CEDEC2024が8月21日~23日に開催されました。
楽屋でまったりでは様々なセッションのレポートをお送りいたします。
今回は『シノアリス』におけるエンディング施策と仕様の実装についてのセッションをご紹介いたします。
ユーザーの記憶に深く残るソーシャルゲームの終わらせ方 〜ユーザー自身がお墓に入る?!唯一無二のゲーム体験とそれを支える技術のはなし〜
約6.5年の運用から今年1月15日にサービス提供を終了したシノアリス。
メインストーリーの終了と同時にサービスを終了する、という新しいソーシャルゲームの終わらせ方や、
エンディングを魅せるための演出や工夫、さらに今までシノアリスをプレイしたことのない方でもストーリーの最後まで楽しんでいただくための施策も話題となりました。
また、シノアリスから「シノアリスだったナニカ」となったアプリはサービス終了後でも各ストアからインストールいただけ、
アプリ内でエンディングに到達したユーザーたちの足跡が見られる機能は、
ソーシャルゲームの終了後の新しい形としてユーザーの方からご好評の声を現在もたくさんいただいております。
この講演では、サービス終了間際の運営チームが人員リソースを増やせない中どのようにタスクマネジメントを行いリリースまで行ったのか、
リターンユーザーのための施策、エンディングを実装していく上で苦労したエンディング施策の仕様と実装、
運営の想定以上にアクセスが来てしまった場合を考慮して用意していた施策の話を詳しく紹介させていただきます。
全てのソーシャルゲームの運営に携わっているエンジニア、プランナーの方向けの
実例付きの即戦力になる知識を集結させた講演にまとめましたので、ご興味のある方はぜひご聴講ください。
受講スキル
- ソーシャルゲームの運営に携わっている方(エンジニア/プランナー)。
- ソーシャルゲームの終わらせ方について今後考える必要のある方。
- 大規模施策におけるタスクマネジメントに携わっている方、または興味のある方。
得られる知見
- 大規模施策におけるタスクマネジメントの方法。
- ソーシャルゲーム終了に伴うオフライン化の実例とアイデア、改善方法などが得られます。
- シノアリスにおけるエンディング施策と、実装方法をご紹介します。
『シノアリス』
『シノアリス』
それは最悪の「物語」
スクウェア・エニックスとポケラボが共同で開発・運営したスマートフォン向けバトルファンタジーRPG。
国内では2017年6月6日にサービス開始し、2024年1月15日にサービス終了を迎えた。
また、全世界143の国と地域で配信し、総登録ユーザー数は1,000万人超に達した。
コンサート、ノベライズ、コミカライズなどマルチメディア展開も行い、コミックスは英語・ドイツ語・フランス語・タイ語・繁体字中国語の5か国語に翻訳・発行された。
本作では、原作・クリエイティブディレクターとして「NieR」シリーズ、「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズを手掛けたヨコオタロウ氏、
音楽には「NieR」シリーズ、「ドラッグ オン ドラグーン3」でヨコオタロウ氏とタッグを組んだ岡部啓一氏・MONACA、オリジナルキャラクターデザインはイラストレーターjino氏が担当した。
『シノアリス』におけるエンディング施策
『シノアリス』では、立ち上げ時からしっかりしたエンディング構想があったそうです。現役のユーザーだけでなく、引退したユーザーや新規ユーザーを含め、たくさんの人にエンディングを見てもらいたいという思いで、お祭りのようなエンディングを楽しめるようにと施策が進められました。
その中でも重要であったのは”ユーザー自身の手でシノアリスを終わらせる”ということでした。その終着点が、『シノアリス』のアプリがプレイヤーのお墓を模した『シノアリスだったナニカ』に変わるところです。
しかし、その終着点に達するには、過去に配信されたストーリーに加えてヨクボウ篇1~6章をプレイしたうえで、ヨクボウ篇7章におけるギルドメンバーとのレイドバトルを経て、ゲームのエンディングを見る必要があったそうです。
最終ギルドレイドバトルをプレイしエンディングを見るには、
- ギルドメンバー全員が同じ時間に揃わないと開始できない
- ギルドメンバー全員がヨクボウ篇6章までクリアしておく必要がある
という条件がありました。
また、メインストーリーの後半は求められる戦力が高く、簡単に勝てないという点や、エンディングに到達するまで約16時間がかかることもあり、引退したユーザーや新規ユーザーにはハードルが高いのではないかという懸念がありました。
スキップ機能の実装
そこで、元から決まっていた初心者向けバトルサポート機能の実装に加えて、ヨクボウ篇までスキップできる機能を実装することにしたそうです。
この機能のきっかけは、プランナーが「なにかバズリも期待できるような面白い裏技みたいなやつ欲しい!」「昔のゲームの裏コマンドみたいなやつ!」と話していたことです。それを聞いたエンジニアから、端末シェイクを利用した機能の案が出て、「ホーム画面で一定回数端末をシェイクする/オプションシーンで100分放置することで、ヨクボウ篇1章が開始できる箇所までスキップする機能」が生まれ、サウンド担当者の「シェイクしたらガチャの曲が1曲分流れるようにしたら面白そう!」というアイデアと組み合わさり、実装されたとのことです。
あくまで裏技であるため運営側からは告知をせず、バイラル(口コミ)効果を狙ったそうです。その結果、徐々に気付くユーザーが増え、サービス終了まで残り2週間となった1月1日に暗号を使ったツイート告知をすることで情報を公開しました。この暗号ツイートはマーケティング担当者が作成したそうです。
ヨクボウ篇SKIP機能が認知されてからは多くのユーザーに活用され、サービス中にエンディングに到達するユーザーが増加しました。
ギルドレイドのデータ同期
次に挙げられたエンディング施策における課題は、ギルドレイドのデータ同期についてです。
先述の通り、最終ギルドレイドバトルは、ギルドメンバー全員が同時に揃って挑む必要があります。
そのため、
- メンバー全員そろった状態でギルドレイドにチャレンジしてほしい
- バトル前後に流れるシナリオもメンバー間で同時進行させてほしい
という要望があったそうです。
そこで、この要望を満たすために、「メンバーの同期をどのように開始するか」「ギルドメンバーのうち誰かが落ちた場合、どう復帰させるか」が問題になりました。
そこで解決策として、データ同期の開始場所として、バトル前に「ギルドレイド待機所」を設置しました。
また、データ同期のソリューションとしてFirestoreを採用しつつ、「シノアリスだったナニカへ移行」までの過程を「バトル前シナリオ」、「ギルドレイドバトル」、「バトル後シナリオ動画」、「エンドロール+ギルドチャット」、「ナニカ用プロフィール入力」などといったフェーズに分け、ユーザーがどの地点にいるかという情報を持たせることにしたそうです。その情報からアプリ落ちした際の復帰ポイントを判断することで、UXを損なわないようにしたとのことです。
ログイン制限
次に挙げられた課題はログイン制限の実施です。
ログイン制限の実施の理由は、エンディング施策によりDAU(Daily Active Users)の増加を図っていたからです。
施策開発中はプレイヤーがどれだけ増加するか予想できず、負荷がかかりサービスの安定性を失う可能性がありました。
そこでログイン制限として、リクエストレート制限という方法を採用しましたが、先述のようにギルドレイドバトルではギルドメンバー全員が同時に集まる必要があったため、細かい条件を設けることで解決を図ったそうです。
その条件とは、
- 制限をかけるAPIはアプリ起動時に叩かれるAPIのみとする
- ギルドメンバーの誰かがゲームプレイ中であれば、同じギルドに所属しているユーザーはレート制限中であってもログインAPIを突破できる
というものでした。
これらにより、ログインの増加幅が予想できない状況でも、サービスの安定性を担保することができたそうです。
エンディング施策開発におけるタスクマネジメント
- タスクを小さいパーツに切り出して工数を確認し、タスクの全体像を把握する
- 出した工数を算出し、実装が間に合うかを確認
- 対応順に優先度をつける
- 工数が逼迫する使用は実装方法的にもう少し圧縮できないかを検討
といったように、タスクと工数の可視化を行いました。
また、実装総量に対して、仕様の詳細を詰めるプランナーの人数も足りない状況だったため、仕様が決まらず工数が出せないという問題も発生していたそうです。
その問題に対し、とあるエンジニア(高田さん)が行ったことは、地道に仕様の未FIX箇所を潰していくということでした。
FIXしていない箇所について他のエンジニアから報告を受けた際には、プランナー側に方針を提案するなど、少しずつ未FIX箇所に対応していったそうです。
仕様が完全に定まらない時には、
- 仕様がFIXしていない&リリース日が確定している場合
- 一番のコアをまずチームで明確化し、実装するための工数出しを行う
- 実装を行う上で判明する懸念事項など、プランナーだけで仕様を策定できない箇所などはエンジニアもフォローする
- 追加仕様が出てきた場合
- それは本当に叶えたいものなのか?、実装を行って品質に問題はないのか?を確認して判断
など、積極的に対応や提案、確認を行っていったそうです。
その結果、努力が実を結び、最終的にはリリースまで遅延なしで実装を仕切ることができましたが、その一番の理由は、「マイルストーンの設定」と「プレイ会」でした。
エンディング施策は規模が大きいうえに、一つ一つの工数が長かったため、2週間単位で、「この施策はいつまでに実機で確認できるようにする」とし、プレイ会を実施することで締めきりを設けたそうです。
プレイ会があることで短期的な目標を作ることができ、進捗の遅れなどについてもフォローがしやすくなりました。また、確認の回数が増えることでバグの減少にもつながったそうです。
さらに、プレイ会には他にもメリットがありました。それは、モチベーションへの好影響です。
厳しい状況で開発を進めるスタッフの間でネガティブな雰囲気が漂うこともある中、実際に触って実装を確認できることで、モチベーションを向上させることができたそうです。
以上のタスクマネジメントにおける工夫の結果、エンディング施策は全て音スケジュールでリリースされました。
まとめ
ご登壇者
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高田 美里さん
株式会社ポケラボ 結プロダクション エンジニア
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<講演者プロフィール>
2020年ポケラボ中途入社。
以来クライアントエンジニアとしてシノアリスの運営開発に従事。
シノアリスのクローズ周りをリーダーとしてマネジメントしつつ、プレイヤーとしてクライアントメイン実装も担当。
現在は新規プロダクトにてエンジニアセクションリーダーとして従事。<受講者へのメッセージ>
アプリのリリースや運用にクローズアップされた講演はよくありますが、クローズを主題に取り扱った講演はあまりないと思います。
今回は今年1月にサービス終了をしたシノアリスの実例をもとに、
どのような施策を行ない、どのようなユーザーの反応を得たのか?またどのようなチーム規模感でクローズ周りの開発を行なったのか?などをご紹介します。
アプリを運用する上でのプロダクション面でも、アプリを開発するエンジニアリング面でも参考になるような知見をたくさん盛り込みました。
講演の内容が、みなさまのゲーム開発のヒントになれば良いなと思います。
-
悦田 潤哉さん
株式会社ポケラボ 結プロダクション エンジニア
-
<講演者プロフィール>
2019年ポケラボ中途入社。
以来サーバーサイドエンジニアとしてシノアリスの開発/運用に従事。
クローズ時期にはサーバーサイドの開発マネジメントを行い、クローズに伴うサービス停止作業を担当。<受講者へのメッセージ>
サービス終了告知後もアップデートを行い機能をリリースしていったシノアリス。
DAU増加を狙った施策を打ち出し、多くのユーザーにリーチすることを目標としていました。
しかしサービス終了ともなると開発/運営予算を増やすことはできません。
本セッションではエンディングに盛り込んだ機能の紹介と、DAU増加が見込まれる中どのようにしてサーバー費を抑えたかについてお話しさせていただきます。
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ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約7600人参加(2023年12月現在)
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