小学生が作ったゲームがニンテンドースイッチに?開発アプリ「スプリンギン」インタビュー

ゲーム開発アプリ「スプリンギン」は、プログラミングの知識がなくても直感的な操作でゲームを作成し、他のユーザーと共有して楽しむことができるプラットフォームサービスです。この「スプリンギン」で作られたゲーム『くまモンラン』が、ニンテンドースイッチでもリリースされることとなりました。

特に注目を集めているのは、小学生が作ったゲームをもとに開発された『くまモンラン』が2023年12月にニンテンドースイッチでリリースされ、話題となった点です。ゲームクリエイターズギルドでは、「スプリンギン」の開発者である中村氏にお話を伺いました。

『くまモンラン』はどんなゲーム?

「くまモンラン」はくまモンがイチゴやスイカなど、熊本県のおいしい特産品をゲットしながら走り続けるゲームで、プレイヤーはくまモンが長く走れるよう道を上下に操作しながら熊本の名所を巡ります。
特産品を取れないと、体力が少しずつ減っていきます。画面上部の体力ゲージがなくなるとゲームオーバー!
さあ、あなたはくまモンとどこまで走れるかな?

ニンテンドースイッチページ

 

スプリンギン開発者の中村氏にインタビュー

――『くまもんラン』は小学生の作品が元になっているそうですね。

中村氏  そうですね。元となるゲームを小学生が作っていたんですが、これがすごく面白いからもっとブラッシュアップしようという話になって、元のゲームの権利を使って『くまもんラン』は生まれました。権利使用については、小学生に現金ではない方法で対価をお支払いしています。最初公式サイトくまモンランドにこれまでゲームがなかったので、サイト用に作っていたのですが、ニンテンドースイッチでも出すことができました。くまモンランドでは小学生のアイディアをもとにしたゲームをサイトで遊べるようにしたり、スプリンギンでも遊べるようにしようということで展開しました。

――スプリンギンに投稿されていた小学生が作ったんですか?

中村氏  いろんなコンテストで賞をいっぱい取っている小学生がいて、このゲームを作った時は六年生だったんですけど、この子はその後も面白いゲームを数多く作っています。

くまモンのゲームを作る時に、くまモンは子供にも人気があるので操作方法が複雑なゲームよりは、操作は簡単だけどちょっと変わった楽しさがあるようにしたいというのがありました。そこで、このゲームをもとにしたいって相談を彼にしたんです。ニンテンドースイッチ版では少し要素は追加していますが、元のゲームシステムは彼のゲームそのままです。くまモンGAMESでも好評で、熊本県のイベントでも子供がずっと遊んでくれるほどになりました。

――これをスプリンギンで作っているわけですね。

中村氏  そうですね。スプリンギンはゲームがタブレットやスマホで作れて、移動中にゲームを作ってる人がいたりするぐらい簡単に作れるんです。それぐらい作る行為をものすごく簡単にできるようにしたので、ゲームクリエイターを増やしたいと思っています。ゲームだと、ブラウザだけでなく、アーケードとかでも動かしてみたい人もいると思うんです。それで、ゲームセンターのGIGOさんと共同でスマホとかタブレットで作ったゲームをゲームセンターで遊べるようにしたりもしていました。

――ゲームだしいろいろなところで遊べるようにしたいと。

中村氏  アーケード以外にもコンソールでも遊びたいし、スプリンギンで作ったゲームがニンテンドースイッチで動かせるようになったのは、スプリンギンは、iOSやアンドロイドで使えるようにしていたので、同じようにニンテンドースイッチでも動くようにしたいというのがありました。

それで、協力してくれる会社にエディアさんがあるんですけど、エディアさんは任天堂とのやり取りとかを理解されているのでスプリンギンで作ったゲームをニンテンドースイッチで動かせるようにしてパブリッシュできるんじゃないかということでご協力をいただいています。

――それで第一弾に『くまモンラン』を出そうとなったわけですね。

中村氏  『くまモンラン』は人気もあったので第一弾にしようということになりまして、せっかくニンテンドースイッチ化するのでモードを増やしたり要素を入れたりして無料版からバージョンアップした状態にしました。でも中身はスプリンギンで作ったものををそのまま弊社でニンテンドースイッチで動くようにして、エディアさんにパブリッシュしてもらう流れを作ったんです。その後、Switchに移植するゲームのコンテストも開催し、2作品の移植が決定しました。

コンテストページ:エディア×スプリンギン 「あなたの作品がゲーム機で遊べるようになるかも!? ゲーム開発コンテスト」

今後もスプリンギンのタイトルをニンテンドースイッチに移植していきたいですね。

エラーが発生しないゲームエンジン「スプリンギン」

――続々と登場しそうですね。この記事では初めてスプリンギンを知った人もいると思いますので、簡単に紹介をお願いできますか

中村氏  簡単に言うとノーコードで、誰でもスマホでゲームを作ってみんなにシェアできるクリエイタープラットフォームです。作るツールでもあるんですけど作ったものをみんなにシェアしたりコミュニケーションを取ったりすることができて、ゲームのTikTokって感じにしたいです。それによって人気が出たり、今後はそのままゲームを買っていくところまで持っていきたいと思っています。

スプリンギンの特徴なんですが、説明の文字が全くないことと、もう一つはこれすごい大事なんですけどエラーが存在しない設計にすることで、作っていくうちにエラーコードが出てよくわからないけど止まっちゃうっていうのがないようにしています。もちろん変な動きするとかはあるんですけど、とにかく止まらないようにしています。

それから開発画面と実行画面がほとんど一緒です。ですので、作ったままの形で動く。イテレーションが早く回るので、作りたい気持ちがあるまま作れます。絵を描くことが、クラスの定義なんですよ。それで設定をして画面にインスタンスして出力して、動かしていく。オブジェクト指向そのまんまの形にしています。
再生ボタンを押すと実行できるのですが、物理演算が最初から入っているので絵を2つ置いただけでも遊べるようになっています。そして、触ってみてわからなくなってしまっても停止ボタンを押すと開発画面に戻るんです。

 

開発については、背景の何もないところや配置したオブジェクトをタップするとアイコンが出てきて、この組み合わせでプログラムを書いていきます。例えば、一番左のリンゴの落ちているイラストであれば重力とかが用意されています。重力を設定して実行すると中の物体が落ちるようになります。こういったアイコンが40個くらいあります。スクラッチだと130くらいあるのでそれに比べるとかなり少ないんですが、基本的に自然現象とか物理現象とか生活の中でやったことあるものをペースに作っています。例えばピンで止めるアイコンならオブジェクトが落ちなくなるとかですね。音も録音出来て再生できて音の高さも変えたりトリミングしたりもできてゲームに追加できて、これだけでもちょっと遊べそうですよね。

あとはスプリンギンで漫画を作る人がいて、新しい漫画表現になるんじゃないかなと思っています。イラストにゲーム要素を取り込んでストーリー途中に謎解きがあって解かないと先へ進めないといった表現をしている人もいますね。

 

――コンテストも開催されているのですね。

中村氏  最近のコンテストですとCG World雑誌のコンテストで、CGWORLD×スプリンギン「ビジュアルノベル・デジタル絵本コンテスト」にはビジュアルノベルのように絵が基本になってるゲームを募集したので、途中にちょっとした動きが入ったりとか分岐があったりしたゲームの応募がありました。
そのほかにも様々な企業とタイアップしています。

 

開発のきっかけはiPadをもっと創造に使ってほしいから

――スプリンギンを作ったきっかけはなんでしょう?

中村氏  2010年にiPadが出てきて、すごくいいな、面白いなって思ったんですけど、どうしてもみんな消費する道具にしていて、すごくもったいない。iPadはもっと創造するための道具にもなるはずだと考えて、絵を描いて音をつけて、触ったら音が鳴るアプリを作ったんです。スマホのアプリってみんなタッチしたら音が鳴るって共通の認識もあるし、そんなのが簡単に作れるようになったら、みんなが創作してくれるんじゃないかと考えたんです。それで、うちの娘が当時2歳だったので、2歳でも使えるようなものにしてみました。でも、そのアプリではできるものに限界があって、より感覚的に色んなものを作るとなると、プログラミングの要素が絶対必要になる。だけどこの段階でゲームを作るためにプログラミングの勉強をしてくださいというのは絶対違う。絵を描く延長でゲームって作れちゃうぐらい簡単で感覚的で、勉強量をとにかく減らすことはできないかと考えたんです。

――スタートがiPadだというのが面白いですね。

中村氏  そんな考えがあるので、文字を使わないとか途中で開発を止めたくないのでエラーを出さないようにするというのもここから来ています。作りながら試行錯誤して、どんどん面白いものになってほしいので、いかにすぐに動くかという点も大切だと思いました。2017年ぐらいに作るだけじゃなくて、みんなに届けるマーケットとかを追加して今の形になりました。作ったものをちゃんとみんなに遊んでもらってコインをもらったりできるようにしてコミュニケーションが生まれるようにしたんです。

――PC向けは考えていないのでしょうか?

中村氏  学校向けにchromebookやwindowsで動かしたいと要望があったのでスプリンギンクラスルームというソフトがあるんですが、スプリンギンはタッチパネルでマルチタップができるから面白いんですよ。パソコンにするとマウスとクリックになっちゃうので作り方が変わってしまう。そもそもマルチタッチ前提でみんなゲーム作っているのが、PCとブラウザで遊ぶとマウスでしか動かせなくなってしまう。こういった事を考えるとスマホファーストという文化があったと思います。

――他のツールは今ゲームを作っている人に対してどう制作環境を変えていくかを考えていますが、スプリンギンは今ゲームを作ってない人に向けているのですね。

中村氏  制作している年齢の幅は広いですよね。一番多いのは小学生中学生ぐらいで、次に多いのが3,40代の親世代なんです。子供がやってるのを見て自分も始めたというの方も多いんですが、この世代はファミコン世代でゲームを作りたかったんだよねっていう人たちが多いんです。今のゲームはリッチすぎて作ろうと思うのは相当大変ですし、今更勉強してというのはさすがに難しい。ということで、2つの世代の山がありますね。イラストを描くのが好きでずっと絵を描いてたんだけど、表現方法として動けばいいなと感じていた人がスプリンギンを知って始めてくれて、それまでプログラミングなんて自分では絶対できないと思ってたのに、やり始めたらすごいゲーム作るということがありました。

――作ってる画面と実行画像が全く一緒でエラーが無いので、ゲームを作ってるのと遊んでるのが一緒になっているようなツールという感覚がありますね

中村氏  ゲームを作ることそのものがゲームであればいいなと思っていて、ユーザーの数で言うと25万人ぐらいでじわじわと増えている状況で。まだ知られてないので頑張っていきたいですね。ゲームが数多くあるので遊ぶだけでも全然いいと思ってるんですが、遊ぶ人と作る人が混ざった状態に持っていきたいので、スプリンギンを使って「こんな遊び方があるよ」って気軽に言えるようにしたいですね。ゲームエンジンのTikTokというか、ゲームを作るなんて思ってもいなかった人が気軽に作れるぐらいまで知名度を上げたいと思います。

動画投稿がTikTokの登場で気軽にできるようになったのと同じことがゲームでも起きているんじゃないかと思っていて、PCで作るんじゃなくて数分くらいで気軽に作って遊んで笑うくらいのカジュアルさになってほしいと思っています。プロセスエンターテイメントっていう言葉をを流行らせたいなって思うんですけど、ゲームを作る過程そのものがエンターテイメントになるのは今増えてるAIに対抗する一つの方法だと思っていて、「ゲームを簡単に作れます」を「ゲームを勝手に作れます」にはしたくないんですよ。

――あくまで作るためのツールであり創造の手段なのですね。

中村氏  ツール化しているんですけど創造するときのモチベーションって大事なので、認められることであったりとかより多くの人に遊んでもらうことは大切だと思うんですよ。コンテストをやって、何かの賞に引っかかっただけでその人のやる気に火がつくんですよね。毎月賞がいっぱい用意されていて、賞を取ったって成功体験がゲームをもっと作ろうってなる一つの要因だと思っていて、そういう機会を今後も増やしていきたいですね。


――ありがとうございました。

もっと詳しくスプリンギンを知りたい方はこちら!

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