北欧文化がゲームを通して継承しようとしている文化と歴史【おれんじびより】

ファンタジーゲームによく出てくる北欧文化…ゲームとの深い関係性

私の書きたいことをひたすら消化していくゆるいタグと化しています、おれんじびよりです。ゲーム翻訳者の私がゲーム業界、ゲーム関連で聞いた話や調べた話を語っていくタグです。

長らくお待たせいたしました、ヨーロッパ編ラストということで、ファンタジーゲームの設定によく採用される北欧文化について、学んだことを書き残していきたいと思います!(ちょっと重めな記事かもしれない)

ありっさ
ありっさ
私が勉強しているような内容を多く含むので、調べるのめちゃめちゃ面白かった…テーマを提案してくれて、参考文献までくれた友達に感謝。

自国を確立しながら、世界へ

「北欧」と括られている地域には、アイスランド、フィンランド、デンマーク、スゥエーデン、そしてノルウェーの5カ国が含まれています。独立を勝ち取った過去や、第二次世界大戦時にナチス軍と懇意にしていた過去…理由はまちまちですが、皆自分たちの国の独自性、そして北欧という集合体の文化を確立させるために奮闘しています。

中でも、ノルウェーとスゥエーデンは第二次世界大戦時についたどっちつかずのイメージを払拭し、勝利国と手を結ぶため急速に欧米のポップカルチャーを迎合するようになり、自分たちも積極的に創作・発信をしていくようになりました。

北欧の国々は文化的に「理論」を重視し、「どうせやるなら、うまくやれ」という精神が根付いている為、空間デザインやゲームデザインなど設計ベースのものづくりを得意とする人が多い事。自分たちの築いてきた歴史や文化を大事に想う気持ちと、北欧で広く支持されているルター派から生まれる戦時中に起こった人災に対する罪悪感。2つの相反する思想の葛藤から紡ぎ出される物語が普遍的な問いや感情を含むため、生み出すものが世界中で広く受け入れられた事。

世界と馴染むために、自分たちの立場を確立させるために始めた創作活動だけど、願わくば今まで培ってきた過去も守りたい、賞賛したい。政府が創作活動を支援してくれるバックアップもあり、自分たちの歴史や文化を後世に残すためにはエンタメに託すのが一番だと感じたクリエイターたちは、特に感情移入がしやすく、個人の体験を積むことができるゲームを見出しました。

要約:
国際情勢のために、自国のアイデンティ確立のためにポップ・カルチャーを迎合。職人気質な国民性を活かせること、文化や歴史を自分事として考えられるようにゲームが適切と判断し、クリエイターと政府が結託する!
ありっさ
ありっさ
東欧もですが、政府がクリエイティブの創出をバックアップしてくれるというのは非常に心強いですね!

歴史を繋げるために、計画立て

文化の空気感や息遣いをそのまま再現し、それを自分の体験として落とし込むことにより、記憶と文化の保持と継続、文化に対する親近感を育むことができる。そう信じ、ゲームクリエイターたちは歴史資料を集め、地域の人の思い出や話を聞き、参照し、自分たちの歴史を彩度高く再現しました。

自分たちの手を離れても、核となる部分はきちんと伝わるように含む要素は慎重に選別された。なるべく分かりやすく、且つ、ゲームに映える要素を盛り込んだ結果、「北欧テーマのゲーム」と言われて大抵の人が思い浮かべるヴァイキングや北欧神話が世に放たれました。

長い間外界から隔離されていた北欧文化はアメリカや英国のプレーヤーの目に独特に映り、鮮烈な印象を残しました。また、幸いなことに、北欧の文化を構成する要素が認知されやすく、取り出して単体で使ってもイメージを連想しやすいことから、世界観構築にそこまで時間を割きたくない海外クリエイターに好んで採用されるようになりました。

要約:
自分たちの文化が取り出され、アダプトされることを想定していたかは定かではないですが、発信するからにはねじ曲げられる可能性があること、そして、文化というものは変わりながら継承されていく、ということをしっかりと理解している北欧の人たちの深い考えが功を成している、と言えるでしょう!
ありっさ
ありっさ
文化というものは作用し合いながら成長し、連なっていくものですから、なるべく色々な人の目に触れ、心に響いた方が残りやすくなる説もありますからね。

 

北欧ゲームと、北欧クリエイターの作るゲーム

最近は、少し路線変更しながらも、北欧クリエイターは自分たちの文化を発信し続けています。海外クリエイターが北欧文化、北欧要素を迎合して、自分たちの作品を作ってくれたため、現在ゲーム市場には「北欧文化」と言われればそれなりに正確なイメージを抱ける人が多くいます。ローカライズ方法が以前より現地に寄り添う形になったこと、そしてインターネットの発達も助かり、前提情報をわざわざ説明しなくても一気に物語に入っていける状況が整ったわけです。

そこで、最近多くの北欧クリエイターが挑戦しているのは自分たちの国の暗い部分もしっかりと発信していくこと。国のブランディングをする際、悪い所をなるべく見せないようにするのはよくある発送ですが、その影響で国民が苦しんでいるのを見過ごせないと決め、エンタメでメッセージを伝えられることを、既に実感しているクリエイターたちが立ち上がっています。

幻覚障害のあるキャラを主人公に据えたり、家族を捨てる母親がキーパーソンとして出演したり…と、割とダークなメッセージを含む物語を展開している作品も少しずつ出てきています。

もう1つのムーブメントは新しい文化を作っていくこと。今まで先祖たちが経験してきた過去をトレースした上で、自分たちの経験も刻んでいけるように。ゲームデザイン自体をマルチプレイ重視にして、仲間との協力や大切なものを守るために戦う価値観をプレーヤーに実感させる、などの手法が使われています。

プチっと情報:
北欧の創作は基本的に “proto-world” という、行間を重んじるスタイルを採用しています。分かりやすい絵を描くというよりは、断片を見せて受け取り手に解釈を委ね、何かしらを彷彿とさせるスタイルに秀でています。

創作活動の歴史の中で、葛藤を抱えながら生み出してきたクリエイターたちの価値観や風土を多分に含んでいる北欧ゲームたち。今までの過去から生成される雰囲気や強みを大事にながら、新しい挑戦を重ねる姿はゲームに限らず、北欧の様々なクリエイティブ分野で見られる光景です。

ありっさ
ありっさ
独特なスタイルを築きながらも、普遍的なテーマを発信し続ける北欧ゲームが、次はどんな挑戦をするのか、見ていて、研究しているとどんどんワクワクしてきます!個人的に日本と似ている歴史背景を歩んできている部分もあるので、その分岐が面白い。

北欧ゲーム、遊んでみてどう感じる?

ありっさ
ありっさ
はい、めちゃめちゃここまで重かったですよね。濃い〜内容ではあるんですが、やっぱり文章だと文字の壁が襲いかかる仕様に…。私は調べていて、書いていて、とても楽しい内容だったんですが、最後にGCG内で北欧ゲームについてちょっと聞き回ってみたんで、トーク内容も少し紹介していきたいと思います!

※しみずさんが一番突っ込んだ話をしてくれているので、最後部に置いています。それ以外は、聞いた順となります。

北欧ゲームといえばこれ!というイメージはありますか?

 

じゃす

特出して北欧っぽいな、という印象はあまりないけど、「自然」はよく出てくると思う。あとはやたらとでかい神様が出てきて、プレーヤーに直に話しかけてくる印象はあります。

 

ワネ

僕は、買う前に調べるタイプな上に、よく知らない分野やテーマだとしっかり調べこむ癖があるので、今まで遊んだことのある北欧ゲームは、事前に情報を入手した上で買いました。

スタジオ毎の特徴は感じるんですが、地域毎の特徴と言われるとあんまりピンと来ないかも…。

 

しみず

今まで「日本と海外」という括りで見ていたので、北欧単体で考えたことはあまりないかもしれないです。

ありっさ

みなさんまだ「北欧ならこれ!」というイメージは確立していない、ということですかね。北欧ゲームが打ち出しているテーマとして「自然と人間の共存」が1つキーワードとしてあるんですが、これはどうでしょう?

 

 

ワネ

ああ、そう言われるとヴァイキングとかってそもそもが自然に生きる人間な気がするんで、繋がりはありますね。

あとは遊んでいると、神様とか色々なものの名称が降ってくるので、ゲーム一本で文化とか概念を理解するのは難しいと思うんですが、北欧の文化に目を向けるきっかけにはなりますよね。

 

しみず

そのテーマでいうと、『HORIZON』とかがすごく当てはまると思います。その世界にいる、という没入感がすごいんですよね。水中アクションもできるし、作り込みが綺麗で細かいんですよね。この方向性で今後もゲームを作っていくなら、期待したいです!

自然の描写って「面白さ」に直結しないことが多いので、あまり追求されないんですが、やはり神は細部に宿るので、こだわってくれると嬉しい。環境にリアリティがあると画面を通して、別の世界を覗いている気持ちにさせてくれるので、個人的にゲームの内容に共感しやすいんですよね。

ありっさ

なるほど。しっかりと世界観を作り込んで、インタラクトできる部分が多いほど、自分がその世界に入り込んでいると感じやすいですもんね。

もう一つテーマとして、普遍的な人間ドラマを描いている作品が多いのですが、この点に関してはいかがでしょう?遊んでいて感じることは何かありますか?

 

しみず

人間ドラマや自然と如何に共存するか、は遊んでいる内に考えながら制作しているんだろうな、というのは感じ取りました。『HORIZON』も、自分が住んでいる世界とは全然別軸なんですけど、次世代に人間という種を残すためのドラマがあるんですよね。

人間ドラマの細かい描写としては、例えば宗教。部族毎にしっかりとした宗教観や価値観を持っていて、それに沿って行動するよう設計されているんです。様々な宗教、様々な部族、そしてその部族間の繋がりを描いているので、リアリティがある。尚且つ、全ての物語やエピソードが世界観にハマるように緻密に計算されて、作り込まれているので「異世界にいるんだ!」という感覚を刷り込まれる。それに加え、これらの情報って主人公とプレーヤーがほぼ同じタイミングで知ることになるので、自然と目線が重なり合うようになってるんですよね。

 

ありっさ

ゲーム内世界へ没入できるようの工夫が随所にあるんですね!

しみず

そうなんですよ!キャラクターもリアリティの追求に一役買っているんですけど、人間としてすごくカッコ良いキャラが沢山出てくるんです!弱さとかも含むて、それでも前に進む覚悟などを描いてくれるとキャラにどんどん引き込まれていきます。

日本のものづくりや美的観点にも通ずるところがあるのでは、と指摘されていますが、何か似ている点は感じますか?

ありっさ

違うな〜と感じる部分でも大丈夫です!

じゃす

神様の捉え方が日本と似ていると思います。万物に宿っていて、その加護をプレーヤーが取り込んでいけるところは日本のゲームに出てくる神様の概念と似ている。

逆に違いとしては、RPGゲームに限った比較になるんですが、ナビ役はいないな、と感じています。仲間を先頭で率いているか、1人で放浪しているか…プレーヤーが導いてもらう側というのは北欧ゲームだとあまりないですね。

 

ワネ

似ているところより違いがパッと思い浮かぶんで、そっちで答えると『クラッシュ・ロワイヤル』。運営の話になっちゃうんですが、エモートの煽り表示が結構やばくなって、プレーヤーから非表示を選べるようにしてほしい、と要望が入った時に会社側が一度その要望を突っぱねたんですよね。

その後、結局非表示にできる仕様を導入したんですけど、日本だと多分指摘された時点ですぐに対応したと思うから、良い悪いとかではなく、違うんだな、と感じました。

あとは、日本の会社だと「バーバリアン」という発想はすぐには出てこないんじゃないかな、と思います。「武道家」とか「ウォーリアー」とかはいるけど、ちょっと違いますよね。

ありっさ

逆に、以前北欧がゲームを作る際に参考にしていたアメリカの影響は何か感じますか?

 

ワネ

『クラッシュ・オブ・クラン』とかはコミカルテイストだけど、アメコミの派手さとは違うな〜という印象を受けます。

北欧のゲームって結構制作スタジオ毎によって、雰囲気違いますよね。リアル調、デフォルメ調、と。

しみず

『HORIZON』を制作しているGuerrilla Games って以前は『Kill Zone』みたいなバチバチの戦闘ゲームを作っていたので、逆に『HORIZON』と同じ会社だと思っていなかったんですよね。なんで方向転換していたんだろう、と疑問に思っていたんですが、過去作の方はアメリカ意識だった、ということですかね。

北欧が挑戦しようとしている「文化から生まれる暗さ」と「北欧文化を体感すること」への展望

 

じゃす

北欧のゲームって一つの大きい敵をみんなで協力してなんとか倒す、というイメージがあります。『Tribes of Midgard』とかはオンライン交えながら協力で巨大な敵を倒していくんですよ。

ありっさ

お、それは北欧の文化、民話を継承していく、仲間と民話を繋げていく、新しい文化を作っていくという価値観に基づいていると思うので、その方向性は面白いですね!

 

ワネ

色々話した上で考えてみると、『Valheim』とかってオープンワールドで家を作って、巨人が襲ってくるのを防いだりするような体験サバイバルゲームなので、自然の厳しさ、とかその中で生きていく人間、というテーマについては文化的価値観を体験させているんじゃないかな?

ここまで話してみて、改めて考えてみると僕が遊んできた北欧のゲームって、遠くが見える感じのゲームなんです。機械を乗っ取って世界を歩いたり、クラフトで船を作って海を渡ったり…。どこまでなら行けるんだろう、どこまで準備されているんだろう、と確かめたい気持ちで遊んでいます。マップがあるなら、埋めたいですね。その過程で学ぶべきもの、学べるものがあったら尚良し。

 

しみず

信頼のない語り手を起用することに挑戦していると聞いたのですが、上手く使えた場合素直に感心するので、頑張ってほしいです。今までのゲームでも文化に対しての思いや細部へのこだわりを感じてきたので、期待できます。特に暗い話はそれだけでプレーヤーの心を抉ることができるので、印象に残る体験を作ってほしいです。

あとは、今も力を入れている自然の美しさと人間ドラマを引き続き磨いていってくれると楽しみな作品が増えます!

 

 

ありっさ
ありっさ
調べてみたら北欧のゲームだった、考えてみるとこういう要素あるかも、という雰囲気が流れていました。行間を大事に、語りづらい話も扱っている北欧のゲームらしい受け取りだったのではないでしょうか?色々調査できて楽しかったです!

 

これで締め〜!

 

普段はこんな活動しています

 

ゲームクリエイターズギルドとは
ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)

スキルや知識を学びゲームクリエイターとして成長・活躍し続けたい、同じ業界にいる仲間と市場の動向や技術についてなどの交流したい、日本のゲーム業界・職業自体の価値を上げ今より良い環境を作っていきたい……。そんなゲームを愛する人たちの未来に、必要な情報や機会を提供します。
ゲームクリエイターズギルド公式サイト ▶ https://game.creators-guild.com/

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