名越スタジオデザインリーダーが考える「世界に対抗できる表現」とは|名越スタジオ×GCG トークセッションvol.3イベントレポート

今回で3回目となる『名越スタジオ×ゲームクリエイターズギルド トークセッション 国境を超えて実現したいゲーム開発の未来像』が開催されました!今回は『名越スタジオのデザインリーダーが目指す、次世代のゲーム表現とは?』とのトークテーマで、名越スタジオのデザインチームを取りまとめる細川 一毅さんに語っていただきました。

前編では『パンツァードラグーン』シリーズなどを手掛けた細川さんの経歴を振り返りつつ、後編では名越スタジオのデザインチームが「世界に対抗できるゲーム作品」に必要なことは何かをお届けします!

※2023年1月19日(木)には名越スタジオのプロデューサー、潮田 太一さんが登壇するvol.4を開催しました!こちらもあわせてご覧ください♪

ゲームクリエイターの楽屋でまったり by Game Creators Guild

 

登壇者プロフィール

細川 一毅(ほそかわ かずき)

1995年 株式会社セガ・エンタープライゼス(現 株式会社セガ)に入社。『パンツァードラグーン』シリーズや『ジェットセットラジオ』などでデザイナーとして従事。

その後は『龍が如く』シリーズにてアートディレクター、ディレクターに就任。『ジャッジアイズ』シリーズではプロデューサーを務める。2022年1月、名越スタジオへ入社。

名越スタジオのデザインリーダーが目指す、次世代のゲーム表現とは?

ゲームやコンピュータには一切触れない家庭で育った細川さん。放送業界の会社に勤めていた細川さんのお父さんの影響もあり、幼い頃から映像作品に沢山触れてきたそうです。

大学進学時は広告業界を目指し、多摩美術大学のグラフィックデザイン科に入学。しかし大学で広告業界の仕組みを学ぶうちに、「自分で考えて自分で作る」という自身の理想を広告業界で実現するのは難しいことを知り、次第に広告業界へのモチベーションが薄らいでいったと言います。

そんな中、大手PCメーカーが家庭用の本格的なPCを販売し、細川さん自身もPCに触れるようになったそう。

細川氏

大学の頃に何となく感じていた“閉塞感”を解放してくれるんじゃないか、と思って初めてPCを購入しました。PCを触っていくうちに“PC一台でアニメーションを作ることができる”ことに気づいて、完全にそこにのめり込みましたね。

当時は映像を作るのが目標だったんですが、PCを使えば自分一人で制作できて、3Dの作品も作ることができるのがとても楽しかったです。

PCを使って3D作品のデザインを作りたい―。PCと向き合う日々を過ごしなたらそう思った細川さんは、1995年4月に株式会社セガ・エンタープライゼス(現 株式会社セガ)に新卒入社されました。

2Dドッターから3Dデザイナーへ。
技術革新とともに歩んだデザイナーの道

「3D作品を多く作っているセガで3Dデザイナーになりたい」と思っていた細川さんですが、入社して最初に配属されたのは、完全2Dの『魔法騎士レイアース』のプロジェクト。当時のセガは家庭用ゲーム機「サターン」の発売を機に、次々と3Dゲームをリリースしていたため、ドッターとしてのスタートに少し戸惑いがあったそうです。

細川さん自身、ドット絵を制作するのは初めての経験。しかし制作を進めるうちに、その表現の難しさと奥の深さにすっかり魅了されたのだとか。その後は3Dゲーム『パンツァードラグーン』のプロジェクトチームに配属となり、遂に3Dデザイナーとしてのキャリアが始まりました。

当時セガでは『パンツァードラグーン Ⅱ』と『AZEL(『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』)』の開発が進んでおり、細川さんは『AZEL』のキャラクターデザインやモデリング、モーション、レンダリング、イベント全般など様々な職種を経験されたそう。

宮田
キャラデザだけでなく、かなり幅広い工程を手掛けてらっしゃったんですね。
細川氏

当時3Dゲーム制作はまだまだ黎明期で、効率の良い制作方法が確立されていませんでした。なので「なんでもやってみる」というスタイルのデザイナーが多かったです。

むしろ背景だけ作っている、キャラクターだけ作っている、という人の方が少なかった気がしますね。

宮田
なるほど。当時は一気通貫で制作されていたんですね。作り手としては「〇〇専門」よりも、そっちの方が面白いような気がします。
細川氏

今の開発現場は作業効率が良くてクオリティも上がりやすくなっていますが、どうしても“流れ作業の一部だけ”を担当している、と感じることがあります。

要は「自分が作ったゲームが世に出ている」という実感が湧きにくいんですよね。その点、当時は様々な工程を一気通貫で担当していたので、「自分が作ったんだ」というダイレクトな達成感をかなり強く味わえていたと思います。

 

さらなる成長を求め、自ら手を挙げてディレクターに

『ジェットセットラジオ』や『パンツァードラグーン オルタ』などに携わった後、セガの子会社である株式会社アミューズメントヴィジョン(当時)に転籍された細川さん。ちょうどその頃、アミューズメントヴィジョンでは『龍が如く』プロジェクトが動き始めていたそうです。

そしてスピンオフ作品の『龍が如く 見参!』ではデザインリーダーを、『龍が如く OF THE END』からはディレクターを担当。その後『ジャッジメント』シリーズでは、プロデューサーを務められました。

宮田
ディレクターになられたのは、どういった経緯なんでしょうか。
細川氏

『龍が如く 4』の時に自ら「ディレクターをやってみたい」と提案しました。

ディレクターという仕事は普通「やりたい」と言ってすぐにできるものではないんですが、たまたまタイミングが合ったので任せていただけましたね。

宮田
自ら手を挙げてディレクターになられたんですね。なぜディレクターになりたいと思われたんでしょうか。
細川氏

理由は大きく二つあって、一つは“自分で考えて決断する範囲”を増やしたい、というプリミティブな考えからです。もう一つは、自身のステップアップのためですね。

デザインリーダーからさらに上に登っていくためには、ディレクターを経験しないといけないと思ったので。

ディレクター、プロデューサーを10年以上務めた後、名越スタジオに転職された細川さん。現在はアート部門の責任者兼デザイナーとして現場に専念されていますが、デザイナーとして仕事をしていた頃から技術が確実に進歩しており、今は新しい知識や技術を吸収している最中なのだそう。

そんな細川さんですが、ディレクターやプロデューサーに挑戦される際は「デザイナーとしての腕が落ちてしまうのではないか」という恐怖心を感じていたそうです。しかし、それ以上に得られるものも多くあったと語ります。

細川氏

ディレクターやプロデューサーの仕事を通じて、“商材としてのタイトル”と“実際に今自分が作っているモノ”を一気通貫に考えて制作できるようになりました。

「ユーザーに楽しんでもらう」という終着点から逆算して、「何を作らないといけないのか」「どういう風に作らないといけないのか」ということを、解像度高く求められるようになりましたね。

 

“リアルさ”だけでは勝てない時代。
名越スタジオが世界に通じるゲームを作るために必要なこととは

名越スタジオには「世界に通じるゲームタイトルを作ろう」という大きなテーマがあります。それを実現するために、アートチームでは「表現面でAAAタイトルに負けない技術水準を獲得する」ということを、一番最初の目標として掲げているそうです。

細川氏

名越スタジオでは「Unreal Engine 5(以下、UE5)」というエンジンを使っているんですが、このエンジンを使いこなすために知らないといけないこと・やらなければならないことが沢山あります。

そういった部分に対して経験値や素養のある人を少数精鋭で集めて、まずは表現力のビハインドを埋める必要があるので、今は“研究開発”の“研究”に集中して取り組んでいます。

“ゲームを作って売る”というビジネスをしている以上、開発計画や発売日といった枠の中で進めていく必要があります。その中でゲーム制作で切っても切れない関係である“研究開発”の“研究”に、どれだけウェイトを割り当てられるか。それが今後の表現のステップアップに繋がると、細川さんは語ります。

明確な目的やゴールが無いために、良い研究開発ができない。研究部分に時間を割くことができない……。そんな会社も少なくない中、名越スタジオでは「AAAタイトルに負けない、世界で売れるゲームを作る」という明確なビジョンが立てられています。

その中で研究部分に大きくウェイトを持たせながらゲーム制作ができるのは、名越スタジオの大きな強みの一つと言えるでしょう。

細川氏

デザインチームのもう一つの大きな課題は、どうやってユーザーの皆さんに「このタイトルだから買いたい」と思ってもらえるゲームを作っていくか、ということ。

UE5はとてもリアルな表現ができる優秀なエンジンですが、それゆえに「ある程度の技術力を持ったチームだと、ほとんど同じような表現力の作品になる」という側面があります。

細川氏

ましてゲーム業界は技術進化が早い業界。そのため「今のAAAタイトルに追いつけば良い」と思って作っていたら、絶対に勝負になりません。

なので我々は「他のタイトルにはないモチーフとストーリー」で世界に勝負していきたいと思っています。

宮田
名越スタジオさんは映像やストーリーをかなり意識してゲーム作品を制作されていますし、そこは他タイトルとの差別化ポイントになりそうです。

 

細川氏

映像作品やゲーム作品には“何もイベントが発生しない時間”がありますが、ゲームの場合、そんな時間も自分で操作して遊ぶことができます。

そういった何気ない時間もユーザー体験に繋げられるのは、ゲーム作品の強みでもあります。その点を踏まえてゲームのストーリーを作っていくと、映像作品には体現できないような唯一性が出てくるんじゃないでしょうか。

 

「誰もやっていないチャレンジ」ができる環境を
提供できるスタジオでありたい

現在名越スタジオのアートチームでは、基本的にはその道のスペシャリスト、かつジェネラリストのように動ける方を募集されています。今後スタジオ自体はコミュニケーションをしっかりとれるような規模感で、かつモノづくりは大人数で行っていきたいと考えているそうです。

また、名越スタジオは基本的に出社スタイルを取られています。企画、デザイン、プログラマーなど職種の垣根を越えて、様々なチームの席に足を運んで直に相談できるような距離感で仕事を行い、その中でお互いのナレッジを共有しながら良いものを選択していく、というような空気感なのだそう。

細川氏

名越スタジオは「色んな人の意見にしっかりと耳を傾けるスタジオ」だと思います。まずはアイデアを出し合って、周りも否定せずにまずは耳を傾けて、そこから最適解を出していけるような環境です。

弊社代表の名越自身、作りたいゲーム像が明確なので目指すゴールもしっかりとある。それに研究と開発のバランスが良いので、プロジェクトがとん挫する、ということもなく上手く進められていると思います。

宮田
なるほど。目標やゴールが明確だからこそ、世界に対抗できるようなゲーム作りができているんですね。
細川氏

幸運なことに、僕は名越スタジオという「必要なことは全部やって良い」と言ってくれる環境を手に入れることができました。なので、「やりたいことがなかなか実現できていない」という方にはぜひ、名越スタジオで挑戦をしていただければと思います。

細川氏
そしてデザイナー職の方のキャリアアップを後押しできるような、ある種成功例になれるように頑張っていきたいです。
宮田
では最後に、10年後、20年後にクリエイターとして最前線で活躍できるために何が必要か、アドバイスをお願いします。
細川氏

ずっと最前線で活躍するためには、現状で満足しないことが最も大事だと思います。

繰り返しになりますが、ゲーム業界は技術進化が早い業界です。なので「良いものができた」と自己満足したところで、成長が止まってしまうことも少なくありません。現状で満足することなく、より良いものを作れるように技術力や知識を常に貪欲に取り込むこと。それは忘れてはいけないことだと思います。

細川氏

それと、いわゆる“ベテラン”のクリエイターこそ、モチベーションを持ってクリエイティブし続けること。これもずっと最前線で活躍するために大切なことだと思います。

業界20年目とかになると、当然身体も老いていくしモチベーションも枯渇しやすくなります。ですが、そういう方々こそ頑張って、その姿を10年後20年後を担う若手クリエイターに見せていければ、この業界は進化し続けていけるんじゃないでしょうか。

 

配信終了後

Vol.1Vol.2に引き続き、今回もサインとメッセージをお願いしました。以前サインを求められたことがあり書きなれたご様子でした!

 

細川さんからクリエイターへメッセージ

「更に上へ」

 

「誰もやっていないチャレンジ」ができる環境を目指す名越スタジオさんらしい言葉ですね!

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当日レポート、名越スタジオ×ゲームクリエイターズギルド

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名越スタジオプロデューサーが語るチーム作りと開発現場のリアル|名越スタジオ×GCG トークセッションvol.4 イベントレポート
 

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※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約3000人参加しています。(2021年12月現在)

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