神は細部に宿る!「学園アイドルマスター」のこだわり抜いた3Dキャラクター・背景制作|CEDEC2024レポート

CEDEC2024が8月21日~23日に開催されました。
楽屋でまったりでは様々なセッションのレポートをお送りいたします。
今回は『学園アイドルマスター』におけるキャラクター・背景の3D制作事例、臨場感のあるライブステージを実現するための工夫や使用される機能・シェーダー・ライティングの具体的な仕様について解説するセッションをご紹介いたします。

神は細部に宿る!「学園アイドルマスター」のこだわり抜いた3Dキャラクター・背景制作

セッション内容

本講演ではモバイルゲーム「学園アイドルマスター」における、キャラクター・背景の3D制作事例を紹介します。
「ソロライブ」での魅力的な画作りに重点を置いた本作における、これまでのモバイル水準を超えるリッチなルック、
細部まで作りこまれ、生き生きとしたキャラクターモデルの表現、造形のこだわり、リアルライブのような臨場感をもたらすライブステージ、これらを実現するための工夫や、そこで使用される機能・シェーダー・ライティングなどの具体的な仕様について解説します。

受講スキル

  1. Unityを用いたモバイルゲーム開発に興味ある方
  2. 美少女キャラクター・背景モデリングに興味のある方

得られる知見

  1. モバイルにおけるリッチなキャラクター、背景モデルの制作事例

『学園アイドルマスター』について

『学園アイドルマスター』

2024年5月16日サービスがスタート。歌とダンスが上手くなるアイドル育成シミュレーションゲーム

学園アイドルマスター(学マス)|君と出会い、夢に翔ける

―君と出会い、夢に翔ける―歌とダンスが上手くなるアイドル育成シミュレーション!『アイドルマスター』シリーズ完全新作スマホ…

3Dビジュアルコンセプト/レンダリング概要

新規タイトルの『学園アイドルマスター』では、当初から「みずみずしさ」をキーワードに掲げ、3D表現でこれをどのように感じさせるか模索してきたそうです。

もう一つの重要なポイントは、アイドルを一人ひとりプロデュースし、その成長を実感できる体験を提供すること。これを実現するために、「ソロライブ」という形式が採用されています。しかし、ソロライブは複数人のライブに比べると絵的な魅力が薄れがちです。そのため、キャラクターモデルの表現力や個性、実在感をより深く追求し、一人のアイドルの魅力を最大限に引き出すことを目指したそうです。

また、リアルなライブの臨場感を表現するというコンセプトのもと、ソロライブでも豪華で臨場感のある演出を実現するため、ステージ背景のディテールやライティングにもこだわった3Dビジュアルが意識されています。

キャラクターモデル解説(表現要素)

さまざまなライティングでアイドルを輝かせる
ライティングによる演出が可能なキャラクターモデルを目指し、多彩な光と影の表現ができるよう工夫を重ねたとのこと。
髪の毛表現の向上
1本がほつれるようなおくれ毛の表現や、ポリゴンを駆使して滑らかでやわらかな髪の質感を追求したとのこと。
肌表現の向上
透明感とやわらかさを強調するシェーダーを目指し、陰影によってその特徴が際立つよう工夫されています。
身体造形の個性を表現
キャラクターのバックボーンを個別に反映させるため、アイドルごとに筋肉やシルエットなどの造形やテクスチャにこだわったとのこと。
衣装造形・質感の作り込み

しわの造形や生地の一体感、部位ごとに異なる質感に細心の注意を払ったとのこと。特にアイドルの衣装には特別な存在感と迫力を持たせたいと考え、それを3Dモデルで表現することにこだわったそうです。

生き生きとした表情
3Dの造形を破綻させずに作ると、どうしても表情が大人しくなりがちです。そのため、さまざまな手法を組み合わせて、感情の振り幅が大きく豊かな表情を目指したとのことです。
動きの魅力と躍動感を増幅する揺れもの
モーションの魅力をより引き立て、3Dモデルの硬さを和らげるため、従来では動かさなくても良いような小さな部分も含めて、できる限り多くの箇所を揺れるようにしているそうです。

キャラクターモデル解説(メッシュ・骨)

髪の毛表現の向上
メッシュには1体あたり約6万ポリゴンを使用し、アニメのような滑らかさを表現しているとのこと。ただし、最近のコンソールゲームでは1体あたり数十万ポリゴンが使われることが多いため、このポリゴン数が特別に多いわけではないそうです。それでも、カクつきを感じさせない滑らかな輪郭や、ライティング映えする陰影の凹凸をしっかり作るためには、ポリゴンの使い方に無駄がないよう、慎重に配慮する必要があったとのことです。
衣装の一例 骨の画像

キャラクターモデル解説(フェイシャル)

フェイシャル表現は骨、ブレンドシェイプ、デカール、MotionEffectの4要素から構成されているとのこと。

ブレンドシェイプ
GraphicsBufferを用いてスキニングを独自に実装することで、処理の高速化と軽量化を実現したとのこと。しかし、GraphicsBufferを実装した際に、Androidの一部端末で不具合が発生したため、対応するメッシュに対してMarkDynamicを実行することで問題を解決できたそうです。
ブレンドシェイプを用いて顔の角度を表現する際、あおり45度、左右別の45度、左右共通の90度、そして補正用の形状を、部位ごとにブレンドシェイプのターゲットとして用意されたとのこと。
形状補正のオンとオフ
どの角度から見てもキャラクターが魅力的に映るように仕上げたとのことです。
SNSでも話題になった鼻の制御について。キャラクターを正面に近いアングルで捉えた場合は、専用のメッシュを用いて表現しています。一方、真横に近いアングルでは鼻のメッシュが悪目立ちしてしまうため、左右共通の90度用のターゲットでメッシュを後ろに下げることで解決したそうです。

ポストエフェクト・環境効果

内製DOF・玉ボケ
Unity標準のDOF(被写界深度)に比べ、自作のDOFではボケの範囲をより柔軟にコントロールできるようにしています。Unity標準の場合、F値と焦点距離でボケ具合が決まるため、顔にピントを合わせると手がボケてしまうことがあります。しかし、自作のDOFではリアルなカメラ挙動とは異なるものの、ボケ範囲を直接数値で設定できるため、キャラクター全体にピントを合わせつつ、背景をぼかすという制御が可能だそうです。

まとめ

キャラクターモデル1体にリソースを集中し、それぞれのこだわりを積み重ねることで、学園生活の中でアイドルたちの生命感や存在感を見事に演出できたとのことです。アイドルたちの個性を際立たせるため、共通化を避け、可能な限り固有の制作にこだわることで、1人1人の存在感をより一層引き立たせることができたとのことです。

ご登壇者

杉村 貴之さん

株式会社QualiArts
3Dディレクター

<講演者プロフィール>

2006年より3Dデザイナーとしてゲーム制作に従事。
2018年より、株式会社QualiArtsにて、
「IDOLY PRIDE」にて3Dモデルディレクターを務める。

「学園アイドルマスター」では
キャラクターモデル・背景モデルの制作ディレクション、
および、ストーリーモード(初星コミュ)の映像演出ディレクションを担当しました。

3D表現・魅力の拡大とモデルのこだわりを追求し、
より感動的な3Dビジュアルづくりを目指しています。

過去CEDEC登壇
2018年:「「IDOLY PRIDE」の3D美少女キャラクターを魅力的かつ効率的に制作する手法」

<受講者へのメッセージ>

「学園アイドルマスター」は、これまでQualiArtsが独自に培ってきたキャラクター表現、3Dモデル表現をさらに高めました。
感情移入できる可愛らしさはもとより、見回すだけでも楽しめるモデリングの細部、そして、未熟だったアイドルがプロデュースを経て成長していき、晴れ舞台に立つときに見せる「迫真さ・輝かしさ」、その成長実感を求め、衣装造形やシェーディング、髪表現・肉感・皮膚揺れ表現、といった面での手法や、ライブステージモデルのリアリティを追求しています。
個人制作、プロダクションレベル問わず、3D開発・制作のヒントになれば幸いです。

見原 朋也さん

株式会社QualiArts
3Dディレクター

<講演者プロフィール>

2009年に株式会社サイバーエージェントに新卒入社。
サーバーサイドエンジニアを経験後、テクニカルアーティストに転向。
株式会社QualiArtsにて複数のモバイルゲーム開発に携わり、主にパイプライン周りのTAとして効率化や事故防止に従事。

<受講者へのメッセージ>

本講演でご紹介する内容が受講される皆様のお役に立てば幸いです。

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※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約7600人参加(2023年12月現在)

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