「鉄拳」「ソウルキャリバー」のアニメーターから『小澤P』になっていた話【クリエイターヒストリア#9 前編】

クリエイターヒストリアとは
クリエイターヒストリアとは、ゲーム業界でお仕事をしているデザイナー、プランナー、エンジニアなどのクリエイター向けに、キャリアデザインをテーマに実施するセミナーイベントです。 業界で成功を納めているクリエイターは、今までどのようにキャリアを積んできたのでしょうか… 現在に至るまでの努力や道のり、人生の転機など、その歴史に迫っていきます。

クリエイターヒストリア#9、小澤至論さんが登場!

クリエイターヒストリアは各回で豪華ゲストをお招きし、キャリアストーリーをインタビュー形式で紐解いていくイベント。今回は、バンダイナムコスタジオ第1スタジオ・スタジオゲームデザインマネジメント室所属の小澤至論さん。アニメーターとして鉄拳やソウルキャリバーシリーズの開発にかかわり、2018年には『ソウルキャリバー6』において制作プロデューサーを務めた小澤さんに、キャリアを語っていただきました。

小澤氏
今日はゲーム制作において、挑戦することと応援することの大切さを皆さんに伝えたくて参加させていただきました。
宮田
よろしくお願いいたします。

「ゲーム業界に入る道以外は考えてなかったんです」

小学生からテレビゲームにどっぷりハマっていた小澤さん。どれぐらいハマっていたかと言うと「大学入試の前日もゲームセンターが閉店するまで遊んでしまい、見事に落ちちゃう。もうそのぐらいゲームが好きだった。ゲーム業界に入る道以外は考えてなかったんです」とのこと。

ただ、ゲーム業界が新しく生まれた業種だった時代、女手一つで育ててくれた母親からは反対され「もっと世の中を見てくれよ、テレビに映し出される東京はこんなにすごいじゃないか」と悔しかったそうです。

それでも、次第に自分を育てるのに一生懸命だった母親に「親は分かっていない」と切り捨てるのではなく、行動で認めてもらおうと考えるようになりました。

小澤氏
雑誌で募集していたゲームアイデアコンテストに応募したり、就職活動で企画書を送って一次審査が通るたびに「審査、通ったよ!」と伝えたり、その結果、徐々に応援してもらえるようになりました。
宮田
言葉だけではなく実際に行動に移していくところを見て、親御さんも応援する気持ちに変わっていったんですね。
小澤氏
そうだと思います。
宮田
親御さんの反発があっても、そこで反抗するのではなく、前向きに「こう活躍していく」というところを見せるのが大事ですよね。

「セクシーな動きって何だろうと哲学した」

熱意が実ってアニメーターとしてナムコ(当時)に入社した小澤さん。『ソウルキャリバー2』でセクシーな女性キャラ、アイヴィーのアニメーションを担当することになり、キャラを立てるべく「セクシーな動きって何だろうと哲学した」という時の恥ずかしいエピソードを教えてくれました。

小澤氏
キャラクター性を自分に憑依させた方が良いものを作れます。自分のデスクで鏡を見ながらセクシーなポーズを取るのは照れ臭いので、エレベーターに乗ったんです。11階から1階まで移動する30秒ほどの間に、鏡の方を見て「アハーン」「ウフーン」と思う存分やって、扉が開くと何食わぬ顔で出ていくんです。
宮田
想像だけではなく、実際に自分で動きを作るということですね。
小澤氏
ところが同僚に「エレベーターって監視カメラが付いているから、管理室で全部見られてるよ」と言われて、もう顔が真っ赤になりました。それから管理室の前を通る時は忍者のように物音を立てずスーッと駆け抜けています(笑)。
宮田
でもその結果、アイヴィーのモーションはかなり良いものになったんですよね。
小澤氏
そうですね。私としては自信のあるものになったと思います。

先輩の言葉「上に立つ人間がすることは、現場を甘やかすことだ」

ここで小澤さんが語ったのは、「初めてのマネジメントでメンバーを管理しすぎて失敗する」というエピソードです。アニメーションのメンバーをガチガチに管理した結果、衝突が多くてチームワークも良くない。それでクオリティーも上がらないのに、クオリティーの責任は自分が持たなければならない状況に陥ります。

しかし、そこで『鉄拳』チームのディレクターから貴重なアドバイスをもらいます。

小澤氏
先輩が「上に立つ人間がすることは、現場を甘やかすことだ。大丈夫だから放っておけ」と言ってくれたんですよ。あの言葉には衝撃が走りました。放っておいたらクオリティーが上がることが理解できなかったんです。
宮田
それが実際にうまくいったんですか。
小澤氏
そうなんです。クリエイティブの現場で上司がガミガミ言うと、現場の子は上司の顔色を見てもの作りを始めてしまいます。ところが放っておくと、現場は自然とお客さんの方を見て、そして自分が本来表現したかったものとすり合わせながらクリエイティブし始めるんです。
宮田
そこで考え方がかなり変わったんですね。
小澤氏
あの言葉がなければ今の僕はなかったでしょうね。
宮田
あらためて「マネジメントって何を業務とするんですか?」と質問されたら、どう答えますか?
小澤氏
まず「理念を伝える」こと。その上で「承認する」ことと「計画を立てさせる」ことだと思います。理念を伝えて、このゴールに行けば君は成長していると伝えてあげる。その上で、君の力でどのぐらいのスケジュールが作れるのか任せてしまう。そして出来上がったものを承認してあげる。
宮田
なるほどですね。
小澤氏
そして「このアニメーションは良いね。また一歩腕が上がったんじゃない?」と褒めてあげる。僕はこれがディレクションのお仕事だと思っていますね。
宮田
スケジュールもそれぞれ自分たちで考えさせて、それを承認して取りまとめていく形で全員をまとめていくんですね。
小澤氏
はい。僕はそう思っています。

『ソウルキャリバー2』のアイヴィーを担当したのが小澤さん。キャラの個性が際立っていたのは、人知れないクリエイティブの苦労があったからこそですね。

また小澤さんが失敗から学んだマネジメントは非常に参考になります。「上に立つ人間がすることは、現場を甘やかすことだ」。大丈夫かな? と思ってしまいますが、それが組織を機能させる様子を小澤さんがうまく説明してくださいました。小澤さんのヒストリアは後編へと続きます!

▶︎後編へつづく!

ゲームクリエイターの楽屋でまったり by Game Creators Guild

登壇者ご紹介

小澤至論(おざわ みちのり)氏

バンダイナムコスタジオ第1スタジオ・スタジオゲームデザインマネジメント室所属。
青森県出身。大学卒業後、大阪のゲーム会社へ入社。
2000年にナムコ(当時)へ移籍後、アニメーターとして鉄拳やソウルキャリバーシリーズの開発に関わる。2018年には『ソウルキャリバー6』において制作プロデューサーを務める。現状は同社の新人教育や学校での講演などもしている。

宮田大介(みやた だいすけ)

株式会社STAND代表取締役。
クリエイターコミュニティのゲームクリエイターズギルドを主催する。過去にはゲーム開発者として、モバイルタイトルのディレクター、プロデューサーから、プランニング部門長、ゲーム事業部の事業部長や、韓国支社で日中韓の3拠点でのゲーム開発事業の責任者をしたりといろいろ。いろんなクリエイターを応援して、愛のあるクソゲーからAAAタイトルまで多種多様なゲームが生まれ続ける環境を目指しています!


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※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)

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