Game Technology Summit vol.0 トークセッションレポ|社長のおごり自販機から見るゲーミフィケーションの社会実装と今後の可能性

去る2023年3月16日(木)に、横断型ゲーム開発技術総合展&ネットワーキングイベント「Game Technology Summit vol.0」を開催!

本稿では、サントリー食品インターナショナル株式会社の森 新氏によるトークセッション「社長のおごり自販機から見るゲーミフィケーションの社会実装と今後の可能性」のレポートをお届けします。

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社長の自販機から見るゲーミフィケーションの社会実装と今後の可能性

登壇者紹介

森 新氏

サントリー食品インターナショナル株式会社 自販機研究家・業務効率化研究家

サントリーにて自販機関連の新規事業を担当。『社長のおごり自販機』『ボスマート』『宅弁』『DAKARA給水所』など新サービスを5事業発案。社内起業に奮闘中。

サントリー食品インターナショナル株式会社にて営業や人事の仕事を経験してきた森氏。“超”が付くほどに自販機愛が強い彼は、自ら手を挙げて自販機に特化した新規事業に携わるようになったそうです。

そんな森氏が普段から感じているのは、「日本は世界No.1の自販機大国だけど、世界には自販機が少ない」ということ。「自販機がもつ無限の可能性を最大化させ、世界を驚かせたい」との想いで、様々な自販機を創出していると語っていました。

「社長のおごり自販機」とは?

「社長のおごり自販機」は、社員2人で社員証を同時にタッチすると飲み物がタダになる自動販売機。自販機のカードリーダーにカードをタッチするという、馴染みあるシステムを企業のコミュニケーション課題解決のために活用されています。コロナ禍のオフィスのコミュニケーション課題を解決するユニークな取り組みとして多くのメディアで称賛され、現在も数多くの企業から合わせが殺到中。

森氏はコロナ禍で仲の良かった人とのコミュニケーションが著しく減り、急に疎遠になってしまったといいます。また、疎遠状態になるスピード感は早いのにも関わらず、これまでの関係性に戻るまではとても時間がかかってしまうことに気づいたそうです。この課題を解決するために生まれたのが「社長のおごり自販機」なのだそう。

「世の中に会話を提供することができれば、社会やオフィスはもっと明るくなる」そう考えた森氏が「社長のおごり自販機」を開発する上で着目したテーマは、“挨拶以上、食事未満”。自販機で飲料を購入する際、数人で利用すると「このドリンク売りきれてるね」「この自販機paypay使えないのか」といった小さなコミュニケーションが生まれることに気づいた森氏は、“2人で自販機を利用する”というルールを思いついたそうです。

「社長のおごり自販機」は、“おごり”という言葉からも分かる通り、一切無料で飲料を購入することができます。顧客企業からはコスト面を憂慮して「無料ではなく、半額利用にできないのか」といった声も上がるそうですが、「ほとんど喋ったことがない人や少し苦手な相手から誘われた時に、“無料だから行くか”という瞬間があるかもしれない」という理由から、無料での運用を行っているそうです。

「社長のおごり自販機」に込めた3つのゲーミフィケーション

「社長のおごり自販機」には、ついつい相手を誘ってしまう・誘われたらついつい行ってしまう、といったように“ついつい”取ってしまう行動=ナッジ理論と、3つのゲーミフィケーションが取り入れられています。

一つ目のゲーミフィケーションの仕組みは、購入時は二枚の社員証が必要である、というルール。「社長のおごり自販機」は二枚の社員証をかざすことで初めて利用できるため、必ず誰かを誘う必要があります。誰かを誘う=自然と雑談を促す、という狙いのもと、こういったルールを設けたそうです。

また、社員証を自販機に読み込ませることで、自販機を利用するペアをシステム的に制御することも可能。例えば「同じペアは週1回まで」という制御を入れることで、普段は話さないような人を誘ってコミュニケーションを活性化させることもできるそうです。この他にも「自販機の利用は一人当たり一日一本まで」という制限も導入。森氏曰く、サントリー社内でも「社員証を片手に、まだ自販機を利用していない人を見つけて誘う」という場面が多く見受けられるのだとか。

二つ目のゲーミフィケーションの仕組みは、社員証は同時にタッチする、というルール。タッチするタイミングがコンマ数秒ずれると、もう一度やり直す必要がある、というユニークな仕組みになっています。森氏曰く、これは「吊り橋効果」を参考にこの仕組みを作ったといいます。

三つ目のゲーミフィケーションの仕組みは、10秒間で2本の飲料を選択・取り出す、というルール。従来、自販機は2本の飲料を取り出すのに6秒から6秒半ほどかかります。つまり、「社長のおごり自販機」で2人目が3秒でも商品選択に迷うと、時間切れとなり飲料を受け取れなくなるのです。しかも、リトライは不可。

なぜこのようなルールを設けたのかというと、半年後、一年後も会話を生み続けるため。商品を選択する時間が限られていれば「どれにするか決めましたか?」といったように、対話のきっかけも生まれるのではないか、という考えからこういったルールになったそうです。ちなみに、開発当初は制限時間を15秒ほどに設定していたそうですが、ほとんどの人が間に合っていたため、少し難易度が高い10秒に設定したのだとか。

普段は話さない人たちがついつい誰かを誘い、その輪が徐々に広がって“初めまして”のペアが広がっていく―。この仕組みを作り出したことで、社内コミュニケーションの輪を広げることに成功したのです。

ちなみに、「社長のおごり自販機」だけでなく、「工場長のおごり自販機」や「部長のおごり自販機」のように、様々なネーミングにカスタマイズすることも可能だそうです!

 

トークセッション・質問コーナー

講演後は、イベントを主催する「ゲームクリエイターズギルド」の代表 宮田とのトークセッションへ。ここまで「社長のおごり自販機」の面白い取り組みについてお話いただいた森氏ですが、自販機の制作の裏ではこのような一幕もあったようで……。

森氏
今回の「社長のおごり自販機」ですが、私は自販機が大好きなのでオフィスの真ん中に自販機を置きたくて、最初は「自販機の裏に一つのボタンがあって、そのボタンをAさんが押している間だけ表側にいるBさんが商品を選べる」という仕組みでプレゼンしたんです。基本的にうちの会社では「これをやりたい」という企画案は大体通るんですが、この案に関しては「絶対ダメ」と言われてしまいました(笑)。

「社長のおごり自販機」はゲーミフィケーションを用いた事例として、とても面白いと感じました。こういったユニークな発想はどこから生まれてくるのでしょうか?

森氏:
ナッジ理論、いわゆる行動経済学に基づいた「つい○○してしまう」という心理を元に考えています。例えば、USJにある「スーパー・ニンテンドー・ワールド」には、叩くとコインの音がするブロックがありますよね。実際にコインが手に入るわけではありませんが、つい叩いてしまう。こういったゲーム性のあるものには人が集まりやすいですし、面白いし、エモい。こういった事例に対して常にアンテナを張るようにしています。

飲食×ゲーミフィケーションで、他に面白そうだと思うアイデアはありますか?

森氏:
例えば、振ったサイコロの出目によって無料になったり量が倍になったりする“チンチロリンハイボール”も、飲食×ゲーミフィケーションの一つだと思います。飲食店にはその場に複数人がいるので、そういった取り組みが会話のきっかけになってより盛り上がりますよね。

飲食は人間には不可欠なもの。この飲食という行動に+αゲーム性があれば、色んな表情が生まれてくると思いますし、コミュニケーションの幅も広がると思います。僕はこういった仕組み作りでもっと世界が豊かになると信じています。

技術的な面で注目しているゲームの分野はありますか?

森氏:
任天堂の『amiibo』ですね。ゲームの世界を五感で楽しめるように拡張する、というチャレンジをしてるのが非常に面白いと思います。

実は弊社でも飲食の分野においてこういった拡張現実を用いた取り組みを行っているんです。まだ実用化はされていませんが、“拡張現実グラス”のようなものがありまして、グラスの持ち方や唇の触れ具合をセンサーが感知して、それに合わせて店に設置しているモニターが連動するような仕組みになっています。

例えば、皆でこのグラスを持って乾杯すると、目の前においているモニターの映像が変わったり、グラスを置いたらお店の照明が変わったり。こういった取り組みができれば、飲食の時間がより豊かで楽しくなるのではないでしょうか。

 


今回の講演を通して、飲食×ゲーミフィケーションにはまだまだ色んな可能性があると感じたと同時に、森氏の自販機への並々ならぬ愛も伝わってきました。今後ゲーム業界と飲食業界がコレボレーションをして、さらなる取り組みが生み出されることを期待したいと思います。

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Game Technology Summitとは

ゲームクリエイターの技術は、エンタメはもちろんのこと、エンタメ以外の産業を含むさまざまな分野で活用されている技術とコアの部分では繋がっています。「ゲーミフィケーション」分野はもちろんのこと、昨今の先進領域では「メタバース」「XR」「Web3」「NFT」「AI」さまざまなワードが飛び交いますが、そのどれもがゲーム開発者の中では既知の技術の延長線上に見えている部分も多いと思います。

「Game Technology Summit」では、ゲーム開発の技術を持った企業やクリエイター同士の交流はもちろんのこと、他の業界をクロスジャンルで繋いでいくハブとしての場を目的としています。ゲーム開発者が持つ高い技術を広く他業界に広めていき、業界を横断した可能性を広げていければと思っています。

本シリーズでは、ゲーム開発の最先端で取り組まれている知見や他業界の応用例のシェアの場でありつつ、知識に留まらず実際に交流しコラボレーションが生まれる場として、定期的に開催し育てていく予定です。
※本イベントが定義する「Game Technology」というのは、「エンジニアリング」に留まらず「アート」「企画」含めた様々な「技術」を想定し、色々なテーマを取り扱っていく予定です。

ゲームクリエイターズギルドとは
ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約3000人参加しています。(2021年12月現在)

スキルや知識を学びゲームクリエイターとして成長・活躍し続けたい、同じ業界にいる仲間と市場の動向や技術についてなどの交流したい、日本のゲーム業界・職業自体の価値を上げ今より良い環境を作っていきたい……。そんなゲームを愛する人たちの未来に、必要な情報や機会を提供します。

ゲームクリエイターズギルド公式サイト ▶ https://game.creators-guild.com/

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