DeNAのゲームにおけるAI活用事例とその広がり|Game Technology Summit vol.1 トークセッションレポ

去る2023年7月21日(金)に、ゲーム業界の技術・ノウハウを軸に他分野産業とのコラボレーション機会を創出することを目的とした横断型ゲーム開発技術展&ネットワーキングイベント「Game Technology Summit Vol.1」を開催いたしました。

本稿では、株式会社DeNA 加納龍一氏のトークセッション「DeNAのゲームにおけるAI活用事例とその広がり」のレポートをお届けします。セッションではDeNA社がAI技術×ゲームでどのようなことに取り組んでいるのか、同社が提供している『逆転オセロニア』の事例を元にご紹介いただきました。

Game Technology Summit Vol.2」は2024年2月16日に開催いたします。

DeNAのゲームにおけるAI活用事例とその広がり

 登壇者紹介

 

加納 龍一氏
株式会社ディー・エヌ・エー AI技術開発部 ゲームエンタメグループ2018年にDeNAへ入社し、オートモーティブ事業、ライブストリーミング事業、ゲームエンタメ事業など多様な事業領域に向けたAI技術の社会実装を行なってきた。また、社会人学生として統計的学習理論の研究にも従事している。

 『逆転オセロニア』開発におけるAI活用

逆転オセロニア』とは

『逆転オセロニア』は、オセロとカードゲームを組み合わせて対戦するモバイルゲームです。6,000体以上ものキャラクターの中から16体を持ち寄って対戦し、相手の体力を0にすると勝利します。駒となるキャラクターには様々な固有スキルがあり、それぞれのスキルを活かした戦略を練りながらプレイするのが特徴です。加納氏いわく、このゲームプロジェクトにおいて、ゲーム内外でAIを駆使して品質向上と面白さを追求したそうです。

加納氏

『逆転オセロニア』では、トップレベルのプレイヤーとの対戦で勝利できるAIを開発しました。実際にプロの棋士に対戦していただいたところ、5回中4回AIが勝利することができました。そこで本日は、対戦AIの裏側部分についてご紹介します。

人間に匹敵する対戦AIの開発

たとえば「上位ユーザーの対戦ログを元にそれらの特徴をうまく真似てほしい」という要件に対して、初心者ユーザーのための学習コンテンツや練習相手としての側面を持つ対戦AIを開発する、などのように対戦AIはユースケースによってAIに求められる要件が変化するため、開発が難しいそうです。そこでDeNA社が『逆転オセロニア』の対戦AI開発で取り組んだのが「教師あり学習」と「強化学習」の二つの手法だそうです。

 教師あり学習と強化学習

教師あり学習とは、ユーザーの対戦環境からデータを収集し、上位ユーザーのデータログ(教師となるデータ)の動きをAIが模倣するように学習させる手法のこと。賢い対戦AIと戦って練習できるコンテンツ「オセロニア道場」に取り入れ、ユーザーの戦術学習をサポートしているそうです。ユーザーは様々な種類のデッキを組んでいるAIの中から好みのデッキを選択し、さらにAIの強さレベルを選択して練習することができるのだそう。

一方の強化学習は、ユーザーのプレイログは使わずAI同士で対戦したデータからゲームの勝敗状況などを収集し、徐々に学習していく手法のこと。『逆転オセロニア』では、強化学習を使った対戦環境のバランス調整の検証に取り組んでいます。新キャラのレベル感が既存キャラを大幅に上回りすぎないかどうかなど、AI同士の検証をスムーズに行うことができるそうです。

推薦技術によるデッキ構築のサポート

『逆転オセロニア』はオセロのルールを理解することはもちろん、デッキ構築で戦略を練る必要があるため、初心者はデッキ構築で躓きやすいそうです。そんなユーザー向けに、プレイヤーの所持キャラクター駒からデッキを素早くレコメンドする「オススメ編成」機能を付与。プレイヤーが所持するキャラクターをAIが分析してデッキを自動で構築してくれるようになりました。また、ユーザーが使いたいキャラクターを1体選択すると、そのキャラクターと相性の良いキャラクターで構成されたデッキを自動で構築するようにしたそうです。

この機能を用いてデッキを構築したユーザーと、そうでないユーザーの勝率を比べると、オススメ編成を用いたユーザーの方が勝率が高いことが分かったそう。この機能を開発したことで、初心者の躓きポイントが解消されるようになったと仰っていました。

 技術を通した幅広い活躍

『逆転オセロニア』で活用されている推薦技術は、DeNA社が運営するLIVEコミュニケーションアプリ『Pococha(ポコチャ)』のアプリのタイムライン制御にも用いられているそうです。

また、強化学習の技術は同社のオートモーティブ事業『GO』にも用いられており、タクシーを探しているユーザーを効率的に探すことができるエージェントを構築し、カーナビの形で乗務員に提供しているのだそう。

加納氏
これらの事業は一見するとゲームとは一切関係のないサービスですが、対戦AIを開発する中で活用した手法は幅広い分野で活躍しているんです。

2020年には、自社開発の並列強化学習のフレームワーク「HandyRL」をリリース。「誰でも強化学習を手軽に扱える」「対戦ゲームにおいて強くて勝てるAIが作れる」「並列度を上げて学習がスケールする」ことを目指し、強化学習を利用する様々なプロジェクトをサポートしています。

実はこの強化学習AIは、ゲームAIの精度を競うコンペティション「Hungry Geese」で世界875チーム中1位に輝いたこともあるのだとか!

加納氏

AI技術は多様な技術でプロダクトに貢献しています。また、ゲーム開発に関わる技術はゲーム以外の事業でも活躍するポテンシャルがあります。

本イベントには様々な企業の方が集まっているので、知見の交換を行う場としてコミュニケーションを取っていただければと思います。

2024年2月16日に「Game Technology Summit Vol.2」を開催いたします。
ゲーム開発やビジネスに関わるみなさまはもちろん、ゲーム技術に興味を持っている他業界のみなさまのご来場を心からお待ちしております!

GCG主催Game Technology Summit(ゲームテクノロジーサミット) Vol.2|2月16日開催

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Game Technology Summitとは

ゲームクリエイターの技術は、エンタメはもちろんのこと、エンタメ以外の産業を含むさまざまな分野で活用されている技術とコアの部分では繋がっています。「ゲーミフィケーション」分野はもちろんのこと、昨今の先進領域では「メタバース」「XR」「Web3」「NFT」「AI」さまざまなワードが飛び交いますが、そのどれもがゲーム開発者の中では既知の技術の延長線上に見えている部分も多いと思います。

「Game Technology Summit」では、ゲーム開発の技術を持った企業やクリエイター同士の交流はもちろんのこと、他の業界をクロスジャンルで繋いでいくハブとしての場を目的としています。ゲーム開発者が持つ高い技術を広く他業界に広めていき、業界を横断した可能性を広げていければと思っています。

本シリーズでは、ゲーム開発の最先端で取り組まれている知見や他業界の応用例のシェアの場でありつつ、知識に留まらず実際に交流しコラボレーションが生まれる場として、定期的に開催し育てていく予定です。
※本イベントが定義する「Game Technology」というのは、「エンジニアリング」に留まらず「アート」「企画」含めた様々な「技術」を想定し、色々なテーマを取り扱っていく予定です。


ゲームクリエイターズギルドとは
ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約7600人参加(2023年12月現在)

スキルや知識を学びゲームクリエイターとして成長・活躍し続けたい、同じ業界にいる仲間と市場の動向や技術についてなどの交流したい、日本のゲーム業界・職業自体の価値を上げ今より良い環境を作っていきたい……。そんなゲームを愛する人たちの未来に、必要な情報や機会を提供します。
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