「ゲームはおもしろい、ゲームを作ってる人も実はおもしろい」
多種多様な技術を持った人々が集まるゲーム業界。あの魅力的なゲームたちは、どんなゲームクリエイターが生み出しているのか。ベールに包まれた「ゲームクリエイター」の生態を解き明かし、この地に生息する「ゲームクリエイター図鑑」の完成を目指す。その過程として、一部のレポートを公開しよう
クリエイター図鑑 No.007
今回、お話をお聞きしたのは株式会社room6代表の木村 征史氏。非ゲーム業界からゲーム業界に参加し、自分たちの世界観を大切にしたインディーゲームレーベル「ヨカゼ」を立ち上げ活躍されています。前半は「ヨカゼ」を立ち上げるまでの様々な出来事をお聞きし、後半は、「ヨカゼ」をどのように運営しているのか、ブランドとしての哲学に触れていきます。
会社名「room6」の由来はなんとアパートの部屋番号
──今日はよろしくお願いします。自己紹介をお願いします。
木村さん:
株式会社room6の代表、木村です。京都でインディーゲームの開発やパブリッシングをしています。またインディーゲームレーベル「ヨカゼ」の運営もおこなっていて、「世界に浸れる」体験をお届けできるような作品を世に送り出すお手伝いをしています。
──そもそもの話になりますが、ゲーム業界にはどのように入られたのでしょうか?
木村さん:
実は、もともとはゲーム業界とまったく関係ない業界出身なんです。学生のころからゲームを作りたい気持ちがあってコンピューターの専門学校に通ったのですが、就職のときに残念ながらゲーム会社と縁がなくて。代わりに業務系のエンジニアとして、小さいソフトハウスでプログラマーをやっていました。具体的には販売管理や病院向けのシステム、ECなんかを手がけましたね。なんだかんだで、15年ぐらい非ゲーム業界で働いていたと思います。
──なるほど。そこからどんな転機があってゲーム業界に入られたのですか。
木村さん:
転機は2007年でした。というのは、その年に初めてAppleからiPhoneが出たんですよ。「これはチャンスだ」と思って、そのときの社長に「iPhoneの仕事がやりたい、モバイルアプリがやりたい」って直談判したんです。けど、それが却下されてしまったんですよね。それでもどうしてもiPhoneのアプリを作りたかったので、いっそのこと会社を辞めて起業しようと思い立ちました。結局それから2年くらい準備して、2010年にようやく起業したんです。
──そこまでモバイルアプリへの熱意があったのはなぜでしょうか。
木村さん:
やっぱり、ゲームを作りたい思いがまだくすぶっていたからですね。それまではゲーム開発って何十人ものスタッフでゴリゴリと作り上げるイメージだったので、自分1人では作れないだろうと思っていたんです。でもiPhoneアプリが盛り上がり始めたころにCocos2d-xなどのフレームワークや各種ゲームエンジンなど、個人でもゲーム開発に取り組めるツールをいろいろと知ったんです。そこで「少人数でも作れるんじゃない?」と思い立ったのがきっかけですね。
──環境が整ったからこそ踏み出せた一歩ですね。起業した当時はどのようなチームで活動されていましたか。
木村さん:計3名のチームで、僕のほかにエンジニアが2人いました。さらに、片方のエンジニアの奥さんがデザインもできるという話だったので、2011年に初めてゲーム開発に取り組んだんです。具体的には、Googleマップを使ったゲームに挑戦していました。
──いわゆる『ポケモンGO』のようなゲームということでしょうか。
木村さん:
はい、今でいう「位置ゲー」ですね。GoogleマップのなかでRPGができるというゲームを作っていたんです。でも、プロジェクトはなかなかうまくいきませんでした。作らないといけない範囲が広すぎたし、アプリのさまざまな制約を知らなかったんですよね。ひとまず形にはなったんですけど、冷静に遊んでみるとあまり面白い作品ではなかったんです。それで、最初のゲームは頓挫してしまいました。
──いきなり壁にぶつかったんですね。当時は独立したばかりで、仕事の獲得にも苦労されたかと思います。
木村さん:
そうですね。そのころはゲーム開発と並行して、スマホ向けのタスク管理ツールを自社開発してリリースしたり、辞書アプリや写真アプリなどの受託開発もやっていました。当時はスマホ向けの開発をしている人があまりいなかったので、前の職場の方から声をかけられたりして仕事につながることが多かったですね。
──モバイルアプリ全般の開発を手掛けられていたんですね。ゲーム開発はその後どうなったのでしょうか。
木村さん:
最初の位置ゲーは頓挫したのですが、それでも「また何か作りたいな」という思いは抱いていました。そのタイミングでちょうど、知り合いから「コミケの巡回に使えるアプリを作りたい」という相談がきたんです。具体的には、マップに巡回ルートが表示されて、メンバー間で共有ができるアプリ。最後にみんなの情報を集めて購入費用を割り勘できるような機能があるものですね。それを開発してリリースしました。実は会社として初めてリリースしたエンタメ方面のアプリが、コミケの巡回アプリだったんです。そしてそのアプリを開発したのが、会社があるアパートの6号室だったので、社名を「room6」に決めました。受託していたクライアントにあまり知られたくないと思ったので別の会社を立ち上げてリリースしました。
赤字のゲーム部門のみを残して再出発
──実はゲームと関係ないアプリが最初のリリースだったんですね。その後room6としてはどのように運営されていきましたか。
木村さん:そのころ、受託事業とは別でゲーム事業も立ち上げました。2015年にはゲームをリリースすることができたのですが、マネタイズが全然できていないという問題があって。10万本くらいダウンロードしていただけたのですが、1ダウンロードあたり1円くらいしか売り上げられなくて超大赤字だったんです。当時のスタッフは5人ほどいましたが、ゲーム事業は利益ゼロだったので受託チームのお荷物になってしまっていました。資金繰りも限界に近かったのでいちど決断して、受託チームを会社から切り離すことにしたんです。
──赤字だったゲーム事業ではなく、あえて利益があった受託チームを切り離したのはなぜですか。
木村さん:
そのころすごく優秀なエンジニアが受託チームのリーダーをしていて、その人が起業したいといってくれたんです。それで、任せても良いなと思ったのが1つの理由ですね。もう1つは、やはり僕がどうしてもゲームを作りたいという気持ちがあったからです。最悪、自分のことは自分で面倒を見られるから、一緒にゲームを作ってくれるデザイナーさんのお給料だけでも捻出していければいいと決断しました。それで受託チームの離脱を受け入れて、数年間デザイナーさんと2人で開発を続けたんです。
──黒字の受託チームを切り離すのは大きな決断ですね。迷いはありませんでしたか。
木村さん:さすがに迷いはしましたね。そこで1つの新しい試みとして、少しずつオフラインのゲームイベントに出展するようになりました。東京ゲームショウやBitSummitなどですね。するとそこでいろいろな人に声をかけてもらって、少しずつ認知が広がっていく手応えを感じたんです。そのころ、ポラリスエックスという会社の代表をしている住田さんという方に知り合いました。
──放置系RPG『中年騎士ヤスヒロ』で知られる企業ですね。
木村さん:
はい。とある方が住田さんに「京都で面白い会社がある」と紹介してくださったらしく、住田さんがroom6の事務所に遊びに来てくれたんです。そのころ6号室は開発では使っていなくて、物置のようになっていました。すると住田さんがroom6の入っているアパートを気に入ってくださって、「ここを使ってもいいですか?」と打診してくださったんです。そうして住田さんがアパートと契約し、6号室でポラリスエックスのお仕事を始めました。
──住田さんが来られたことで、どのような変化がありましたか。
木村さん:
そのころ、住田さんの会社で横スクロールアクションの『サリーの法則』というゲームをNintendo Switchに移植するという案件がありました。そのお仕事を、ありがたいことにroom6でやらせていただくことになったんです。そこで任天堂さんと契約して、いろいろなことを質問しながらつきっきりで開発を進めました。
木村さん:
そして2017年ごろ、ようやく『サリーの法則』がNintendo Switchに移植できました。出来栄えがよかったのでチームとして自信をつけたのはもちろんのこと、Nintendo Switch移植の実績ができたのが大きかったですね。というのもそのころ、Nintendo Switch向けの移植や開発をやっている会社はそんなに多くなかったんです。おかげで移植のお仕事を少しずついただけるようになって、ようやくゲーム開発で食べていけるようになりました。
──ついにゲーム開発事業が安定し始めたわけですね。そこでroom6は受託開発中心に舵を切ったのでしょうか。
木村さん:
いえ、一方でやっぱり受託じゃなくて自分たちのオリジナルのゲームを作りたいな、という気持ちがあったんです。2018年ごろからは企画を作って、予算を確保してオリジナルゲームのプロトタイプを作ったりしていました。
このころはチームが拡大していった時期でもありますね。あるエンジニアが、Nintendo Switchの開発スキルを身につけたいと申し出てくれたので、業務委託して一緒に開発を進めていたんです。そのエンジニアというのがhako 生活さんという方ですね。その縁で、hako 生活さんが開発した『アンリアルライフ』をroom6でパブリッシングしませんか、という話になったんです。
ヨカゼ誕生からローグウィズデッドへ
──お話を伺っていると、Nintendo Switchへの移植開発やインディーゲームのパブリッシング事業など、常に新しいことに挑戦されていますね。
木村さん:そうですね、セーフティーネットのようなイメージなんです。将来何かあったときに備えて常に「種を蒔いておく」ことは意識しています。当時はいろいろな開発者さんたちがNintendo Switchに移行してきた時期で、room6はたまたま周りより先にノウハウがあったんです。それでhako 生活さんとも縁ができたということですね。
そして『アンリアルライフ』をパブリッシングすることになったのと同じ時期に、アドベンチャーゲームの『From_.』を開発したnakajimaさんや、2Dアクションゲーム『果てのマキナ』開発中のおづみかんさんたちともつながりました。
最初から激動の日々を送った木村さん。その中でも新しいチャレンジをすることでチャンスを掴んできた様子が伝わってきます。赤字のゲーム部門を育て、後につながるメンバーとも出会い、いよいよ後半では「ヨカゼ」のお話をお届けします。
ゲームクリエイター図鑑No.006小野 真弘氏#1「最先端の最後尾を独走する」北の技術者集団インフィニットループに話を聞く
ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
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