自社でここまでできる社員教育!!研修プログラムのつくりかた|CEDEC2024レポート

CEDEC2024が8月21日~23日に開催されました。
楽屋でまったりでは様々なセッションのレポートをお送りいたします。
今回は研修作りのノウハウについてのセッションをご紹介いたします。

自社でここまでできる社員教育!!研修プログラムのつくりかた

セッション内容

マナー講習、報連相研修、メンタルヘルス講習、ゲーム業界の基礎知識講座等々…新人ゲームクリエイターの教育の一環としてサイバーコネクトツーでは様々な研修を実施しています。自社でつくることで、より現場のニーズにマッチした内容で実施することができます。

このセッションでは、開発現場で実施している専門職の研修とは別に人事が主導的に作成・実施する研修についてお話しいたします。新卒のスタッフが入社から研修を経て一人前に育つまでどんな取り組みをしてるか、また新米役職者向け研修まで、自社で行う研修プログラムのつくりかた、種類、実施方法、これからの課題について赤裸々にお話いたします。社員教育のご担当の人事の方、中小企業の管理職の方などに参考にしていただけると幸いです。

受講スキル

  1. 社員教育を担当する人事や管理職の方や自社内での研修づくりに興味のある方ならどなたでも

得られる知見

  1. 自社でできる研修づくりのノウハウ
  2. 研修を実施するうえでの注意点

自社研修の始まり

人材育成の悩みとして「教育のコスト」や「重要だけどなかなか手が付けづらい」というものがあり、百武さんが働く株式会社サイバーコネクトツーでも同じ悩みが尽きなかったそうです。

最初は外部に依頼をして役職向けの研修を行っていたそうですが、どの企業にもあてはまる一般向けの研修内容だったことから、必ずしもすべての要素が自社の考え方や業務の進め方に合っているものではなかったとのことです。

そこで、同じ時間を使うならより効果的に、「より自社にマッチした内容で実施したい」「必要なタイミングで必要な人に実施したい」という考えであったり、実施タイミングのばらつき、そして、すべての人にエースになってほしいという思いから、自社で研修を実施するようになっていったそうです。

自社研修の内容

現在行われている研修は、基本的なマナー講習から始まり、ゲーム業界・開発基礎知識、役員やマネージャー陣とのグループ面談であるコミュニケーション面談など、社員として業界や自社への理解を深めるような新人向けのものが多いそうです。それに加えて役職昇格者向けのマネジメント基本研修も行われています。

研修項目が多いですが、スモールステップから始まり、必要と思うものを実施していくうちにこうなったといいます。

ただ、自社で研修を作るにはメリットもあれば、難しい点もあるそうです。特に重要なのは、「伝えたいことを自分たちの温度感で伝えられる」という点です。百武さんは「大変なことも多いですが、それを乗り越えるだけの価値がある」と話しています。

研修をつくるまで

研修過程には大きく6つの工程があり、その中でも特に重視しているのが「会社方針の理解」です。これは、上長だけでなく人事メンバー全員が会社の方針を理解することで、共通の目的と意識を持って研修作成に取り組めるようになるからです。

また、自社に合った研修を作るためには、現場のヒアリングが欠かせないそうです。現場の課題や意見を聞き、それをもとにブレストを重ねて、案を絞り込んだり広げたりしながら優先順位を決めていきます。

本当に必要なものかどうか、他の方法がないか、人事が実施すべきかを慎重に検討し、要望ややりたいことを取捨選択します。そして、限られたスケジュールの中で調整しながら実施を決定するそうです。

作成機関と実施時期を年間スケジュールに落とし込んだ後は、資料集めを行います。研修で取り扱う分野について経験したことがあったり、得意なスタッフに資料作成を任せ、該当者がいない場合は書籍やWEB、情報メディアや有識者の意見を踏まえつつ、研修内容の草案へ繋げるとのことです。

研修内容・構成の草案、作成を行った後は、必ず本番と同じ時間で対象者サンプルに参加してもらい、「研修のシミュレーション」を実施し、フィードバックをもとにブラッシュアップをするそうです。

研修作成のポイント

次に、研修作成における5つのポイントが紹介されました。

まず、目的や内容に応じて講義タイプかワーク中心タイプかなど、内容や目的に合わせて研修の形式を使い分けるそうです。また、所要時間に関しては、講義なら30分、講義+ワークなら60分、ワーク中心なら90分など、適性の研修時間を考えるとのことです。

研修デザインのポイントで一番意識していることは、「知識だけを提供する内容にしない」ということとのことです。講義よりも「考える」ことに重点を置くそうです。

基本的な考え方を講義で学んだ後、ワークの中で実際に考え、発表を通じて他者の意見を知り、最終的に結論を導きまとめるそうです。さらに、事後アンケートで振り返りを行い、内容の定着を図っています。

グループワークの前には、準備運動として個人ワークを行うことで、難易度の低いワークを最初に取り入れ、心理的な安心感を作ることができると言います。また、ディスカッションの際は、議題を過去の実例など具体的な内容にすることが重要です。普段ディスカッションの機会が少ないため、参加者は話し合いを通じて当事者意識を持ち、それぞれに気づきが生まれるそうです。さらに、「書く」「動く」といった記憶の定着につながる行動や、「話し合う」といった自発的に考える行動を取り入れ、できるだけ五感を使ったワークショップのデザインを意識しているとのことです。また、ホワイトボードやふせん、ペンや会場のレイアウトなど、道具を活用することも大切だと言います。ペンの太さなど細かい部分まで考慮するそうです。

グループワークにおいては、適切な人数やグループ数を決めることが大切です。全員が発言しやすい規模にしたり、様々な職種や立場の人を混ぜることで、効果的なグループが作れると言います。

さらに、ファシリテーターが対応できる範囲でグループ数を設定したり、グループが多い場合はサポート役を配置することで、円滑にワークを進行できるとのことです。

一方、動画視聴型の研修では、視聴内容の理解度に個人差が出やすく、視聴したかどうかを確認することが課題だと指摘しています。

その課題への工夫として、視聴後にお互いの理解度を確認する質問会を設けることが挙げられます。理解した人が、理解が不足している人に説明することで、教える側も自身の曖昧な部分に気付くことができるそうです。また、グループ分けと時間割を設定すれば、受講者が自走して学習できるスタイルになり、中間段階で講師による質疑応答会を実施することで、フォロー体制を整えていると言います。

最後に、実施時期のスケジューリングについては、ある程度繁忙期を考慮して時期を調整しているものの、すべてのタイミングを完璧に調整するのは難しいため、割り切りも必要だと述べています。

実施と事後対応

次に、実施と事後対応における4つのポイントが紹介されました。

まず、講師とファシリテーターの役割について、知識やスキルを提供する役割である講師と、よりよいゴールに導く(参加者の発言を促す、話をまとめる)役割であるファシリテーターを使い分けることが大切だそうです。

時に講師、時にファシリテーターとなり、主役は受講者ということを意識し、特に役職者向けの研修などでは、導く人に徹することが重要とのことです。

また、実施時の人事の体制は、他業務との兼ね合いもあり基本は一人で回すことが大前提だそうです。しかし、初実施する研修(特にワークがあるもの)はサポート役を付けるとベターであり、備品が足りないときに撮りに行ける(中断しないで済む)であったり、一人で気づけない点に気付ける・フォローできるなど、協力できると言います。

録画をしておくことも大切であり、録画に寄って江氏自身が振り返りを行うことが出来たり、他の人事メンバーへの共有もできるとのことです。

さらに受講アンケートについては、気付きや学びを言語化してもらうことが主目的だそうです。

純粋な感想・ご意見は研修の参考にでき、忌憚のない意見ほど貴重で、改善点や潜在的な問題を見つける手がかりにもなるとのことです。

そして振り返りに関しても、「気付きはその日のうちに洗い出すこと」が重要だそうです。メモレベルでも書き出し、振り返り専用の時間もスケジューリングしておくのが良いとのことです。チーム全体でも振り返りをすることで、研修自体の質の向上にもつながっているといいます。

この振り返りから、研修の実施期間中にも内容をブラッシュアップすることもあるそうです。

今後の課題

今後の課題として、百武さんは効果測定が難しいことを挙げました。この課題に対しては、受講アンケートやその後の上長へのヒアリングを通じて工夫を重ねているそうです。

また、時間が経つと忘れてしまうという課題に対しては、新たなテーマでのディスカッションを反復して受講することで対応しています。受講者の興味や態度によって得られるものに差が出る課題については、時間を取り過ぎない工夫や意味のある内容を提供し、上長の理解と協力を得ることで解決を図っているとのことです。

さらに、今後の展望として、新入社員以外の社員向け研修の充実や、外国人スタッフ向けの新たな研修の作成に取り組んでいるそうです。

まとめ

最後に、現状のやり方が最善だとは考えておらず、今後は外部研修を検討する可能性もあると述べた上で、基盤を一度整えてしまえば研修体制を構築しやすくなると話します。百武さんは、「自社での研修作り・実施は、自社の課題と向き合い、試行錯誤を重ねることだ」とし、「その苦労を乗り越えることが、会社の成長につながる」とまとめていました。

質疑応答

受講者アンケートは記名で集めていますか?記名式の場合、よい意見しか集まらないことはありませんか?
百武 みずほさん
基本的には記名で行っています。アンケートの主目的は受講者が自らの気づきや学びを言語化して自覚することであるため、記名式で行っています。また、意外と手厳しい意見もたくさんあり、忌憚なく行えていると思います。
研修のシミュレーションの対象者サンプルは、本番と同じ人数を集めていますか?また、以前に研修に参加した社員の意見を聞くことはありますか?
百武 みずほさん

グループワークの場合、まずは少人数で行い、次を考えています。また、基本的には業務部内のメンバーに協力してもらうことが多いです。

アンケートを研修のブラッシュアップに使う用途以外に、なにか有効活用はしていますか?
百武 みずほさん
なにか決定的な課題が見つかった場合などは上長に相談することもあります。また、基本的には上長やマネージャー層はアンケートの結果を確認しています。
受講前の社員個々の知識量などを事前に把握していますか?
百武 みずほさん

個々人を網羅して把握しているというよりは、上長へのヒアリングであったり、評価を通じて基準を決めています。また、今実施している研修は新人向けや役職者なりたての社員向けのものであるため、前提知識が無くても受けられるものが多いです。

研修の内容を社内で公開し、社員が自由に受講を希望することはできますか?
百武 みずほさん
今はそういう形ではやっていませんが、今後マネジメント研修の際などに、もう一度受けれる形にしてもいいという話はしています。
自分の得意分野や自分と離れた得意分野の研修を組み立てる際、温度感は変わりますか?
百武 みずほさん

基本的には専門分野の方に研修作りをお任せしています。最初は簡単なものから創ってもらいますが、熱意がある人に割り振る場合もあります。

現場の社員から「研修でこういうことを教えて欲しい」という要望はあったりしますか?
百武 みずほさん
そう言った要望はあります。それに対し、「現場で教えるべきことなのか」「人事が教えるべきことなのか」を考え、取捨選択を行っています。
研修の対象者が少ない場合、コストなどのバランスはどう考えていますか?
百武 みずほさん

基本的には「会社の理念や行動指針に基づく」ことが一番大切なので、会社の課題や共通認識など、全員に共通して必要なものを研修として行っています。例えばある職種の一部の社員だけに必要なものは、その職種の中で学んでもらっています。

上長や現場への理解を深める工夫について知りたいです。
百武 みずほさん
上長や現場の方と日ごろからコミュニケーションを取ることに尽きると思います。お互いに理解することで、会社の課題を共通して理解できているかどうかだと思います。
研修プログラムを作成していて失敗だったようなものはありますか?
百武 みずほさん

研修に完成形はなく、実施するたびにアップデートをしています。やって失敗したなと思い浮かぶものはこの場ではありませんが、常にブラッシュアップをしています。

 

ご登壇者

百武 みずほさん

株式会社サイバーコネクトツー 業務部人事課 マネージャー

<講演者プロフィール>

2003年総務として入社後、広報部署を立ち上げる。
その後、他社ゲームメーカーで宣伝広報を経験後、2010年にサイバーコネクトツー東京スタジオ設立のタイミングで再入社。
現在は、人事課のマネージャーとして人事室およびグローバル室の統括を行う。また、2024年2月に開設した大阪スタジオの業務部の責任者も兼任。

<受講者へのメッセージ>

研修をやった方がよいと思うけどどうしたらよいか分からない、など似たようなお悩みをお持ちの人事や管理職の方も少なくないと思います。弊社の研修プログラムはまだまだ成長途中ですが、その作り方や内容、試行錯誤の過程を共有することで少しでも参考になれば幸いです。
また同じような課題や悩みをお持ちの人事や管理職の方々ともつながりを持てる機会にもなれば嬉しく思います。

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