『Unknown Pyramid』開発者インタビュー
2023年2月21日(火)にSteamにて『Unknown Pyramid』をリリースしたRainyDollGames氏。自身初のゲーム作品にも関わらず、「Indie Games Contest 学生選手権(以下、学生選手権)」で優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた彼にインタビューを実施しました。
本作がどのような経緯で誕生したのか、なぜ無名のクリエイターである彼の作品が2万以上のいいねが付くほどの話題作にまで登り詰めたのか。『Unknown Pyramid』の制作の裏側と、リリースに向けて綿密に練られたマーケティング戦略についてお聞きしました。
エジプトの地下迷宮から脱出を目指すホラーゲーム『Unknown Pyramid』
ランダム生成される迷宮が舞台のローグライクホラーゲーム。複雑に入り組んだ迷宮に潜む”何か”から逃げ回りながら、脱出を目指せ!Steam ▶ https://store.steampowered.com/app/2188790/Unknown_Pyramid/
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―まずは自己紹介をお願いします。
RainyDollGames:
ホラーゲーム制作者/RainyDollGamesとして活動しています。今回受賞した『Unknown Pyramid』は僕が初めて制作したゲーム作品で、2023年2月21日にSteamにて発売しました。普段は大学に通いながらホラーゲームを作っています。
―『Unknown Pyramid』は初めて制作したゲーム作品だったんですね。ちなみに、ゲーム制作はいつ頃から始めたんでしょうか。
RainyDollGames:
大学に入学してからです。ものづくり系のサークルに参加しました。そこでBlenderを使ったモデリングを始め、プログラミングの勉強も少しずつ進めていきました。入学当初はゲーム制作には興味がありませんでしたし、サークルに入るきっかけも何となくでした。しかし、ゲーム制作に取り組んでみると、これがすごく面白くて、ここ1年は本格的にゲーム制作に取り組み、今作を完成させることができました。
―学生選手権の存在はどこで知りましたか。
RainyDollGames:
偶然Twitterでこのコンテストを知りました。このコンテストが「学生選手権」ということで、 同年代の人たちと競い合う良い機会だと思って応募しました。また、学生選手権の応募期間が『Unknown Pyramid』の発売日に近かったため、自分の力量を試してみたいという思いもあり、応募する決意をしました。
―なるほど。そして初めてのコンテスト出場でいきなり受賞された、と。
RainyDollGames:
頑張って作った作品なので自信はあったんですが、正直びっくりしました。コンテストということで、レベルの高い作品ばかりだと思っていた中、このような賞をいただけて本当に嬉しかったです。
―改めて、本当におめでとうございます!授賞式当日の様子はいかがでしたか。
RainyDollGames:
IGC2023の会場で受賞作品が展示されていたのですが、自分の作品が目の前でプレイされるという経験はかなり緊張しました。以前からYouTubeなどで『Unknown Pyramid』を実況プレイしていただいた動画を見たことは何度もありましたが、実際に目の前でプレイされるという状況は別の緊張感がありました。どんな感想をもらえるのか、とてもドキドキしました。
このゲームは難易度が高く、すぐにゲームオーバーになるんですが、一人クリアしてくれた方がいたことは嬉しさと驚きが半々でした(笑)。僕自身、このようなゲームイベントに参加するのが初めてだったので、とても新鮮な感覚でした。
―コンテスト参加者の方とは交流されましたか。
RainyDollGames:
『Death the Guitar』の制作者のトロヤマイバッテリーズフライドくんとは、話をする機会があり、仲良くなれたと思います。二次審査のプレゼンにどんな服装で臨めば良いか分からなくて、「Twitterで見つけた参加者の方に聞いてみよう」と声を掛けたのが、仲良くなれたきっかけです(笑)。彼も個人制作者でありながら、ゲーム系の専門学生が多い中で、こうして個人勢が食い込めたっていうのはすごく嬉しかったですね。
ゲーム制作に関しては、独学の学生より専門学生の方が優れているというイメージがありました。しかし、今回のコンテストを通じて、「独学でも専門学生と同じレベルで戦える」ということを実感することができました。これまでやってきたことは間違っていなかったのだと再確認でき、自信を持つことができました。改めてこのコンテストに参加できて良かったと思います。
―お一人でゲーム制作をされているということで、制作を進める中で分からない点も多々あったかと思います。普段はどのようにゲーム制作をされていますか。
RainyDollGames:
ネットで調べたり、動画を見たりして学びながら制作しています。PCで調べれば情報が出てくる時代ですし、それこそ僕が利用しているUnrealEngineの開発会社であるエピックゲームズさんは、開発初心者のためにUnrealEngineのチュートリアルなどを用意してくれています。それに、アンリアルクエストという開発者向けのイベントが定期的に開催されているので、そういったイベントに参加することもありますね。
こうやって誰もがゲーム開発者になれる環境があるからこそ、今こうして活動できていると思います。この環境がなければ恐らく僕はゲーム開発者にはなれていないので、こういった環境を提供してくださる方に感謝しつつ、最大限ありがたく勉強させていただこう、という気持ちです。
―独学でゲーム制作を進めるのは大変さはもちろん、孤独との戦いもあるかと思います。
RainyDollGames:
そうですね。僕はプログラミングだけでなく、3Dモデルやテクスチャー、アニメーションもほとんど全部作っているので、どうしても完成までに時間がかかってしまいます。一人の作業は大変ですし孤独ではありましたが、友達にテストプレイの協力もしてもらっていたので、とても助けてもらいました。友達には本当に感謝しています。
―素敵なお友達に支えてもらいながら作品を制作されたんですね。ゲーム制作を行う中で参考にしているYouTubeはありますか。
RainyDollGames:
UnrealEngineのチュートリアル動画を出されている九里江めいくさんや、UE備忘録本舗さんなどの動画はよく参考にさせていただいています。動画だけでなく、ネットの記事にもお世話になりながら勉強していますね。
―今作が完成した際は、所属されているサークルのお友達にも遊んでもらいましたか。
RainyDollGames:
はい。仲の良い友達には無料でゲームを配布して遊んでもらいました。ホラーゲームなので「怖かった」という声が多かったです(笑)。
ホラゲ制作のきっかけは、ゲーム実況者 ガッチマンさん
―改めて、『Unknown Pyramid』が生まれた経緯を教えてください。
RainyDollGames:
僕はホラーゲーム実況者である「ガッチマン」さんの大ファンです。中学生の頃から毎日のようにガッチマンさんの動画を見ており、それがホラーゲームに興味を持つきっかけとなりました。そのため、ゲーム制作を考える際には、「ホラーゲームを作ろう」という思いが最初に浮かびました。
ゲーム性としては僕が大好きな『シャドーコリドー 影の回廊』というゲームから影響を受けています。その作品を参考に、「ランダム生成されるステージで敵に捕まらないように脱出を目指す」というゲームシステムを取り入れました。
ガッチマン @Gatchman666
ゲーム実況者。ホラーゲームを主に実況。愛称はガッチさん。
https://youtube.com/@Gatchman666
―ゲーム実況者のガッチマンさんにプレイしてほしい、という想いからホラーゲームを制作されるようになったんですね。しかも、憧れのガッチマンさんに『Unknown Pyramid』をプレイしてもらえた、と伺いました!
RainyDollGames:
そうなんです!ガッチマンさんに自作ゲームをプレイしてもらうことを目標に頑張っていたんですが、発売の2日ほど後にガッチマンさんの配信枠が立って、「『UnknownPyramid』やるぞ」って…。もう、めちゃくちゃ嬉しかったです。しかも最高難易度までクリアしてもらえたので、これ以上ないくらい嬉しかったですね。
―沢山あるホラーゲーム作品の中で、どうやって『UnknownPyramid』を見つけ出してくれたと思いますか。
RainyDollGames:
ガッチマンさんにプレイしてもらうために、いくつかの戦略を練りました。まず、ゲーム発売前後にプレスリリースを打つことを実践しました。ゲーム開発者はリリース前に、メディア各社にプレスリリースを送ります。そこで一社でもプレスリリースが掲載されれば、きっと最新情報にアンテナを張っているであろうガッチマンさんの目に届くんじゃないかと考えました。
また、ガッチマンさんは“ランダム生成ステージ”、“追いかけられるようなホラーゲーム”といった要素を特に好んでいることを動画を見て知っていたので、そうしたホラーゲームを作ればきっと見逃さないだろうと予測しました。その結果、本当にガッチマンさんにプレイしていただくことができました。
―マーケティングのように綿密に戦略が練られていて、しかもちゃんと目標を達成できているのがすごいです…!
―戦略を練る中、どういうタイミングでプレスリリースが大事だということに気付いたんでしょうか。
RainyDollGames:
例えば、Twitterで「『○○』というインディーゲームが出る」という記事をよく目にするかと思いますが、こういう記事ってどうやって出てるんだろうと思って調べたところ、プレスリリースの存在を知りました。プレスリリースを作成してメディアに送ることで、自分の作品が取り上げられる可能性があると考えました。
これは全てのクリエイティブ作品に言えることですが、今の時代、例えばYouTubeに動画を投稿しても、ほとんどの作品が見逃されてしまうと思うんです。作品がありすぎて、飽和状態になっているため、素晴らしい作品でも、目に留まる機会が少ないと感じます。
作品を一生懸命制作しても、誰にも見てもらえないと水の泡になっちゃう可能性もあるので、宣伝部分に関しては特に集中して取り組んだ方が良いだろう、ということは感じていました。そこで、自分もプレスリリースを出すことにしたんです。
―なるほど。その戦略がしっかりと結果に表れたんですね。
RainyDollGames:
そうですね。このゲームにはメジェド様というキャラクターが出てくるのですが、電ファミニコゲーマーさんのTwitterや記事にメジェド様の画像を載せていただいたこともあってか、記事ツイートの“いいね”数が2万を超えたんです。とにかく色んな人に見てもらえたので、プレスリリースによる宣伝効果はすごくあったと思います。
―メジェド様は本作に登場するキャラクターですよね。ぜひ、メジェド様のこだわりを教えてください。
RainyDollGames:
元ネタはエジプト神話なので完全なオリジナルキャラクターではありませんが、メジェド様のモデリングやアニメーションなどは自分で行いました。個人的には“目”が特にお気に入りで、自分が一番可愛いと思うデザインになるように、描いては直してを繰り返しながら作成しました。
メジェド様はエジプト神話では謎の神様とされていて、詳しいことが分かっていない神様なんですよ。なので、ゲーム内でも謎のキャラクターにしています。「何か可愛いキャラクターがいるけど、その正体は分からない」みたいな存在ですね。
ホラゲで重要な要素は「未知の存在に対する恐怖心」
RainyDollGames:
ホラーゲームでは「意味が分からないから怖い」という要素が大事だと思っています。未知の存在や意味が分からない存在に対して、何となく恐怖心を抱いてしまうじゃないですか。なので作中に登場するメジェド様に関しては、あえて深く説明せず、「こいつは一体何をしてくるんだろう」という未知の存在に対する恐怖感を楽しんでもらいたい、という狙いがあります。
―メジェド様にはそんな狙いがあったんですね。そもそも「エジプト×脱出ゲーム」というテーマは、どのように思い付いたんでしょうか。
RainyDollGames:
映画の『インディジョーンズ』や『ハムナプトラ』が好きで、未知の古代遺跡を舞台にしたホラーゲームは面白いと思いました。そのため、エジプトのピラミッドをベースにした迷宮を舞台に選びました。迷宮を探検するという設定はホラーと相性が良く、また他に競合するような作品もないので、この設定を採用しました。
先ほどもお話したように、僕の中では「ガッチマンさんに遊んでもらう」ということが一番大事な軸としてあります。 ゲームの中身にこだわることも大切ですが、まずはこの作品を認知してもらう必要があるので、競合が少ない「エジプト×脱出ゲーム」という組み合わせを選びました。我ながら良い題材を選べたんじゃないかなと思います。
―このゲームはステージがランダム生成されるということですが、あの構造はどのように制作されたんですか。
RainyDollGames:
実は完全なランダム生成ではないんです。毎回ステージがランダムで生成されるようにステージを構成するのはすごく難しくて、プログラミング初心者の自分で完全ランダム生成を実装することはできませんでした。
あのステージは正方形の部屋のようにエリアを分けて作っているんですが、部屋の位置を変えたり回転させたりして、疑似的にマップが変わったように思わせる生成の仕組みにしています。なので、実はそこまで難しいことをやってるわけではないんですよ。自分の技術力と実現したいもののバランスを取りながら妥協するところは妥協して、それでも“それっぽさ”が出せるように工夫しました。
―実装が困難だった箇所はどこでしょうか。
RainyDollGames:
一つは先ほどお話したステージのランダム生成に関する部分で、もう一つはAIの仕組みです。この作品で一番盛り上がるのは敵AIとの追いかけっこなんですが、このAIがおバカさんだと、追いかけっこに緊張感がなくなっちゃうんですよね。「あれ、こいつ全然追っかけてこないな」みたいな。そうならないように実装するのは結構大変でした。
プレイヤーが棺桶に入った時に敵が近くにいると場合によっては棺桶を開けたり、ライトを敵に当てると気づかれちゃったり、プレイヤーが扉を閉じて部屋に立てこもると敵がドアを壊して侵入してきたり。敵に知能を入れることでより緊張感が出ると思って色々な挙動を入れたんですが、この辺りの実装は難しかったですね。
もう一つ大変だったのは、ゲーム処理の最適化です。思うがままにゲームを作ると重くなってしまうんですが、この状態でリリースしてしまうと低評価の原因になってしまうので、ある程度軽くできるように調整するのが本当に大変でした。
「ホラーゲームといえばRainyDollGames」と言われるクリエイターになりたい
―今後の目標や次回作の構想があればぜひ、教えてください。
RainyDollGames:
初めてのゲーム制作だったのでとにかく完成させることに精一杯でしたが、当初想定していた10倍以上の方に遊んでいただけました。これからもどんどん成長して僕にしか作れない雰囲気・面白さを追求したゲームを出して、「RainyDollGamesの作品だから買おう」「ホラーゲームといえばRainyDollGamesだよね」と言っていただけるようなゲームクリエイターになりたいと思います。
現在はマルチプレイのホラーゲーム制作に挑戦しているんですが、これもまたくせ者で…(笑)。まだ内容の詳細は未発表なんですが、「夜の学校を舞台に、4人で肝試しに行く」というテーマで、一応ゲームのロゴも完成している状態です。なかなか大変ではありますが、Steamリリースに向けて頑張っています。
―マルチプレイのホラーゲームですか。個人制作でそういった作品を作っている方は少ないと思うので、今から完成が楽しみです!
―本日はありがとうございました!
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