画像生成AIを活用したエイプリルフール企画!『逆転オセロニア』|CEDEC2022レポ

CEDEC2022が8月23日~25日に開催されました。
楽屋でまったりで行ったアンケートをもとに、様々なセッションのレポートをお送りいたします。

ゲームキャラクターをAIで生成する時代は既に到来!
ドメイン観点・技術観点におけるそれぞれの課題とそれらを解決する技術面・企画面からのアプローチについて『逆転オセロニア』のエイプリルフール企画を元に具体的に説明いただいたセッションをご紹介いたします。

生成AIのビジネス応用をどうやって実現したのか気になりますね!
そんな画像生成AI技術に興味関心がある方向けのお話です。

アセット生成AIで作成したキャラクターをリリースした事例
~これが『逆転オセロニア』のエイプリルフール!~

セッション内容

今回我々は、スマホゲーム『逆転オセロニア』のエイプリルフール企画において画像・音声生成AI技術を実用に供し、これによって誕生した新規キャラクターをゲーム内に実装した。

本講演では、この業界でも類を見ない我々の取り組みに関して、AIの技術的挑戦、ならびにゲームでの実用上の課題やその解決方法などに関して、主に画像生成AIに焦点をあて実例を交えながら紹介する。

受講スキル

  1. 画像生成AI技術に興味がある方
  2. スマホゲームにおける画像生成AIの活用事例に興味がある方
  3. 面白いことに興味がある方

得られる知見

  1. ディープラーニングを用いた画像生成技術に関する知見
  2. スマホゲームにおけるAI活用法に関する知見

『逆転オセロニア』

オセロのルールをベースに、駒のスキルなどを駆使しながら対戦するスマホゲーム。
https://othellonia.com/

オセロニアン──『オセロニア』のファンやプレイヤーのこと

2022年 『逆転オセロニア』エイプリルフール企画

架空のキャラクター10,000体がお知らせを占拠してしまうエイプリルフール企画!
このキャラクター画像すべてがAIによる生成物で、ゲーム内の特定のガチャをする度に見たことのないキャラクターが出現。そのビジュアルは数千通りあり、何度ガチャをやっても被ることなく様々なキャラクターが現れるようになっていたそうです。さらに『オセロニア』で大人気のキャラクターのそっくりさんも登場し、その画像・ボイスも全てAIによって生成されたキャラクターとのこと。

生成AI技術でつくった新キャラをエイプリルフールに実装

画像生成AI:イラストを描き上げてくれる ←今回のメインテーマ!
音声生成AI:人間の声を自動で生成してくれる

 

エイプリルフール企画として、画像生成AIと音声生成AIを使った各コンテンツをゲーム内で体験できるイベントを開催。

もちろんSNSでも反響があり、AIで生成されたキャラクターがゲーム内に実装された事例はオセロニアチームで調査した限り存在せず、まだまだ発展途上の領域とのこと。

 

どうして前例がないのか。
吉村さん
ゲームというドメインと技術のアンマッチがあります。
高い品質のクリエイティブが要求される中、AIの生成画像はキャラクターとして求められれる品質に達しているとは言えないです。今回、我々は技術的アプローチと企画的アプローチから双方のギャップを埋める工夫を行いました。

 

技術紹介と課題へのアプローチ

技術紹介

阿部さん
DeNAの技術開発部では、多様なAI技術を事業応用する術を模索しています。
その内アセットを人工知能で作成する生成AI技術は近年開発が盛り上がっており、事業応用に取り組んでいる分野です。
DALL-E-
非営利団体オープンAIによって開発され、一般向けに公開されている。
テキストを入力するとテキストに沿った画像を生成してくれるAIモデル。
https://openai.com/blog/dall-e/

技術的課題! 生成AI技術のコストと品質

生成AI技術は有望な技術だが、決して万能ではなく、オセロニアンの方々にお届けするキャラクターの要求品質に達することは簡単ではなかったとのこと。品質を高めるには学習データの用意・相応の計算量の大規模学習を行う必要があるそうで、その分コストが嵩んでしまう。ビジネスに応用するためにはコストの制約があり、単純だがネックポイントになったとのこと。

技術的課題へのアプローチ

生成AIの強みは速度と物量、ただしクオリティの向上には高い技術力とコストが必要になってくる。実用できるクオリティの高いものを目指し、それを達成するための制約が世界観・企画でカバーできる範囲のものという開発方針を打ち出されたそうです。

バトル画面やデッキ画面などでの「駒絵(顔だけに絞ったキャラクター画像)」は『オセロニア』にとっては馴染み深いもの。顔だけに生成を絞ることで生成品質の向上につなげる手段により、実用化にかかる要求とのギャップを埋めることができると考えられたそう。

取り組み概要としては、キャラクター画像をGAN(AI技術の一種)と呼ばれる手法で大量に作成。クオリティ向上の難しさを生成する範囲を顔に限定することで、既存の画像アセットに迫る品質のものを大量に生成することに成功したとのこと。

どれがAIで生成されたキャラクター??

答えはこちらをポチっ!
技術詳細
『オセロニア』らしいキャラの顔画像をGANによって大量作成◎データセット作成
オセロニアキャラのうち人型キャラの顔周辺領域をクロップしデータ作成◎モデル開発
GANで生成AIモデルを学習
・キャラの顔画像をランダムに生成するモデル
・画像を高画質化するモデル

GANについて

Discriminator → Generator → …交互に学習を繰り返す
Discriminator:本物と偽物を見分けられるようになる
Generator:本物と見分けがつきにくい画像を生成できるようになる

『オセロニア』のキャラ絵はエフェクト盛り沢山でポーズや構図も様々。特定の場所に特定のパーツがくるわけではないため、多様性の高いデータセットの学習は生成AIにとっては非常に困難なこと。一方で、キャラの顔に範囲を絞ると顔の輪郭や目・口が浮き出てきたそう。構造に関する広がりを少し抑えると生成AIの学習の難易度が下がり、品質向上の角度が高まるそう。

 

企画紹介と課題へのアプローチ

企画的課題①! AI活用を目的に据えることの難しさ

AI活動を広く推進する立場にある吉村さん。今回の取り組みも生成AI技術という新たな技術領域を目指し、生成AIのビジネス応用を目的に立ち上がったが、ビジネスにおいてAI活用というのはあくまで手段。『オセロニア』の運営に応用する以上、目的はオセロニアンに面白い体験を提供すること。
AI活用を目的に発足したプロジェクトでありながら、AI活用は手段でしかないという矛盾をどのように解決したのでしょうか……。

目的は<オセロニアンに面白い体験を届けること>であるため、AI活用という手段の奇抜さを驚きで体験に転換し、楽しんでいただけるコンテンツにすることを目指されたそう。AI活用は確かに奇抜かもしれないがそれはオセロニアンに関係があることなのか、運営の自己満足になってしまう懸念があったそうです。

そこで「エイプリルフール企画」!
各企業で独自性のある取り組みを実施し、架空のコラボネタなどが発表されたり、エイプリルフールネタはプレイヤーたちが求めるものとは異なった体験があり、想像だにしないアプローチを見つけるかというところに重きが置かれている。
AI活用という手段の独自性が面白さに直結するため、手段の目的化が許される唯一の日がエイプリルフールだと考えられたそうです。

企画的課題②! ゲームクリエイティブ特有のコンテキスト

ゲームのクリエイティブ素材はそのゲームの世界観を最も直接的に表現するもの。AIによって99%それっぽい画像を生成したとしても、残り1%が隔たりになってしまうという感覚があったそうです。AIを用いる以上、手段としてベストでなければならない状況で、ウェットな事実は大きな悩みの種となったそう。

企画的側面から残りのギャップを埋める。企画側からのアイデアや創意工夫によって技術の強みを活かしつつエンタメとして成立させることを考えられたそうです。エイプリルフール企画として10,000体の顔画像が殺到するお知らせ画面(物量)で自然なコンテンツになっている。技術側の工夫(キャラ顔画像のみ)によって生成品質が高まり、制約にもなった顔画像のみのところは企画側のカバーでコンテンツを作る。

企画的課題へのアプローチ

今回のエイプリルフールにはサプライズ要素が盛り込まれており、4月1日にはAIが関与していることを伏せたままイベントを展開し、翌日にネタばらしをするという流れ。
10.000体がお知らせ画面に殺到することやそっくりさんキャラクターが出現することをオセロニアンが見てどのように感じるのか。エイプリルフール企画だとオセロニアンの方々も分かっているからこそ、たった1日のために10,000体ものキャラクターを準備したことに困惑する。人間が取り組んでいるという思い込みからくるズレが伏線として機能。そして、AIの精度がいくら高くてもオセロニアンなら感じる1%の違和感があってもサプライズを高めるものとして企画が成り立っていった。

エイプリルフールPvEコンテンツプレイ率が昨年を上回る結果。スマホゲームは年々ユーザー数が減少してしまう傾向にある中、プレイヤーのアクティビティを増やせたことは大きな成果とおっしゃっていました。

まとめ

『逆転オセロニア』におけるAI活用事例についてお話。『逆転オセロニア』では実応用例に乏しいゲームのキャラクター画像生成に挑戦し、AIが生成したコンテンツを実装した。今回の取り組みを通してエンタメ×AIの面白さは技術と企画の双方からのアプローチが必要と改めて実感されたそう。
生成AIには強みも弱みもあり、そのまま使うには難しい部分が多くある。今回のように顔画像のみ(技術の形を限定)にすることで、企画によって技術的課題の制約の中で表現。そうやって技術・企画の両面からギャップを埋めることで、新しい価値を発掘することができる。

今後の展望として、生成にとどまらない新たな技術領域にも、すでに挑戦し始めているとのこと。より多角的なアセット制作支援を通じてゲーム業界へ支援していきたいとのことでした。

質疑応答

生成されたキャラクターで違和感があるのはどういったところだったのでしょうか。絵として破綻しているもの? オセロニアの絵としてふさわしくないもの?
阿部さん
目の間が開いているとか、片目の大きさが小さいなど、パッと見ただけでも違和感があったので、そういったものは弾くという処理を行いました。
画像の背景を除去するなどの前処理は行いましたか。背景部分が悪影響しないか気になりました。
阿部さん
今回は前処理等を行わなかったです。前処理を行う工数もあり、背景が真っ白になることで、生じる見栄えの部分とも釣り合いを取りつつ、事業部の方とも相談して、背景を除去しない結果の生成画像を使うという判断に至りました。
画像生成の手法としてはDiffusion ModelなどがあるがGANを選んだ理由を教えてください。
阿部さん
Diffusion Modelも流行っているのをいち技術者として感じています。この企画を立ち上げて検証していた当時は学習結果に信頼がおける度合と少数データで学習ができるかという点。これは個人的な理由になりますが、GANについて知見を持っていたので、クオリティの水準に達するのに最適解かと思ってGANを選びました。
Diffusion Modelについて自分も注目していて、今後、GANに閉じずに多様なAI生成モデルの研究を行っていければ、皆さまにより良いものを届けられるのではと思っています。

 

ご登壇者

吉村 拓真さん

株式会社ディー・エヌ・エー
データ本部データアナリティクス部AI推進グループ PM

<講演者プロフィール>

2013年4月にDeNAに入社し、複数のスマホゲームの運営にエンジニアおよびプロジェクト・マネージャーとして従事。
そのうちの一つ『逆転オセロニア』チーム在籍中に AI 活用案件に携わり、 AI の活用事例拡大に貢献すべく2019年4月より社内外の事業に対するAI活用を推進する横断組織へ。
本講演の題材にあたる案件においては、プロジェクト・プロダクトのマネジメントを担当。

<受講者へのメッセージ>

スマホゲーム『逆転オセロニア』は、これまで様々な形でAIを活用し、その度にプレイヤーの皆様へ新たな体験を提供してまいりました。
今回ご紹介するのはその最新事例。
画像生成AIの力で産み出されたキャラクター10,000体(!)が彩る、本年のエイプリルフール企画です。
AI活用とは得てして一筋縄でいかないものですが、今回も御多分に漏れず数多の困難が立ちはだかりました。
本セッションでは技術の話のみならず、そういった実践の中での課題、そしてそれらをいかにして乗り越えたかについてもお話しします。
同じくゲームというプロダクトに対するAI活用を検討しておいでの方に、少しでもお力添えできれば幸いです。

 

阿部 佑樹さん

株式会社ディー・エヌ・エー
データ本部AI技術開発部 第二グループ エンジニア

<講演者プロフィール>

2021年4月にDeNAに新卒入社。データサイエンティスト。
2021年3月に慶應義塾大学大学院の修士課程を修了。
学生時代の研究テーマは深層学習、特にGANと呼ばれる生成モデルの学習手法。
Kaggleにも日頃取り組んでおり現在Kaggle Master。
2019年8月に開催されたGANのコンペティションではソロで準優勝。
本講演の題材にあたる案件においては、画像生成AIモデルの開発を主に担当。

<受講者へのメッセージ>

深層学習の分野のひとつであるGANは、特に画像生成の分野で目覚ましい発展を遂げています。
研究テーマに悩んでいた学生時代、ネットニュースで見かけた「GANによって生成された本物と区別がつかないレベルの架空の顔画像」の見た目のインパクトに私は心奪われ、この出来事はGANを研究テーマにするきっかけのひとつになりました。
そんなGANを実プロダクトに活用しユーザーの皆様にお届けできたこと、そしてその内容をCEDECという場で講演させていただけることは、私としては感慨深いです。
クリエイティブを作成するAIは今後ますます発展していくと感じています。
今回の講演をきっかけに、画像生成の技術やその事業応用に興味を持っていただければ大変幸いです。

 

 

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※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)

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