2年制のゲーム専門学校は2年目になるとすぐに就職活動が行われるため、なかなか共同制作を複数回行うことが難しい傾向があります。
そんな中、大阪アミューズメントメディア総合学院では1年生のうちから共同制作を2回実施。1回目の共同制作は入学3か月目から始まるようです。では、どのように共同制作を行ったのか、また参加した学生はどのように感じたのかを取材しました。
今回お話をお聞きしたのは、大阪アミューズメントメディア総合学院の横山先生と、2年生の井上さんと末永さん。二人ともゲーム会社に内定しており春からプランナーとして活躍予定です。

――今日はよろしくお願いします。先日のGGLT(https://gglt.connpass.com/event/364759/)でお聞きした「入学3ヶ月後のチーム開発 先生はどうやってマネジメントすればいい?」についてより詳しくお聞きしたいと思っています。早速ですが、入学して三ヶ月目の学生をどのように見分けているのでしょう?
横山さん よろしくお願いします。まず、2フェーズありまして、1フェーズ目ではプランナーの学生が企画を作って出します。2フェーズ目ではデザイナーとプログラマが企画を見て応募するのですが、メンバーの編成段階では我々教員も調整しています。以前は全員が企画を出してデザイナーとエンジニアがいいと思った企画に応募するスタイルだったのですが、プランナーのリーダーシップが弱いとプロジェクトが進まなかったという課題がありました。リーダーを教員が指名することでそういった課題を無くそうと思っていました。企画とリーダーが違うこともありますし、実際の業務では自分が決めた企画以外に携わることが多い。リーダーになった学生はディレクションやプロジェクトマネジメントを行っていきます。
――企画の良さとリーダーシップは別の要素ですからね。誰がリーダシップを有しているかはどのように判断しているのでしょう
横山さん 誰が企画力があるか、については入学してすぐに企画課題を出して、そこで目星をつけていました。問題はリーダーですが、まだ入学して間もないので担任の私でも把握が難しい。そこでグループワークの授業で、学生がどのように立ち回っているかを講師の先生が幹分け目てそれを参考にしています。講師はDECAの理事を務めている香川悟先生で、非常に的確に学生の特性を見抜いてくれています。もちろん、香川先生の見解と私の見解がちがう事もあるので、私があえて推薦する場合もありますね。

――横山先生は常勤なので他の授業での態度なども見て判断されるわけですね。井上さんと末永さんにお聞きしたいのですが何人くらいのチームのリーダーを務めたのでしょうか?
末永さん 1回目は声優学科のメンバーも含めて12人のチームでした。2回目の開発なら18人のメンバーがいました。。
井上さん 1回目は開発メンバーは9人、声優もいれて10人です。2回目の開発で18人でした。プランナーは1人、エンジニアが3人、デザイナーが14人ですね。
――大勢のメンバーがいるプロジェクトだったのですね。それにしてもデザイナーが多いのはどうしてでしょう?
横山さん 担当が3DCGの学科の学生なので、制作を通じて3DCGについて学んでもらう目的があります。そのため、2Dのゲームでも3Dのプリレンダで制作を行う必要があるので、どうしても開発時間がかかってしまうんです。この人数でも少ないなと感じますね。
――デザイナーは、モデラ―になりたいとかアニメーターになりたいといった進路はいつ頃決めるのでしょう?
横山さん 最初の共同制作ではまだ入学間もないので、デザイナーの各職種は決めずにいろいろ経験してもらっています。この制作が終わったときには「自分はアニメーターだな」と志望が固まっていますね。
――ところで、リーダーはどこでどのように発表されたのでしょう?
井上さん 授業の中で発表する場があって、そこでリーダーとサブリーダーが決まりました。その後自分たちの企画をエンジニアやデザイナーに見せに行ったりしてメンバーを集めます。
横山さん エンジニアやデザイナーには、行きたい企画の志望順位を出してもらって、なるべく高い志望がかなうように割り当てています。人気の高いチームからではなく、人気低めのチームから決めていくのがコツですね。志望順位が低すぎるチームに割り当てられる可能性を減らせますから。
井上さん もしかしてうちかもしれない…デザイナーに聞いたら5位か6位だったって。
末永さん 聞いたんや(笑)
横山さん 学生の希望を尊重するのですが、企画の内容によって開発難易度も違うので、各担任に相談して、スキルレベルに合わせた調整もやっています。
※元々の共同制作の話は複雑な話なので、削除してください。
――チームが決まったらリーダーはどのように開発を進めていくのでしょう?
横山さん 開発が開始する前に、仕様と発注書が作りきった状態でスタートしています。そうすると、タスクリストが出来るので、それらをプログラマーとデザイナーに工数見積してもらって、ガントチャート作成という流れになります。
――しかし、リーダーが見てもその工数が適正かどうかわからないのでは?
横山さん あくまで目安なので、それでも出してもらって、ある程度は出てきた工数を信じるしかないのですがそれでも判断できない場合は過去の先輩のガントチャートの実工数を見てもらって確認をしていました。
――実際工数が返って来た時はどうでしたか?
末永さん ガントチャートを作ると工数があふれるんですが、先生に相談して削れそうなところを見てもらっていました。
横山さん 私の場合、「ここまでにガントチャートをつくって」といった書類の納期を決めているだけで、あまり学生に介入しません。でも、スケジュールが収まらないときには積極的に入ります。過去の経験で、多めに見積もられている箇所、少なすぎる箇所はすぐに分かりますし、優先度の見直しなどは得意ですね。

――ガントチャートに線を引くまでは、リーダーに納期を伝えているだけですが、ここからは指導していくわけですね。…でもそう上手くいかないのでは?
横山さんガントチャートで一番大切なことは運用していく事で、各タスクごとに「着手」「提出」「チェック」「差し戻し」「作業完了」とステータスを入力できるようにしています。メンバー全員がそれらのステータスを入力する事で、現在のタスク状況を把握できるようにするんです。とはいいつつ各メンバーが常にステータスを更新してくれるかというと難しくて…。
井上さん メンバーがステータスを入力してくれない事はとても多かったですね。
末永さん 毎日、直接メンバーのもとに行って、入力をお願いしていました。
横山さん 僕がチェックしている事は、作業ステータスが常に最新になっているかだけなんです。そこだけ押さえておけば学生自身がなんとかしてくれる(笑)。
――お二人はガントチャートを見ながら、作業進捗を管理していると思うのですが、作業が遅れたときはどうしていたのでしょう?
井上さん ガントチャートに予備の日程を足して対応したりしていました。
横山さん そうすると、あふれてしまうのでデバッグなどの期間を削ったりして対応していますね。
末永さん それでも足りないときがあって、ゲームの完成形を考えてクオリティは若干下がってもいいので切り捨てる部分を決めて完成を優先しています。
井上さん 自分のチームではクリア演出をいれたいって話が後から出てきて、ガントチャートに追加できないかと考えて、調整できる工数があったので入れ替えたり、モーションとかのタスク調整して入れたりもしました。
横山さん 学生にプロジェクトマネジメントの授業で言っていたのは、プロジェクトが間に合わないときの対処方法は実はあまり多くないと伝えていました。クオリティを落とす、仕様を削る、人員を増やす、期限を伸ばす、労働時間を増やすというものですが今回のケースでは人員を増やすわけにもいかないですからね。

――実際、作業が終わって無いときは放課後や土日にメンバーに作業をしてもらっていましたか?
井上・末永 結構してもらいました。
横山さん ガントチャートを見ながらタスク管理をしていると、サボっている生徒もいなくて頑張っていると思いますね。ただ、そこまで重要じゃないところに努力していることもあるのでそういった所の調整が必要ですね。
――夏と冬で2回共同開発を行うと聞きますが、これは同じリーダーで取り組むのでしょうか。
横山さん 開発の作業量も多いので、チームはあまり多く作れなくて冬のリーダーは夏の制作での活躍ぶりなどで決めています。
――二人は夏も冬もリーダーをされたわけですね。夏と違い3Dタイプのゲームになりましたが、冬の制作で違ったことは?
井上さん あらかじめキャラの大きさを決めてたんですが、実機の画面で見たら小さ過ぎたり大き過ぎたりしていました。もうモデルの作り込みが始まっていてサイズ変更が難しかったので、プログラマに大きさを調整してもらったりしました。
――就活では面接官にリーダー経験のことを話したのでしょうか?
井上さん 1年で2回共同制作したことを伝えたら、結構やっているねって言われました。
横山さん 作品自体も大切ですが、制作で得た経験を武器にしてほしいのがありますね。企業の方もそこを求められているという実感があります。
――学生のゲーム制作とはいえ、かなり本格的にマネジメントしていますね。
学生作品とはいえ、10人規模になると勢いだけでは完成しないと思っていて。もちろん失敗から学ぶという考え方もあるんですけど、ゲームが完成しないときの精神的なダメージはかなり大きな傷になりますよね。自分自身がプロとしてゲーム開発した経験から「失敗させることが目的のプロジェクト」ってあってはいけないと思います。途中辛いことがあっても、良いゲームが完成したらチームメンバー全員が「やってよかった」と思ってくれると信じて指導しています。
ーー学生のお二人はリーダーをやってみてどうでしたか?
末永さん 自分の企画がだんだん形になっていくのがよかったです。
井上さん 開発している間は大変でしたが、一番最後に遊んでもらって面白かったって言われたのがよかったです。
――ありがとうございました。

2年生の専門学校はあっという間に1年が過ぎ、すぐに就職活動がやってきます。こういった共同開発を1年で2回経験することは学生本人だけでなく就職先にもプラスに働くのではないかと感じました。