8月23日~25日に開催されたCEDEC2022。楽屋でまったりで事前に行ったアンケートを元に、様々なセッションのレポートをお送りします。
今回ご紹介するのは、チームや組織の創造性を最大化させるための技術について。ご登壇された安斎さんは「チームと組織の創造性」を長年研究されており、このセッションを通してゲーム業界の仕事をさらに創造的なものになるようにしたいとお話されていました。
チームや組織のマネジメントについてお悩みの方、日々の仕事がマンネリ化してしまっている方はぜひご一読ください!
チームの創造性を最大化する“問い”と“遊び”の技術
一人では生み出せないアウトプットを開発するためには、多様なスキルを持った個人が集まり、チームでコラボレーションすることが不可欠です。
しかし企業組織やチーム開発の現場において、心理的安全性が阻害され、チームの連携がうまくいかず、単なる「分業」に陥ってしまい、個人もまた“クリエイター”ではなく、上司の指示に従う“オペレーター”に陥ってしまうケースが少なくありません。
今回の講演では、このような問題がなぜ起こるのか、そのメカニズムについて解説し、現状を打開するための処方箋について紹介します。具体的には、人間の創造性を発揮する根源的なエッセンスである「問い」と「遊び」の力を活かした仕事術やチームづくりのコツを解説します。
受講スキル
- チームでよりよいアウトプットを出したいすべての方
- 開発・創作のプロセスの質を高め、仕事の納得度と充実度を高めたい方であればどなたでも
得られる知見
- 組織・チーム・個人の創造性が枯渇するメカニズムについて理解できる
- 創造性を最大化する“問い”と“遊び”の効果的な技術について理解できる
- 明日からの自分やチームの仕事の質を変えていくためのマインドセットが持てる
こんな悩み、抱えていませんか?
安斎さんが実際にコーチングを行った企業によくあった、チーム・組織内の問題をご紹介します。
(1)お通夜ミーティング問題
ミーティング時、チームリーダーやファシリテーターが「何か意見はありませんか?」「どんどんアイデアを提案してください!」「自由に話し合いましょう!」と、一生懸命話を投げかけるものの、誰も意見を述べず、“お通夜”のような状態に。
特にオンラインミーティングの場合、皆ミュート・カメラオフ状態で、真っ暗な画面が並んでしまう……。これが「お通夜ミーティング」問題です。
お通夜ミーティングが常態化すると、リーダーやファシリテーターはどうしてもメンバーに対して落胆してしまうもの。こういったメンバーに対して1on1等で「もっと主体的に意見を言って欲しい」「良いアイデアじゃなくてもいいから、最低でも一つはアイデアを出せませんか?」と、打っても響かない相手に対して要求してしまいます。
こういった状態が悪循環してしまうと、優秀なリーダーやマネージャーほど「周りに意見を聞くよりも自分で考えた方が早い」という結論に至り、孤軍奮闘状態になってしまうそうです。
(2)「全部心理的安全性のせいだ」問題
「心理的安全性」とは、組織やチームの中で自分の考えや気持ちを誰にでも安心して発言できる状態のことを表す言葉。その重要性について、近年ビジネス界隈でも話題に上がる機会が増えているようです。
しかし「うちの職場は心理的安全性がないから……」「誰か心理的安全性を上げてくれないかな」といったように、チーム内での発言が少ないことを「心理的安全性」という言葉のせいにして、誰も改善のために動こうとしない状態ができていることも多いのだとか。
(3)「WHYなき“レンガ積み”」問題
「WHY(=目的や理念)」が無いまま、レンガを積む職人のようにただ仕事をこなす状態になっている「WHYなき“レンガ積み”問題」。これは海外でも書籍が発行されるほど、社会の課題として挙がっている問題なのだそうです。
これらの問題が発生すると、組織の創造性の枯渇に繋がると言います。
組織とチームの在り方の移り変わり
ここ数十年で「組織とチームの在り方にパラダイムシフトが起きている」という問題が高まってきているそうです。
これまでは、いわゆるトップダウン型の組織・チーム体制が主流でした。僕は「ファクトリー型」と呼んでいるんですが、この体制は経営層が問題(Why)を定義して、その解決策(How)を現場に落とし込みます。現場は経営層から降りてきた解決策を磨き上げることに集中して仕事を行う、というものですね。
従業員の数が増えると、課長などの管理者が現場に指示を出すようになります。そして現場の人間は上から降りてくる指示に対して、分業して仕事をこなすようになる。その結果「いかに効率的かつ継続的に仕事をこなすか」「いかに生産性を上げるための技術革新をするか」が鍵になってくるんです。
この組織体制は事業の不確定さがない会社や、単独事業で従業員数も数十人~数百人程度の会社にとって、とても効率的な体制といえるそうです。
しかし今は「VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)」といって、ビジネスが不確実な状態で“明日には状況が変わっている”ということが発生する時代。
たとえば、昨日まで名前も知らなかったベンチャー企業が突如頭角を現わし、その業界のトップを走る企業になることも珍しくありません。そのため、これからはこの時代に則した「ワークショップ型」の組織に変えていく必要があるのだそうです。
これまでのマネージャーの役割は「数値を管理しながら現場をまとめる」というもの。しかし、現在は「ファシリテーターとして現場とコミュニケーションを取りながら伴走する」という役割に変化していると言います。
ワークショップ型の場合は「何をするべきか」が上から降りてくるわけではありません。たとえフワッとした案が降りてきたとしても、自分たちの「こだわり」を忍ばせて、自ら意味のある目的をチームで発見する必要があります。
そんな「こだわり」を探索するためには、一人一人が持つこだわりにフォーカスを当てたり、同じ職種の人間同士で考え方を話し合ったりと、チームとして「創造性」を働かせることが鍵になってきます。
これまでのファクトリー型のように、分業的に効率よく仕事することが求められる場合、心理的安全性があまり担保されていなくても問題なく仕事ができる状態でした。
しかし、これからのワークショップ型で組織を作っていく場合は、チーム内でコミュニケーションを積極的に行い、自ら創造していく力が求められるため、心理的安全性が必要になっているのです。
そして今はファクトリー型からワークショップ型へ変遷していく過渡期であり、その中で4つの“現代病”が発生してしまうのだと安斎さんは語ります。
組織の変遷過渡期に発生する4つの“現代病”
(1)認識の固定化
この企業は「AIを導入して新しいカーナビを開発しないといけないが、良いプロダクト案が浮かばない」という課題を抱えていたそうです。なぜその課題が生まれたのかというと「将来的にAIによる車の自動運転が進みカーナビの必要性が無くなってしまう」という考えがあったから。
僕は運転免許を持っていないので、正直なところ自動運転社会の到来を待ちわびているタイプです。その中で凝り固まった無数の固定観念にとらわれながらカーナビを開発していることに違和感を覚えて。そこで僕は「皆さんは何でカーナビを作っているんですか?」とお伺いしました。
するとリーダーの方が「たとえ自動運転社会が到来しても、車で移動する時間そのものは無くなりません。私たちは車での移動時間を快適で豊かにしたいから、カーアクセサリーを作っているんです。」と答えられたんです。
このとき、リーダーの方もお話をしながらハッとした顔をされて。この企業の本質である「理念(WHY)」はそこにあったんですよね。
(2)関係性の固定化
経営学者のロナルド・A・ハイフェッツ氏が唱えた組織と事業の問題で、“技術的問題”と“適応課題”というものがあります。
技術的問題は「やり方を知っていれば解ける問題」のことで、適応課題は「自分たちが変わらなければ解けない問題」のこと。安斎さんが挙げられた上記の企業では、適応課題が発生していたといえます。
(3)衝動の枯渇
関係性が固定化されると、何か新しいことを衝動的に思いついても「どうせ聞いてもらえないだろうな」と、思考に蓋をしてしまうリスクがあります。これが「衝動が枯渇している状態」です。
(4)目的の形骸化
いわゆる「レンガ積み問題」がこれに該当します。仕事への意義を見失ったまま単調に作業をしてしまう状態に陥ってしまいます。安斎さん曰く、これらの組織の現代病を打破し、組織の創造性を解放するためには「こだわり」と「とらわれ」のサイクルを回すことが重要なのだそうです。
世の中にある商品のほとんどは、既に消費者のニーズをしっかりと捉えています。その反面、どれも似たような商品になってしまいがちなんですよね。
その中でクリエイターが忘れてはいけないのが「他の人にとってはどうでも良いことかもしれないけど、自分はここにこだわりたい」というマインドだと思います。組織はこういうこだわりを皆が発揮できるように変わっていかないと、ワークショップ型にはなれません。
とはいえ、こだわりを強く持ちすぎると、かえって「とらわれ」になってしまうこともあると言います。先述のカーナビ開発会社の場合「UIにこだわった製品づくり」がこだわりだったものの、それが逆に「とらわれ」として思考の枷になってしまっていたそう。
創造性を発揮するためのヒント
(1)衝動の蓋を外し、こだわりを忍ばせる
まずは自分の「衝動のストッパー」となっている要因を考え、その蓋を外してみましょう。
中には「うちの会社にはこういうルール・理念があるから、ちゃぶ台がひっくり返るような衝動は出せない」と思っている方もいるかもしれません。
しかし「衝動を発揮すること=ちゃぶ台をひっくり返す」ことではないため、まずは既存の仕事の中に何かこだわりを忍ばせられないか考えてみると良いでしょう。
(2)頭の中の「問い」をリフレーミングする
目標を立てる際は大きなビジョンを一つ立てるのではなく、プロセス目標・成果目標・ビジョン目標の三層に分けて決めるのがおすすめとのこと。
どのようなプロセスを辿って成果を出したいのか。いつまでにどのような状態・成果を目指すのか。そして、成果目標の達成の先に、何を目指すのか。
この3つの層全てが関係者の間で合理できている会社は、かなり少ないです。まずは目標策定を正しく行ってから「問い」を立てていきましょう。
▼気を付けたい、課題設定の5つの罠
頭の中で「問い」を立てる際は、以下のことに注意が必要です。
▼クリエイター必見!「名詞」には気を付けろ!
名詞(モノ)は人間の思考を閉じ込めてしまうので、特にクリエイターは注意して欲しいです。
たとえば“椅子”という名詞で新しいイノベーションを考えるとして、世の中には既に様々な椅子が存在するので、新しい種類の椅子を考えるのはかなり難しいですよね。なので、まずは名詞で考える前に「動詞(コト)」で発想を広げていきましょう。
下記の図のように「新しいオフィスの“椅子”のアイデアを考える」という考え方から「未来のオフィスにおける“座る”を再定義する」という考え方にしてみる。こうするだけで、発想の幅が広がりやすくなるんです。
(3)チームに投げかける「問いかけ」を変える
ちょっとした「問いかけ」の工夫によって、チームでの話し合いの空気はガラッと変わります。そして、一人一人の個性を発揮することにお互いが喜びを感じるようになっていきます。
その結果、当然チームからは良い成果が生まれますし、リーダーはメンバーに対してさらに高い期待を抱くことができるようになるんです。
▼「問いかけ」の具体的な作法
詳細を知りたい方は、安斎さんの著書『問いかけの作法』からご確認あれ!
(4)仕事を遊ぶプレイフルアプロー
ここまでの3つのヒントのすべてに共通するのは「遊び心」という考え方があるということ。この数年で「不要不急」という言葉が浸透しましたが、僕はこの言葉の対極にあるものが「遊び心」だと思っています。
バレないようにこっそりやる。子供がティッシュケースを車に見立てて遊ぶように「モノ」を何かに見立ててみる。無駄なことやくだらないことに執念を向ける。「この指止まれ」の感覚で楽しくやってみる……。
こういった遊びの中のエッセンスをいかに仕事に持ち込むかがすごく大事だと思います。ぜひ皆さんも、衝動の蓋を外して遊び心を持って挑戦してみてください。
ご登壇者
安斎 勇樹さん
株式会社MIMIGURI
代表取締役Co-CEO<講演者プロフィール>
1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究している。主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』、『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』などがある。
<受講者へのメッセージ>
私自身は「ゲームで育った」といっても過言ではないほど、ゲームをプレイするのが大好きでした。
今回、チームと組織の創造性について長年研究してきた知見を、セッションを通してみなさんにシェアできることを嬉しく思います。
ゲーム業界の仕事がさらに創造的なものになるために。ともに未来を考える時間にしましょう!
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ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)
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