ジッパーの手触りを再現『Ziparate』インタビュー【Seeds by GCG】

ゲームクリエイター甲子園に登場した中から18作品が、ゲームクリエイターズギルドが運営するクリエイター支援のためのコミュニティレーベル「Seeds by Game Creators Guild」の第二弾として参加することが決定しました。
今回のインタビューは18作品のうちの1つ『Ziparate』をピックアップします。

このインタビューシリーズでは、ゲーム作品に焦点を当て、制作の裏側に迫ります。どのような構想を経て形づくられたのか、学生クリエイターのゲーム制作への思いや今後の展望についても探っていきます。

O.Depressa/『Ziparate』

O.Depressaは、「ゲームクリエイター甲子園 2022(以下、甲子園)」において総合賞 佳作のほか、ゲスト審査員 鈴木咲賞を受賞した制作チーム。

ブレインストーミングで100を超える案を出し、その中から「ジッパー」をピックアップ。ジッパーの特徴と感触を最大限に生かした本作についてお話を聞きました。

O.Depressa チームメンバー紹介
八坂 空也 プランナー
足立 健 プログラマー
梶川 愛未 デザイナー
冨田 彪磨 プログラマー
永栄 匠一朗 プログラマー
中山 泰和 プログラマー
前中 宥紀 プランナー
松原 睦桃 デザイナー
吉田 優未 デザイナー

今回のインタビューでは、八坂さん、足立さん、梶川さん、中山さんにご参加いただきました。

【作品紹介】
このゲームは「ジッパーを開け閉めする感触」に着目しました。
素早く開け閉め、ゆっくり開け閉め、半分だけ開ける、物を出し入れする…などのジッパーの特徴を活かした遊びを作りました。
表と裏の世界を出入りする「ツカイムシ」を、ジッパーを工夫し上手く誘導する事が最大の醍醐味です!
サウンドもこだわっており、ほぼ生演奏・生録音を使っています。ジッパーの魅力を最大限に引き出した世界をお楽しみください!

《「みんなのゲームパレード」より『Ziparate』をダウンロード!》
『Ziparate』を実際に遊んでみたい方は、作品紹介ページ内の「作品をダウンロードする」をクリック!『Ziparate』作品紹介ページ ▶https://gameparade.creators-guild.com/works/480

ほかのゲーム制作と並行しながらもジッパーの感触を再現

―『Ziparate』制作の経緯について教えてください。

プランナー 八坂さん:
日本ゲーム大賞(以下、ゲーム大賞)の「感触」というテーマから最終的にジッパーを使った遊びに至りました。最初にメンバー全員でブレインストーミングをして「こういう感触があったら楽しい」「気持ちいいよね」という感触の内容や、プレイヤーにどういう体験をさせたいか、最終的にどう感じてほしいかを出し合いました。

中山くんがジッパーの案を出し、そこから100くらいの案が出たので、チーム全員で投票を行いました。ゲームに出来そうな面白いイメージの案をピックアップして、最終的に5つくらいに絞りました。企画を練り始めて4~5日ぐらい経った頃、ジッパーはアイテムとしての感触がいいけど、これをどう遊びに落とし込むか、かなり悩みましました。

ゲーム大賞の応募まで残り4ヵ月だったこともあって、一旦ジッパーから離れて、別の感触についても考えてみましたが、やっぱりジッパーはユニークだし面白そうだよねとチーム全員の意見があったので、最終的にはジッパーで草案などを固めて制作を進めていきました。

制作期間が残り1ヵ月を切ったぐらいに、ようやく遊びの軸と言いますか、赤と青のジュエルを回収するルールが固まりました。いろいろ苦戦はありましたが、ジッパーの特徴を最大限に活かしてやり遂げようという気持ちを持って、36ステージを1ヶ月で作り上げました。

―制作期間の残り1ヵ月で36ステージもよく作れましたね。

八坂さん:
そうですね。チームメンバー4人ぐらいで分担して3週間ぐらいでステージを作り上げました。クラスメイトをはじめとするみなさんと一緒にテストプレイなども経て、気合で乗り切った感じでしたね。本当にハードモードでした。

―勢いがありますね。それにブレストで出た案が100以上って凄いですね。

八坂さん:
あの頃の勢いで、今も同じことができるんかなって(笑)。

足立さん:
ゲーム作りのコンセプトなんかは何も知らない状態で作っていたので、逆に勢いがあったのかなって思います。

八坂さん:
先生方からもよく言われるんですが、当時の私たちもすごく無知な状態だったので、いろんな危険などをあまり顧みずに突き進むことができました。1年生から2年生に上がるタイミングならではの勢いだったのかもしれないですね。

―試行錯誤をして一旦ジッパーから離れることもあり、2ヵ月ほど構想に時間を費やしたんですね。

プログラマー 足立さん:
遅かった理由の1つは、2月序盤にこのゲームの草案が決まったんですが、そこから3月10日ぐらいまで別のゲーム制作をしていました。同時並行で2つやってるんですよ…(笑)。

八坂さん:
ちなみに現在の3年生とか4年生はなくて、私たち2年生からそうなったんです。1年から2年に進級するタイミングでこの年代だけ学内のコンテストと並行して『Ziparate』の作品制作もしないといけない。すごく大きな作品を2つ同時に作るのはかなり大変なスケジュールでした。

―皆さんの年次だとHALイベントウィーク(以下、HEW)の制作をしないといけないんですか。よくやりきりましたね。

八坂さん:
このチームでもHEWの賞を受賞した人も結構いましてゲーム学科の中でも頑張りました。僕的には、一応部門2位を獲得しました。周りの人から「よく両立してやったね」とはよく評価いただけますね、嬉しいです。

HALイベントウィーク
1~3年次の学生を対象とした進級制作展。1年間の学びの成果として作品を制作。
学年を超えて、学生同士が作品展示やプレゼンテーションを行い、マーケティングや商品価値などを学びます。
https://www.hal.ac.jp/tokyo/campuslife/event

―『Ziparate』制作で特にこだわった点や、アピールしたい点を教えてください。

八坂さん:
ジッパーの再現です。ゲーム内で現実と同じような形で忠実に再現することにはかなりこだわっています。例えば、ジッパーを開け閉めするときの感触をコントローラーの振動の強弱で再現していたり、ジッパーの開け閉めする速度に合わせてピッチを上げ下げしてより自然な形で聞こえるようにするのにかなり苦戦しましたね。あとは2Dでジッパーの口の部分が開いたり閉まったりするビジュアル的な表現もかなりこだわりました。

当初『Ziparate』を3Dで作るか2Dで作るかを決めるときは、より自然な形で開け閉めが再現できるのはどちらかを考えて、ビジュアル面もかなり検討していきましたね。何よりジッパーを再現するのに1番こだわっていました。

―ジッパーを使った裏表の表現にもこだわりを感じました。

八坂さん:
そうですね。表と裏の世の境界に穴を開ける部分では、裏側にいる物体が表側にいったり、自然に出入りするような違和感のない表現をシェーダーなどを使ってメンバーの中山くんがやってくれて、メンバー全員びっくりしてましたね。すごく自然な形で出入りするビジュアルが出来上がったので「こんなすぐにできるんだ」という感じでみんなで驚きました。中山くんには感謝しかないです。

―『Ziparate』の実装で難しかった点・大変だったことはありますか。

足立さん:
基本的には結構トントン拍子で進んだんですが、当たり判定部分に関しては1箇所行き詰りました。ジッパーが開いている・開いていないの判定を作るときに、コライダーに当たった瞬間の場所にあるとは限らない仕様がありまして、それに引っかかって作り直しをして、結局1から全部自分で作りました。そこが大変でした。

八坂さん:
Unityの仕様で苦戦したところは多かったですね。Unityでも出来ないことがいくつかあり、その解決策を探るところで苦戦しましたね。

プログラマー 中山さん:
とはいえビジュアル的に穴を開ける表現は、Unityだからこそ出来たことでもあります。ジッパーは、Unityの2Dボーンのアニメーションで動かしていて、開け閉めのアニメーションに穴を開ける用の画像を追加して、穴がガーって開くんです。そのとき、ステンシルバッファで穴を開けて、そこで裏の画像は表示しないといった処理はUnityがあったから実現出来ました。

―相性が良かった部分と、絶望的に相性が悪かった部分があったんですね。

八坂さん:
総合的には、すごくUnityに救われました。やはりビジュアル的な表現や作りやすさの面で、すごくたくさんUnityに助けられました。やっぱりすごいなって思いながら感動しましたね。使いやすかったです。

―おっと、猫ちゃんがきましたね。

八坂さん家の猫ちゃんも参加

八坂さん:
こうやって喋っているとうちの猫がよく来てしまうんですよね。
ちなみに、うちのチームも猫好きが多いチームなんです。チームではコミュニケーションツールとしてDiscordを使ってて、猫の写真を共有する癒しチャンネルがあります。今現在もその癒しチャンネルが動いてます。

この癒しチャンネルを利用して、チームメンバーの精神状態が分かるんです。癒しチャンネルが閑散だと精神面はまだまだ大丈夫だなって思います。癒される以外にも、チームメンバーの状態が分かるかもしれないという気持ちも込めて、写真を共有していました。
猫はコミュニケーションの秘訣ですね。

世界観を評価されつつも、次回作は”個性”をさらに突き詰めたい

―『Ziparate』を試遊された方からは、どのような反応がありましたか。

八坂さん:
学校のイベントなどでプレイしてもらったときに「世界観がいいですね」とかなり言われました。遊んでいく中で「結構面白いね」「パズルが難しいね」という評価も多くありました。個人的にはこのゲームのパズル要素はそこまで難しくなく、比較的ライトかなと思っていたんですが、実際に遊んでもらうと「面白いね」と言いつつも、「これどうするんだろう」と頭を抱えてすごくじっくり考えるプレイヤーの方も多くてすごく印象的でした。

あとはルール面ですね。『Ziparate』の赤い”ツカイムシ”が表にいる状態で、青い方は裏側に全ている状態だったらより高く評価されて花丸がつくことを理解してもらってからは、何度も何度もプレイしてパーフェクトの評価を狙えるまで繰り返し同じステージを遊んでいただけることも多く、そこはかなり感動しましたね。

やり込んでもらうために作った要素だったので、ちゃんとやり込んでもらえるのは、すごくありがたく、報われた感じがしますね。思い通りに遊んでくれるとほっとするし嬉しいです。

―ジッパーから『Ziparate』の世界観を表現されたことについてお聞きしたいです。

デザイナー 梶川さん:
ぶっちゃけた話をすると、デザイナー陣の趣味だけでやった感じです。私の心残りでもあるんですが、ゲームのデザインを担当する身としてゲームの理に叶ったアートを進めるべきだったという思いがずっとあります。結果的に今回はすごく好評だったので良かったんですが、ゲームのアートについて何も考えておらず、正直なところ趣味100%です。

―趣味100%でいい感じにまとまりましたね。

八坂さん:
この制作を通じて感じたのは、ゲームデザインを踏まえた上でのビジュアル表現もすごく大事なんですが、それ以上にアートを作る人の趣味や個人的にこれいいなって思っているものをとことん掘り下げるという、自分の趣味をこじらせるやり方も案外クオリティアップにつながる1つの考え方だったり、手法の1つなのかなと、考え方の良い指標になった制作でしたね。

梶川さん:
これも心残りなことですが、個人的に突き詰めきれなかったと思っているところがたくさんあって、今回ゲームクリエイター甲子園でも「ありがちやね」という講評がありました。ありがちと言えばその通りで、『Hollow Knight』『Identity V』のような「可愛いけどダークな感じ」ってモロ被りよな、みたいな。一見尖った世界観に見えるかもしれないんですけど、個性と言いつつも深掘りできなかったところは、次のゲーム制作に活かしていきたいなって思っています。

―今後アップデート・改善したい点はありますか。

八坂さん:
『Ziparate』のステージが同じようになっている箇所が複数あって、後半になると新鮮味が薄れがちなところが多いなって個人的に思っています。

各6つあるワールドごとの新しいギミックだったり、新しいステージの構造で新鮮な体験はできるんですが、逆に言えばそれぐらいしかないなって思っています。個人的にはタイムアタック的な要素やストーリーをより掘り下げたようなステージも作りたいなとは思っています。

当初は、アクションとパズルが半分半分のイメージで構成していました。やりたかった遊びがなかなか実現できないところがありまして、工数を無視して作れるならば、やっていきたいって思います。

―どんな遊び方を考えていましたか。

八坂さん:
実はチーム内限定のエクストラステージを作っていました。
ジッパーの出し方で空を飛べるんです。この遊び方を個人的には気に入っているんですが、難易度が高いんです。瞬時にジッパーを出して、それを掴む。ここはかなり難易度が高いので、最終的にこれを軸にするのは、断念はしたんです。でも、この部分は個人的に自信があると言いますか、楽しいと思っていますので、今後ブラッシュアップするなら、ぜひともこの要素を使っていきたいとは思っていますね。

もう1つはジッパーで物を噛んでしまう要素です。スライダーに指が挟まったり、布部分が詰まる遊びをやりたかったですね。僕自身に、人間って痛い思いをした思い出だったり、辛かった体験は楽しい体験より長い時間記憶に残りやすいだろうという考えがあって、ジッパーが詰まる痛い体験はすごく共感性があって印象に残ると思います。
ジッパーに詰まる部分を使った遊びと、ジッパーを使って縦横無尽に駆け巡る遊びの2つは実現したいなって思っていますね。

―ほかにアップデートしたいところはありますか。

梶川さん:
アートだと背景を作り直したいですね。今回は突貫作業でフリー素材も使って作ったので、その辺りはせっかく専門学校で3Dの知識も身につけてる最中だからこそ、今後があれば活かしたいですね。

中山さん:
チャック1つしか使ってないんで、3つ4つを連続で同時に動かしたいとか、チャック自体の遊びをもっと広げたいです。

足立さん:
いつか実装したいことを挙げるとすれば、今のジッパーは全部が直線なので曲げたいです。その実装はしてみたいですね。

八坂さん:
当初はトロッコレールみたいに曲がっている案がありましたね。ジッパーの上をスライダーに見立てて曲げる遊びもアイデアとしてありました。確かに掘り下げてみたい。いつかもう一度作り直してみたい気持ちがありますね。

足立さん:
言われたら作ります(笑)。

八坂さん:
もう今は今で手一杯と言いますか。今は13人のメンバーでゲームを作っていて、半数以上は『Ziparate』と同じメンバーで集まって制作できています。次回作にもご期待くださいと言いますか。

―勢いで突き進んでたチームが1年経ってどうなっているのか楽しみです!

「みんなのゲームパレード」から『Ziparate』をダウンロード!

今回ご紹介した『Ziparate』は、開発中ゲームのβ版が集まるサイト「みんなのゲームパレード」にて掲載中!作品を実際に遊んでみたい方は、作品紹介ページ内の「作品をダウンロードする」をクリック!

『Ziparate』作品紹介ページ ▶https://gameparade.creators-guild.com/works/480

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「Seeds by Game Creators Guild」とは

「Seeds by Game Creators Guild」は、ゲームクリエイターの若きスターがここから羽ばたいていくことを支援するためのコミュニティレーベルです。

クリエイターコミュニティである「ゲームクリエイターズギルド」が運営する「みんなのゲームパレード」に掲載されている作品や「ゲームクリエイター甲子園」に応募された作品の中から、特に輝いていたゲームタイトルを応援します。

本レーベルは、パブリッシャーではなくゲームクリエイター支援のためのコミュニティレーベルを基本コンセプトとし、特にコミッションなどをお支払いいただかず、必要な実費のみでご利用いただけます。

未来のある優れた作品がこのレーベルに集まることによって、ユーザーや業界への認知機会を増やし、本レーベルを通してスタジオ設立や、大手パブリッシャーへのステップアップにつながっていくことを目的とします。

Seeds by Game Creators Guild 公式サイト ▶ https://www.creators-guild.com/seeds

「ゲームクリエイター甲子園 2023」開催中!

ゲームクリエイター甲子園は「ゲームクリエイターズギルド」が主催の、ゲーム制作に関わる学生クリエイターのためのゲームコンテストです。

このゲームコンテストの最大の特徴は、“成長型ゲームコンテスト”であること。作品がない状態からでもエントリーが可能で、1年を通して作品をブラッシュアップしながらクリエイター自身の成長を目指します。

制作途中の作品でも応募すればプロのクリエイターからアドバイスがもらえるほか、学生クリエイターコミュニティに参加する仲間たちとの切磋琢磨で刺激を得ることができるのも、このコンテストの魅力の一つ。過去の参加者の中には、企業からオファーを受けて新卒採用に至った方もいらっしゃいます。

「オリジナルのゲームを作ってみたい!」「色んな人に自分の制作物を見てもらいたい!」そんな方は、ぜひご応募ください!

【ゲームクリエイター甲子園 2023 エントリー情報】

エントリー・チーム登録期間:2023年1月30日(月)~10月31日(火)16時59分
作品提出期間       :2023年1月30日(月)~11月7日(火)16時59分

※作品がない状態でのエントリーも可能です。
※一作品につき一回チーム登録が必須となります。個人参加の場合もチーム登録をお願いします。
※運営との連携のためLINE公式アカウントの友だち追加が必須です。

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【応募資格】

年齢  :小学生以上の学生 ※社会人は応募不可
制作人数:個人・チーム、人数不問
作品数 :無制限
ゲームクリエイター甲子園は作品の完成・未完成問わず参加・展示が可能です

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