ゲームクリエイター図鑑No.001 濱村崇 #02「ゲームのメカニクスを分かりやすく発信していきたい」

「ゲームはおもしろい、ゲームを作ってる人も実はおもしろい」

多種多様な技術を持った人々が集まるゲーム業界。あの魅力的なゲームたちは、どんなゲームクリエイターが生み出しているのか。ベールに包まれた「ゲームクリエイター」の生態を解き明かし、この地に生息する「ゲームクリエイター図鑑」の完成を目指す。その過程として、一部のレポートを公開しよう。

クリエイター図鑑 No.001
『星のカービィ』シリーズにディレクターとして携わった濱村崇さんは今年、ハル研究所を退社してGameDesignLabを立ち上げた。グラフィッカーとしてゲーム開発に携わるようになり、実績を積み重ねることで大きなタイトルにかかわっていく。そこには「好きなればこそ」の姿勢があった。

#01記事

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「カービィには裏切れないプレッシャーがありました」

──カービィシリーズについて聞かせてください。濱村さんがかかわるようになった時点で、カービィはすでに大ヒットタイトルでした。ハードが代わり、遊び方も変わる中で、世代を超えてシリーズが続く理由はどこにあるのでしょうか?

これは私の考えなのですが、「お客さん中心」である事だと思います。ゲーム作りをしていると、どうしても「もうこれでいいんじゃないか。まあまあ遊べるし」と妥協をしてしまうんですけど、お客さんはこれで本当に楽しめるのかと考えて、「ちょっと微妙だな」と思ったら平気で作り直します。そうやって「お客さん中心」を積み重ねることで得られる信頼は大きいと思っています。

任天堂さんのタイトルって「ぜったい面白い」という安心感があると思うんです。同様にカービィに対しても「カービィのゲームだったら絶対に面白い」という安心感を脈々とどの作品でも守り続けてきました。お客さんが楽しんでくれる、そこに対して私たちが純粋に努力するのがやっぱり決め手になると思います。

──そんなシリーズを担当することになれば、プレッシャーは大きいのでは?

「裏切れない」というプレッシャーはありましたね。ただ、ストレスには強い方ですし、本当にヤバかったら上が止めてくれるだろうから思い切ってやろう、好きにやろう、という考え方でした。

これはカービィに限った話ではないのですが、シリーズものの作り方として「続編は大きく内容を変えるべきではない」という、私個人の信念があります。自分がお客さんの立場で考えると、好きな作品の続編を買ってみたら思いっきり内容が変わっていたとなれば、「僕が思っていたのはちょっとキャラクターが新しくなって、ちょっと新しいことができて、それを新しいお話でやりたかっただけ」となります。「クリエイター」にではなく、「IP」にファンがついているタイトルの続編は、そうあるべきだと考えていました。

とはいえ続編を買うお客さんは、お金を払って新しいゲームを手に入れることに対して、新しいものをプレイしている満足感、新規性は求めます。ただし、「新しく見えるけど基本的には変わっていないこと」が求められてもいると思います。基本的には95%は変えずに、5%を新しくする。これが自分の中のロジックとしてあります。

──その5%にどうエッジを効かせて新規性を感じてもらうか。そこが難しいところですね。

「新しいものを遊んでいる」という満足感をどこで感じてもらえるか、そこには注力しますね。

──先ほど「微妙だと思ったら平気で作り直します」との話がありましたが、それができるのは任天堂のタイトルに限られるように思います。

そうですね。「お客さん本位」の考えは宮本茂さんがインタビューでおっしゃっているように、遊ぶ人がいかに楽しめるかを突き詰めて考えることは任天堂さんに根付いています。

──ただ、普通のメーカーであれば納期優先で他を犠牲にすることもあると思います。

どうしても納期優先の会社さんの方が多い印象ですね。やはり予算も限られた中で開発をしているので、どうしても納期には厳しくならざるを得ません。株主さん、営業さん、問屋さん、お店の人。さまざまな人が関わって商品を作っている以上、なかなか開発だけの都合で簡単に計画を変えられるものではありませんから。また小さな受託会社にいた頃は、常に1本のタイトルに向き合うことはできず、複数ラインを同時に担当することも多いので、1つに対する集中力はどうしても落ちてしまうのが実情です。そうなると品質に対しての「お客さん中心」を守るのは厳しいという現実があります。

とはいえこれは、ポリシーの問題だとも思います。ハル研究所には「お客さんに商品を楽しんでもらいHappyになっていただくことで、私たちもHappyになろう!」という信念が強く根付いていました。

自分のやりたい形でゲームにかかれば、幸せに仕事ができる

──様々な人気タイトルの開発にかかわって、49歳でハル研究所を退職されました。定年はまだまだ先ですが、このタイミングでGameDesignLabを立ち上げ、クリエイター向けの情報を発信しようと思ったのはなぜですか?

いろいろなゲームを作りながら数年前から感じていたのが、「ゲーム作りも個人の時代になっている」ということです。ツールのアセット(素材)も本当に充実してきて、個人でも面白いものが作れるようになってきました。

一方で人件費が上がり続ける中、中堅メーカーは単純に面白いゲームを作るのではなく、付加価値を付けないといけません。AAAタイトルは3桁億円の予算で作られているとしても、お客さんから見たら同じですから、中堅メーカーは苦しいですよね。面白いアイデアがあっても、売り上げの規模感が1億円や2億円程度でパッケージ販売となると、全くプロジェクトとして成立しない。面白くてもお金にならないプロジェクトはどこもボツになる時代なんです。

そういう背景がまずあって、もう一つ感じたのは、いろんな会社と渡り合う中で、自分の持っている知識が割と世の中に公開されていないことです。実はこの情報に価値があるんじゃないかと思い、それを発信したくなってきました。

ゲームデザイナー向けの本はいろいろあるんですけど、文字ばかりで読んでもピンとこない。もっと分かりやすい形で伝えることが自分にはできると思うんです。

私が社内でやってきたディレクターの仕事はアウトプットが重要で、企画の内容やこのゲームのどこが面白いかをプレゼン資料で分かりやすく伝える必要があります。その要領でゲームのメカニクスを分かりやすく発信していきたいです。

──個人制作の時代になってきて、面白いアイデアを持っている人たちにアウトプットのノウハウを伝えれば良い化学反応が起こる、というわけですね。

そうですね。私もゲームが大好きなので、自分のやりたい形でゲームにかかわったら幸せに仕事ができると思いました。少子高齢化が進み、健康寿命も延びる中、私たちの世代はより長く現役で働き続ける最初の世代になることでしょう。そうなってきた時に、30代40代の人を相手に成果物で競り勝っていくことを続けたくないとも思いました。

年齢的にも50歳ですから、50代は自分のブランディングに使おうと思います。そのために自分の持っている情報を無料で発信する。今は有益な情報を無料で出す時代で、みんなそれに慣れています。そうなると有益な情報にスポットライトが当たるのではなく、有益な情報を発信している人にスポットライトが当たります。そう思って今この活動を始めました。

#02まとめ

「ゲーム作りも個人の時代になっている」と考える濱村さんはハル研究所を退社。自分の持っているゲームの知識や情報を分かりやすく発信することで業界を盛り上げるべく、GameDesignLabを立ち上げた。それが今の業界にプラスになるとともに、「自分のやりたい形でゲームにかかわったら幸せに仕事ができる」と、濱村さん自身も強い思いを持っている。

#03記事

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