「ゲームはおもしろい、ゲームを作ってる人も実はおもしろい」
多種多様な技術を持った人々が集まるゲーム業界。あの魅力的なゲームたちは、どんなゲームクリエイターが生み出しているのか。ベールに包まれた「ゲームクリエイター」の生態を解き明かし、この地に生息する「ゲームクリエイター図鑑」の完成を目指す。その過程として、一部のレポートを公開しよう。
「細かい作業の一つひとつが面白ければゲームとして成り立つ」
──『鉄とコンクリートの守り人』について聞かせてください。『Ingress』を皮切りに位置情報を使ったゲームはたくさん出ていますが、マンホールを撮影することでインフラを守る情報が集まり、社会貢献に繋がるのがユニークです。これはどこから生まれたアイデアですか?
最初にWhole Earth Foundationの相談を受けた時点では、プログラマーとして話を聞いたわけではなく、「どうしたらいいですかね?」という話だったんですが、Zoomミーティングで僕から「ゲームにしてみたらどうですか?」という話をしました。
──先方の課題を聞いているうちに、大枠で『鉄とコンクリートの守り人』の構想を思いついたんですか?
実はその話をする前から、僕は電柱の写真を自分で撮影して集めて、電柱を地図上にマッピングして電線のネットワーク構造を調べたりしていたんです。そういう作業ってとても面白いんですよ。下水管のメンテナンスが危機的な状況にあるという話はその時に初めて知ったのですが、マンホールだったら下水管が繋がっていて、どこに向かって流れていくかを調べるのは面白いだろうし、その細かい作業の一つひとつが面白ければゲームとして成り立つと思いました。
僕はRTS(リアルタイムシミュレーション)というジャンルの、ロジスティックスと呼ばれる輸送網とか電力網とか水道とか、自分でインフラを作ってネットワークを張っていくゲームが大好きなんですけど、これをGPSを使ったりして実際のスケールでやったら面白いと思って、試しに作ったことがあるんです。それはポシャったんですけど、そういう準備があったので自然とマンホールのアイデアを思いつきました。
「企画はいろんな条件がピタッとハマらないと形になりません」
──もともとのアイデアは、地域一帯に電気をきっちり行き渡らせる電線のネットワークだったわけですね。
それを把握しようと思って写真を撮り始めたら、電線以外にも電話線だったり、有線放送のケーブルだったり無線だったり、いろいろなものがあって、とても面白かったんです。もともとのゲームの骨子は『シン・ゴジラ』みたいな怪獣が海からやってきて、それを強力なレーザー兵器で撃退すべく、日本中の電力を集めるネットワークを全国のプレイヤーが力を合わせて作っていく、というものでした。
電力が足りなければ太陽光パネルを追加することもできますが、普通のゲームみたいに画面をタッチして終わりではなく、誰かの家にある太陽光パネルを撮影してアップロードすると電力がプラスされる、みたいな。
──めちゃくちゃ面白そうじゃないですか!(笑)
やってみたいですよね。でも、これを実際に作るには相当なエネルギーが必要で、一人でやってみてもいいんですけど、他の仕事を全部やめるわけにはいかないので(笑)。
──それでも、水道管のメンテナンスという課題が持ち込まれたことで、電柱ではなくマンホールを撮影する形となり、『鉄とコンクリートの守り人』が生まれました。面白い経緯ですね。
企画はいろんな条件がピタッとハマらないと形になりません。お金が確保できて、チームメンバーも確保できて、というのはそう簡単ではないです。それでも僕は、ゲームを企画して持ち込むけど実現しない、というのを時々やっているおかげで、企画はいくらでもあります。
『鉄コン』の場合は、Whole Earth Foundationという会社のやりたいことと企画がまさに一致したので実現しました。実際、準備はものすごいスピードで進んで、去年(2021年)の6月ぐらいに写真を撮影できるアプリを作って、8月には渋谷でイベントをやっていました。
「ガードレールや水路、道路標識。対象はまだあります」
──渋谷区観光協会の後援を受けて行われた『マンホール聖戦in渋谷』ですね。
そうですね。『鉄コン』はバージョンが3つあって、1はブラウザで遊べるゲームで、下水道だけで1500万枚ある日本全国のマンホールを全部撮影しよう、というものでした。47都道府県に2100ぐらいの市と区があり、22万ぐらいの町があります。それごとにコンプリートした率を表示して、最初は日本中が真っ赤なのですが、マンホールの写真が集まるたびに地区ごとに色が変わり、コンプリートしたら青になる。日本地図を全部青にしよう、というゲームでした。
最初は渋谷を舞台に4日間のイベントを行ったのですが、最初の2日間ですべてのマンホールを撮影してコンプリートしてしまった。「ゲームの力はすごい」と分かったんですけど、「3日目から参加した人はやることがない」という重大な問題も分かりました。それで一度塗ったら終わりのゲームから企画を練り直して、犬を連れて歩き回って、撮影したマンホールの近くに出るアイテムを集めるゲームにしました。それが今、配信されている2つ目のバージョンになります。ただ、やっぱり色を塗ってコンプリートする達成感は大きかったので、それに比べて楽しさが足りないんじゃないかと感じています。その課題を解決すべく、3つ目のバージョンを現在制作しています。
──最初のイベントで、渋谷のマンホールが2日でコンプリートされたのは、Nさんの想定していた結果でしたか?
いや、4日間でもコンプリートするのは難しいだろうと思っていました。だからマンホール以外のインフラも対象にすればよかったと思いましたね。僕は町中のインフラを撮影したいと思っていて、マンホールだけでなくガードレールや水路、道路標識とか、対象はまだあります。実はそういう意味を込めて『鉄とコンクリート』というタイトルにしたんです。
──プロモーションには全くかかわっていない、という話でしたが、新しいゲームがいきなり成功を収めた理由はどこにあると思いますか?
基本はLINEとTwitterでしか告知してないと思います。それでもテレビ局がマンホールの写真を撮るゲームを面白がってくれて、イベントにすごい勢いで取材に来てくれました。テレビで相当扱ってもらったので、その効果が大きかったと思います。
#02まとめ
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