CEDEC2022が8月23日~25日に開催されました。
楽屋でまったりで行ったアンケートをもとに、様々なセッションのレポートをお送りいたします。
今回はモーションアクターの演技を最大限に引き出すためのノウハウ共有のセッションをご紹介いたします。アクターさんとの関わりだけではなく、アニメーターさん同士のリテイクなどのやり取りでも活用できるお話でした!
アニメーション制作の方やモーションアクターさんとお仕事をされる方必見です!
撮影現場でモーションアクターの動きをより引き出すためのノウハウ共有
プロジェクトでモーションキャプチャデータを活用する機会も増えてきてるのではと思います。
ただ、実際に撮影をしてみて、モーションアクターから目的の演技や動きを引き出せずにいるクリエイターの方々もいらっしゃるのではないでしょうか?? 多くのアクターは舞台や映画、ドラマで役者として活躍してきた方々が多いので、そういった環境での表現は熟知しております。しかし、ゲームやアニメといった媒体に関しては十分にノウハウを持っていない場合もあります。
そこで今回は、各ジャンルのアクターの特性を皆様にお伝えし、撮影現場でよりコンセプトに則った動きを引き出す為のノウハウやコミュニケーション方を、実際に動きをお見せしながらお伝できればと思います。
クリエイターの皆様とアクターとの、ディスコミュニケーションの緩和のお役に立てれば幸いです。
受講スキル
- アニメーション制作、モーションデザイン、撮影現場での進行・ディレクション、ゲームデザイン、ゲームプランナー
得られる知見
- モーションキャプチャーの撮影を行う際に、欲しいデータをより獲得するためのコミュニケーションスキル
- 動きの質を判断する【骨・円・溜・反・影】5つの要素を、コミュニケーションツールとして。
撮影現場でモーションアクターの動きをより引き出す
プロジェクト間でクリエイターさんにイメージが伝わらず、レビューをしても思ったような成果物がでてこないことや、実際の撮影現場でアクターさんに演技してほしいイメージが伝わらないことがあるあるとして挙げられていました。それは、関係者間で認識が一致していないことが原因だとおっしゃられていました。
たとえば「自然に演技をしてほしい」というオーダー。
- アクターさんが思う自然→自分の体を使って、自分の体や心から出てくる自然な動き。
- 多くのクリエイターさんが思う自然→ゲームキャラクターとして説得力のある自然な動き。
ほかにも「力強く表現してほしい」というオーダー。
- ”力強い”というのは人によって”どこ”が力強く感じるのかが違う
今回のセッションではロジックを理解して、実現したいことを言語化するためのヒントを教えてくださいます。
杉口さんのターン「バトルモーション・ロジック」
骨 骨の正しさはベクトルを定義する
骨とは
- キャラクターの骨格「姿勢」のこと
- 力を掛ける方向と姿勢とを一致させることで、動きに説得力を持たせることができる
ポイント
- 目標に対し身体が一致しているか
- 腰は適切に捻転しているか
- 反動に耐えられる姿勢か
『斬撃モーション』
斬撃の方向と肘の開く角度が一直線に一致すること。肘の角度が開きすぎたりしてズレてしまうと格好悪いモーションになってしまう。
円 円の理解は美しさに直結する
円とは
- 力の流れる「軌跡」のこと
- 視覚的な軌跡を意識することで技の美しさや大きさの表現を自在にコントロールすることができる
- 特に動きを大きく見せたい場合は重要な要素となる
ポイント
- 軌跡は真円を意識しているか
- 軌跡が無理な変化をしていないか
- 円の中心にブレがないか
『円の中心にブレがないか:剣舞廻しモーション』
関節それぞれに軸がある。この軸がぶれるときれいに回転しているように見えない。
溜 効果的な溜めはパワーを生み出す
溜とは
- 動作中に一部の部位を意図的に「遅らせる」こと
- パワフルな表現や、強調をしたいなど、「ここぞ」という場面で活用する
- プレイヤーが速度についていけない際のガイドラインとしても活用できる
ポイント
- パワーを出したい部分を遅らせる
- ほかの部位でパワーを出したい部位を引っ張るイメージを持つこと
- パワーを出したい部位を飛ばす場合は矢を放つイメージを持つこと
『パワーを出したい部分を遅らせる:ストレートパンチモーション』
溜め-予備動作-があると力強さが表現できる。
反 反発する力がキレ味となる
反とは
- メインの部位、対の部位が「逆方向」に引き合うこと
- 特に瞬間的な加速を表現したい場合に有効なことが多い
- 溜と組み合わせると、非常に大きく力強い動きを表現できる
ポイント
- 引っ張り合う
- 閉じ合う
- 入れ替える
『入れ替える:回し蹴りモーション』
事前に加速していた上半身を元に戻すこと-上半身と下半身を入れ替えること-によって力強い蹴りを表現。反作用がないと力強い動きを表現することができないため、振りかぶった力を戻す動きが必要。
影 キャラの理解がシルエットに命を吹き込む
影とは
- キーフレームのこと
- キーフレームを適切に行うには、そのキャラクターの置かれた状況を正しく理解する必要がある
- ディレクション側が状況をきちんと伝えれば伝えるほど、キーフレームの精度も向上する
ポイント
- キーフレーム性格や状況と矛盾していないか
※武器を持った待機モーションでも、フィジカルや負傷・体調により、そのシルエットは大きく変わる
※対峙している的がいるなら、リアルにその相手をイメージさせるテイクバック
これまでにご説明いただいた「骨・円・溜・反」を考えながらシルエットを工夫してみるといいですよとのことでした。
「強そうなポーズを教えてください!」強そうなポーズって?
「格好いいポーズ・強そうなポーズ」を教えてくださいと言われることが多々あるそう。質問された方に「あなたの思う強そうなポーズって?」とポーズをとってもらうと下の画像のようなポージングをされることが多いとのこと。しかし、杉口さんは実は逆なんじゃないかと思うとお話いただきました。上の画像のようなポージングはいつでも防御ができたり逃げることができる<緊急性が高い>ポージングではないか、格好いいポーズとは<余裕>を見せることが大事じゃないかとのこと。
「あご・肩・腕・胸・腰・膝・つま先」7つのパーツをコントロール
7つのパーツをコントロールすることによって待機モーションの印象を操作されているとのこと。
あごを引いたり、腰を屈めたりすることで確かに警戒心の高いポーズに見えますね!
強そうに見せたい場合<余裕>を表現したいから、その逆をされるそう。
足を閉じ、膝を伸ばし、腰は前傾させ、胸をそらす、肩は落とす、手は下げる、あごは上げると……
確かに強そう! フリーザ様だ!!
緊急に対応できるポーズではないから<余裕>を表現することができるとのことでした。
もっと余裕に見せたいときはこの7つのパーツをコントロールすることで目的の印象に近づけることができるとのこと。
MAOさんのターン「ダンスモーション・ロジック」
プロジェクトに沿ったモーキャプダンサーへのオーダーとアクターさんの選出方法を教えてくださいます。
J-POPのようなかわいいダンスからK-POPのようなキレのあるかっこいいダンスなど様々なスタイルが求められている
どのように振付師やダンサーにオーダーや選出をしたらいいのか
⇩モーションキャプチャー事務所等に依頼
⇩振付師にオーダー
⇩振付ビデオやアクターのリハーサル映像でビデオリハーサル
⇩撮影本番
どのように伝えると振付師やアクターに伝わりやすく、より良いデータの提供ができるのか
ビート
ダンスを躍る上で一番ベースとなるのがビート。ダンサーは8小節で数えていて、この8小節に何回リズムを刻むかが”8・16・32”ビートになってくる。MAOさんはセッションで手拍子でビートについて説明していただきました。
- 16ビートまでは踊りが得意であればできる
- 32ビートはプロのダンサーでなければ難しい
振付師はほとんどがプロの方なので、オーダーするときはただ「かわいらしく」「格好よく」とお伝えするのと同時に、どの程度のレベルものなのか、リズムに乗る程度であれば0~8ビート、リズムに乗ってステップもしたい場合は8~16ビート、格好よくてキレキレの振付だと32ビートでというオーダーをすると伝わりやすいかもしれませんとのこと。
リズム
- オンビート…ビートを一定に取ること。
- エンビート…ビートを裏拍で取ること。「ワン、エン、ツー、エン、スリー、エン……」と数えるため。
オンビートで止めをすると少し重たい印象、エンビートで止めをするとPOPな印象になるそう。明るくてかわいいイメージであれば、裏拍で音どりをするエンビートを意識していただいてといったオーダーの仕方。クールや格好いいイメージであればオンビートで、とオーダーされるとダンサーに分かりやすく伝わるそうです。
さらに歌詞が入っている曲の場合、歌詞で音を取りがちで単調になり物足りなくなってしまうことがあるため、オンビートやエンビートのリズムを踏まえた上で、そのリズムを裏切ることで見ている人が飽きない演出を作ることができる。例えば、メロディラインだけでなく裏に聞こえる音もとってくださいといったオーダーだと1つ上のデータを提供することができるとのことでした。
振付
ビートやリズムがあってようやく構成される振付。
ステージ? PV? 汎用的? 発信されるプラットフォームごとに長所が活かせるようなオーダーが必要とのこと。
キャラ
アクターさんは振付師が作った振付をそれぞれのキャラクターに合うように工夫して踊る。この際、様々なキャラの振り幅に対応できるようにキレのコントロールができるアクターが必要。
「キレよくお願いします!」のキレとは。
動いているものが急に止まるからキレに見える、そのキレについて動きを交えて10段階で説明いただきました。
- 0段階に近いと、キレは少なくふわふわしたかわいい動き
- フィジカルが伴っていなくても対応が可能
- 10段階に近づくとどんどんキレが増し、クールな動きへ
- フィジカルが必要
踊っているときのキャラ感はアナザーパーツや体のラインで表現!
動いている手は目立つが、動かない手は目立たない。そんな目立たない部分をアナザーパーツと呼ばれており、固定されているとかわいい印象に。体のラインを見せず、動かない手を腰に当てて隠したりするとクールな印象が生まれるそう。
アクターさんを見ていて、もうちょっとかわいい動きにしたいなどがあれば「もうちょっとかわいくお願いします」ではなく、アナザーパーツや体のラインなどを見て、「手首の角度をこうしてほしい」や「足のラインをこうしてほしい」というオーダーをすることで理想的なダンスモーションに近づくのではないでしょうかとのことでした。
ダンスモーション・ロジックまとめ
「ビート・リズム・振付・キャラクター」の4つの要素を踏まえてオーダー、アクターの選出をしていただくことで、要望に沿った様々なスタイル、レベル、幅広いキャラクターに対応ができ、クオリティの高いデータの提供に繋がる
まとめ
「自然に演技してください」というオーダーだと、今まで役者が積み上げてきた舞台や演劇だったりダンスだったり、の正解で答えを出そうとするとのこと。しかし、クリエイターが求めている”自然”は「その”3Dキャラクターが自然に動いているように”演技をしてください」。そこの認識のズレがあり、アクターさんは自然にやっているのになと思われ、クリエイターさんは自然って言っているのに伝わらないなとすれ違ってしまうとのこと。
クリエイターさんが思っている”自然”な動きがマンガやアニメの構図の連続で、生身の人間で演じるとムリが出てくることがあるそうです。
撮影現場では中々お話できないためこのようなセッションをされるに至ったそうです。お互いの認識を合わせることによって、さらに作品のクオリティを上げたり、コストを良くしていけたらとおっしゃっていました。
ご登壇者
杉口 秀樹さん
株式会社モーションアクター
代表取締役<講演者プロフィール>
株式会社モーションアクター
代表取締役 杉口秀樹
ゲームにおけるモーションアクター&アクションコーディネーター。
クリエーターを応援するためにリファレンス動画を公開、現在世界中で活用されている。
https://www.youtube.com/c/MotionActorInc代表作(モーションアクター)
「NieR Replicant」「FINAL FANTASY VII REMAKE」「ドラゴンクエストⅪ」「NieR:Automata」「ASTRAL CHAIN」「戦国無双」シリーズ「龍が如く」シリーズ、ほか多数。<受講者へのメッセージ>
ご興味を持ってくださりありがとうございます。
コスト・クオリティーを考え、モーションキャプチャーを導入されるプロジェクトも増えてまいりましたが、「自己表現者」であるアクター達から「作品の目的にあった動きのデータ」を取得するのは困難に感じる時も多いとお察します。
キーフレームを意識し「全身で描くアニメーター」という考えの下、撮影現場他でのコミュニケーションツールとして、目的にあったデータの取得やその活用方法について講義をさせていただきます。
今回も多くの実演を行う予定です。楽しい時間を共有させていただけたら幸いです。
MAOさん
株式会社モーションアクター
ダンス事業部 部長<講演者プロフィール>
幼少期よりダンスを始め、全国大会優勝、世界大会2連覇(Canada Street Dance Camp トロント)など、国内外の数々のダンスバトルで成績を残す。
カナダ、アメリカでの2年留学を経て、ワールドワイドなダンスを学ぶ。そこで培った技術で数々のオリジナルの振り付けを多くのプロジストに納品。
アクターとしても英語でのセリフも含め、あらゆるキャラクターに対応。
モーションアクターのみに留まらず、メディア、CM、映画など様々な分野で活動中。<受講者へのメッセージ>
はじめまして!株式会社モーションアクターのMaoです。
モーションアクターとして、クリエイターの皆様にと有意義なお時間となるよう、そして楽しい時間をご一緒させていただけるよう、お話しさせていただきます!
どうぞよろしくお願いいたします!
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ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)
スキルや知識を学びゲームクリエイターとして成長・活躍し続けたい、同じ業界にいる仲間と市場の動向や技術についてなどの交流したい、日本のゲーム業界・職業自体の価値を上げ今より良い環境を作っていきたい……。そんなゲームを愛する人たちの未来に、必要な情報や機会を提供します。
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