聞かれても、うちメーカーでも小売りでもないんだけどと思いつつ「値上げは仕方ないですし、これからも買い続けますよ」って何の宣言かわからない回答をしました。
サーバーサイドを目指す学生に向けて
──学校などで、サーバーの勉強をあまりしてない学生もいると思うのですが社内での体制はいかがでしょう?
試行錯誤中の研修を含めて、サーバーサイドにちょっと触れてみない?っていう機会は用意しています。触れてみて実際に面白いと感じる学生さんが一定数いることもあり、結果的には学生時代はUnityをやってきたけど、ILに入ってからはサーバーサイドやってますって人も結構います。言い換えると数年後には両方できる人になってるので、それを狙ってます。
──そういうエンジニアがいっぱいいる会社という強みが新しく生まれますね。
形になるのは、もうちょっと投資的な意味で先になるかもしれませんが、いずれにしても専門の道を持つこととは別に、クライアントだけもしくはサーバーサイドだけの仕事しかできませんといった具合の言い放ちになるような事態は避けたいなと思っています。
──サーバーと言っても監視とか運用ではなく、ロジックのところをやる会社なわけですね。
サーバーサイドの仕事は工程上は動いている画面を見るのが結構後になったりするので、渋い側面を持っているのは事実です。通信上やりとりするデータの形が決まっていれば、お互いに「じゃ、こんな感じで用意しておきますね」という約束のもと、仕様を満たすべくクライアントとサーバーサイドはお互いを見なくてもしばらく開発を単独で続けることはできます。もちろん企画時点でのコンセプトデザインなどは見せていただくこともありますが、案外と結合が楽しみになったりもします。
──裏方で本当に重要な渋い仕事なのですね。ちなみにですが、学生の時にサーバーサイドを目指すならこういうことをしておくといいみたいなのはありますか?
技術だけでいったら結局のサーバーサイドの場合はPHPになっちゃいますよね。PHPかデータベース、データベースだとMySQLあたりを知っておくと、準備としては大きいかなとは思います。でも、つい先月までJavaで業務系システムの仕事でしたという人が転職してPHP学んでゲームエンジニアになっていくのもよくあります。ゲームならではのノウハウやお作法もありますけど。まあ、後で覚えればいいっていうことも多かったりしますね。
──今できることを一生懸命やっておくことに尽きるのかもしれないですね。
学生のうちにということであれば、サーバーサイドに限らず例えば札幌だとSapporo Game CampというGameJAMを中心としたイベント団体があって、それに参加することで企業や他校の多くの方と知り合う機会が増えるので情報収集ができます。また、同じ団体で毎月のようにレビュー会(ポートフォリオ・ソースコード添削会)も実施していますので複数企業に自分の作品を見せる機会も得られます。こういう機会を活用していくと学生のうちにできることの密度があがっていいんじゃないかと思います。
──最後にこの記事をご覧の学生の皆さんにお願いします。
ここまでお話してきたような雰囲気をベースに、ILは、札幌・仙台以外に全国、そして海外にも目を向けています。なのでモノづくりのエンジニアとして立身することを目標とする方にはぜひ仲間になってほしいですし、すごく向いてる会社だと思いますので、興味をお持ちの方はぜひよろしくお願いします!
株式会社インフィニットループはVR/AR/MR・Webシステム・スマートフォンアプリ・ゲーム開発を行う、北海道札幌市・宮…
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