CEDEC2022が8月23日~25日に開催されました。
楽屋でまったりで行ったアンケートをもとに、様々なセッションのレポートをお送りいたします。
今回は1日目に講演があった「サービス終了寸前だったタイトルを、その後3年4ヶ月にわたって生き長らえさせた「未来への期待」を醸成するプロデュース術」をお届けします。この講演はCEDEC2019の講演のその後の様子が語られています。この数年、スマートフォンゲームが半年~1年くらいでサービス終了になってしまうこともありますが、この講演が役に立つ部分もあるのではないかと思います。
サービス終了寸前だったタイトルを、その後3年4ヶ月にわたって生き長らえさせた「未来への期待」を醸成するプロデュース術
本セッションは2021年8月にサービス終了した美少女剣撃アクションゲーム『天華百剣 -斬-』の運営で得られた知見に基づきます。
運用型のスマートフォンゲームにとって「プレイヤーさんがそのタイトルの未来にどれくらい期待してくれているか」という状態は生命線であると考えています。
その最も本質的なものの1つともいえる「未来への期待」を、『天華百剣 -斬-』ではどのように醸成していたのか、具体的な方法を紹介します。
いわゆる「キャラゲー」でもあった『天華百剣 -斬-』は、大きく次の2つの側面から「未来へ期待」を提供していました。
①「キャラゲー×アクションゲーム」という側面に対する「未来への期待」
②「キャラクターコンテンツのIP」という側面に対する「未来への期待」
これら2つの側面に対して、どのように「未来への期待」を提供してきたか、具体的に紹介していきます。
なお、本セッションはCEDEDC2019で行なった「サービス終了寸前だったタイトルが、CMを使わずにDAUを増やして九死に一生を得たSNSプロモーション術」のその後をお伝えする内容でもあります。
https://cedec.cesa.or.jp/2019/session/detail/s5ca0b7d0e3310.html
受講スキル
- お知らせやプロデューサーレター等を通したプレイヤーとのコミュニケーションの参考事例を求めている方
- ゲームのKPI(特に継続率)を向上させるための手法や知見を求めている方
- キャラクターコンテンツの成長戦略に関する参考事例やヒントを求めている方
- スマートフォンゲームの運営方針や戦略に関する視座やヒントを求めている方
得られる知見
- ゲームの外で「プレイヤーがワクワクできる瞬間/テンションが上がる瞬間」を設定することで、ゲームに対するモチベーションを上げて継続率をはじめとしたKPIを向上させる手法。
- 運営とプレイヤーさんとのインタラクティブなコミュニケーション手法の具体例を通して、どのように「未来への期待」を醸成するかを紹介します。 特に運用型のゲームに携わっておられる方にとって、ご自身のタイトルではどのようなことができるか?ということを考えるきっかけとなれば幸いです。。
ご登壇者
-
ナカムラ ケンタロウさん
株式会社ディー・エヌ・エー
ゲーム事業本部ゲームマーケティング部 マーケティングプロデューサー -
<講演者プロフィール>
DeNA所属、右投げ右打ち。
ポジションはスマホゲームのP(プランナーとかプロデューサーとか)とマーケ担当です。2013年にDeNA Games Osakaに入社。
複数のmobageタイトルや「戦魂」等にプランナーとして参加しました。2017年11月より「天華百剣 -斬-」チームに所属し、2018年1月にDeNAに転籍。
2018年4月に2代目のプロデューサー就任し、2021年8月のサービス終了まで務めました。現在は運用タイトルのマーケティングを担当しています。
<受講者へのメッセージ>
CEDEC2019
「サービス終了寸前だったタイトルが、CMを使わずにDAUを増やして九死に一生を得たSNSプロモーション術」noteでも「天華百剣 -斬-」の運営を通して得られた知見をシェアしています。
https://note.com/nakamura_kentaro《講演者からのメッセージ》
CEDEC2019で講演させていただいた「サービス終了寸前だったタイトル」は、プレイヤーのみなさんをはじめ多くの方に支えられ、その後3年4ヶ月に渡ってサービスを続けることができました。
CEDEC2022では、その「天華百剣 -斬-」の運営において最も重要だと考えていたことをお伝えできればと思います。スマホゲームをはじめ、さまざまな運用型コンテンツの何かの参考にしていただければ幸いです。
サービス終了寸前だった危機はその後も……そこからの解決策
講演は、本作を取り巻く環境からスタート。深刻な問題が山積みになっていることがわかります。
マネタイズの破綻やプロモーションの実施ができないという厳しい状況……この状況下で、3年4カ月にわたって運営を続けることができたのは『ファイナルファンタジー14』のプロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏の言葉でした。
「MMORPGって “未来に期待して今を遊ぶゲーム” なんです。」
この言葉がきっかけとなり、「天華百剣 -斬-」の運営で最も大事にしていたこと = 「未来に対する期待」をどれだけ提供できるか?が出来上がっていきます。なお、この未来に対する期待は課金者数のグラフを見ると関連性が見られます。
グラフの右端はコロナ禍の影響もあり、未来に期待できる材料を用意できず低迷が続いていった様子も見られます。一方で未来に期待できる材料が豊富な時は目に見えて課金者数が増えています。
『天華百剣 -斬-』の未来は2つ ゲームの未来とIPの未来!
それでは、どのような未来への期待を用意したのでしょう?ナカムラ氏は「アクションゲーム×キャラゲー」の部分についてはゲームの未来に対する期待、もう一つは『天華百剣』というIPの未来への期待だと考え、スライドのような3つの期待を提供していったと語りました。
壱:好きなキャラがゲーム内でもっと活躍できるようになるかも!?という期待を高めるには?
壱の期待のために、バトルでは全キャラが活躍できるようにすることを決めていて、以下のようにバトルを改善していったとのことでした。
・基本的にインフレはしない
・売り上げのため意図的にパラメータが突出したキャラは作らない
・売り上げのため特定のキャラがいないと楽しめないイベントは実施しない
・理想のバトル環境を実現するため、継続的に改修や調整をし続ける
これであれば、自分の推しが活躍することができるのでは?という期待をプレイヤーも持つことができることでしょう。また、理想のバトル環境を実現するために改善を続けると決めると同時にプロデューサーレターで現状の問題や改善についてプレイヤーに発表したことはとても重要です。
さらに、改善環境の進捗についてもプロデューサーレターで発表し、理想のバトル環境になぜ到達できないのかについて、ゲームの構造的な問題や、予算、開発人員にまで踏み込んで解説をしています。
そして、これを単なる報告で終えずに進捗状況までも毎月ロードマップで発表しています。
たしかに、ここまでこまめに発表されれば、ユーザーの期待は高まり、完成するまでゲームを遊び、応援もしてもらえることでしょう。
弐:好きなキャラに新しいコンテンツが追加されるかも!?という期待を高めるには?
キャラクターの衣装追加はユーザーにとって嬉しいものです。いつか自分の推しにも衣装が追加されると信じてゲームをプレイしている人も多いのではないでしょうか。ここでもナカムラ氏は一工夫しており、衣装を実装するまでに以下のように発表をしていました。
生放送での新しい衣装紹介コーナーは、目玉コーナーになっていて視聴者のコメントも一番盛り上がっていたようで、ユーザーの期待がぐっと高まっているところに、衣装をテーマにしたキャラソンを発表したり、webラジオで声優さんにエピソードを語ってもらったり、10分超のボイスドラマを公開するなどゲーム本作とは別のコンテンツとして展開をしています。
これには、シナリオのない本作にシナリオを追加しようとすると、2.5人月のコストが発生してしまうためという事情もありました。予算や人員が無い中で工夫をしている様子がよくわかります。
それでもここまで展開をすることでプレイヤーの期待は、大きく高まるのではないでしょうか?
参:『天華百剣』というIPが、この先、もっと発展するかも!?という期待を高めるには?
IPについて、ナカムラ氏は認知度や人気が一定以上あり、すぐに世の中から消えてしまうことはないIPとそうではないものがあることや、認知度を高めること、人々の話題に上がることが大事だと考えていたと前置きをし、以下のような取り組みを行ったと解説しています。
取り組みは様々で、情報発信をするものやユーザーに購入してもらうものがあり、開催もウェブでいつでも発信できるものもあれば、コミックマーケットのような時期が決まっているものもあり、多様な取り組みを行っていることがわかります。
声優ユニットの音楽活動などは、ゲーム自体の期待だけでなく声優その人のIPの成長にも期待できるため声優のファンも巻き込んでいくことができるのではないかと思います。
それにしても、なぜこんなにいろいろな活動をするのだろう?と疑問に思った人もいるのではないでしょうか?
それは次の章で明らかになります。
ライバルはVtuber!? 4年の運営の中でスマホゲームを取り巻く環境が大変化!
2017年から2021年には大きな3つの変化があったとナカムラ氏は言います。
通信環境とサブスクサービスで動画を電車の中などどこでも見ることができたこと、オタク系コンテンツのメインストリームにVtuberという強力なライバルが現れたことによって、スキマ時間にスマホゲーム以外のことをする人が増えてしまったことを上げています。
これは、多くの人が「確かに!」と思うところではないでしょうか。
ナカムラ氏はこれ以外にも考察をnoteに掲載していて、こちらにはさらに詳しく考察が行われています。
https://note.com/nakamura_kentaro/n/n143d1d6416bd
この環境の変化によって、コンテンツの提供期間や量が重要になってきているとナカムラ氏は以下のように例を挙げて解説しています。
こうしてみると、ゲーム以外のコンテンツの更新頻度が高いことがよくわかります。「これは何か手を打たなくてはいけない」と感じるのではないでしょうか?
このために、多様な施策を行い、ウェブ、リアルの双方でユーザーの期待を高めていったことがわかるのではないでしょうか。
これらの施策で気をつけたこと
様々な施策を行なうため、予想以上にユーザーが期待してしまうこともまた、リスクです。
特に、未来への期待を高めることに注力していた本作で、「期待していたものと悪い意味で違った」となることは運営において致命傷になる。とナカムラ氏は当時を振り返ります。
このプロデューサーレターとアンケート、そしてアンケート結果の発表はとても重要な位置づけとなっていて、詳細に解説するほどユーザーは熱意のあるコメントを行ってくれたとナカムラ氏は言います。ユーザーの熱意は決してクリエイターの熱意に劣りませんので、双方の熱意がぶつかりあったことでしょう。
その証拠に、ユーザーのフリーコメントの文字数は多い時には50万文字を超え、数冊の本くらいの文字数にもなっていったそうです。そして、ナカムラ氏はそれを系統ごとに分けて全レスをしていたそうです。50万文字に全レスというのは並大抵のものではないでしょう。その様子もスライドで公開されており、文字数が増えてきていることがわかります。
これらの施策を通じて、ユーザーに過剰な期待を持たれた場合は丁寧に説明し、誤解を解きながら運営を進めていったのですが、惜しくもサービスは終了。ユーザーからオフライン版を残してほしいという声も多数あったのですが、難しかったようです。
天華百剣 -斬-公式アカウントの最後のツイート
最後に、講演内容ではないのですが、天華百剣 -斬-公式アカウントの最後のツイートを紹介したいと思います。リプライの数々をぜひご覧いただき、この施策がどういう結果となったかを感じていただければと思います。
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