全国に拡大中! ゲームによる地方創生の最新事例とゲーム開発者ができること|CEDEC2023 レポ

CEDEC2023が8月23日~25日に開催されました。楽屋でまったりで行ったアンケートをもとに、様々なセッションのレポートをお送りいたします。

今回は『全国に拡大中! ゲームによる地方創生の最新事例とゲーム開発者ができること』のセッションをご紹介いたします。ゲーミフィケーションの取り組み事例について知りたい方、地方でのゲーム産業の盛り上げ方を知りたい方はぜひ最後までご覧ください!

全国に拡大中! ゲームによる地方創生の最新事例とゲーム開発者ができること

セッション内容

日本の社会において、急激な少子高齢化の進行は喫緊の課題です。特に地方の状況は深刻で、消滅の危機に瀕する自治体も出てきています。この苦境に対し、ゲーム業界として何ができるのかを真剣に考えるべき時にきていると言えるでしょう。

そんな中、ゲームによる地方創生の取り組みが全国各地に拡がっており、大きな効果を挙げている事例も出てきました。本セッションではゲームによる地方創生の基礎知識を概説した上で、具体的な最新事例を豊富に紹介します。また、活用できる公的助成や補助制度を解説します。

さらに、ゲーム開発者個人でもできる地方創生の取り組み例を紹介し、これらによって解決される課題と、拓かれるゲーム業界の将来について展望をお伝えします。本セッションによって一人でも多くのゲーム開発者が地方創生に興味をもっていただけることを願っています。

受講スキル

  1. ゲームによる地方創生の取り組みに興味がある方

得られる知見

  1. ゲームによる地方創生の基礎知識と最新事例
  2. 地方創生に活用できる助成、補助の知識
  3. ゲーム開発者ができる地方創生の知識

IGDA/IGDA日本とは

国際ゲーム開発者協会は米国加州に本部をおき、全世界で1万人超の登録会員を数える、ゲーム開発者個人を対象とした国際NPO 団体です。1994年に米国で設立され(後に米国加州法 NPO法人)、日本支部は2002年に設立。2012年12月に NPO法人となりました。産官学によるゲーム開発者間の情報共有とコミュニティ育成をミッションとし、さまざまな活動を行っています。

NPO法人 IGDA日本公式サイト▶ http://www.igda.jp

引用元:https://igdajp.connpass.com/

日本社会が抱える課題とゲーム業界の関係性

少子高齢化社会が叫ばれる日本。内閣府の調査によると、日本は世界でも突出して高齢化率が高くなっているそうです。子どもの数が減ってしまうと将来大人になって働く人口も減ってしまうため、少ない大人の力で多くの高齢者を支えなければいけないことに……。蛭田さんいわく、この問題はゲーム業界にも大きな影響を与えているのだそうです。

蛭田さん
ゲーム業界に限った話ではありませんが、少子高齢化によって慢性的な人材不足が起こっており、今は優秀な人材の取り合いになっています。少子高齢化は人材獲得の観点で考えても、決して無視できない問題なんです。

中でも特に深刻なのが、地方の若者が都市部に流出して地方の高齢化が加速していること。その理由の一つは、地方には賃金や将来の安定性が高く魅力的な産業が不足しているからだそう。この課題を解決するためには、若年層にとって魅力的な産業を地方に立ち上げる/誘致する必要があると仰っていました。

そんな中、第一生命が2023年に発表した「大人になったらなりたいもの」ランキングでは、高校生男子の3位にITエンジニア/プログラマーが、8位にはゲームクリエイターがランクイン。高校生女子のランキングでは8位にITエンジニア/プログラマーがランクインしています。

蛭田さん
言わずもがな、ゲーム業界は国内外で長期的に市場を拡大させている業界です。今後はものづくりに興味を持っている学生たちが地方でも活躍できる機会を作ることで、地方創生に繋がると考えています。

ゲームで地方創生をするために必要なこと

eスポーツなどのゲームイベントを企画・運営して経済を活性化させたり、ゲーム産業の立ち上げ・誘致をしたりして地方創生を図るのも一つのパターンだそうですが、そのためにはイベント会場や会社を建てるには大規模な投資が必要になります。それに、こういった施策を高齢者が多い地方で進めるのは至難の業……。では、地方創生のために何をすべきなのか。蛭田さんは、まず第一に人材育成が必要だと語ります。

蛭田さん

そもそも地方に優秀な人材がいなければ、支社を作ることはできません。しかし地域活性の効果を急ぐあまり、事業創発だけに力を入れている自治体が多くあります。

事業創発を行う前に、まずは人材育成に力を入れることが大切です。

「プログラミングを学びたい」「地元でものづくりがしたい」と思っている若者に対して教育サポートを行い、それから事業創発に取り組んでいく……このような順番で地方創生に取り組んでいくことが大事だそうです。会社で培った人材育成のノウハウを地方に発信していけば、教育セミナーの依頼が来ることもあるのだとか。

ゲームを活用した地域創生の最新事例

ゲームを活用した地方創生の最新事例として、ゲーミフィケーション事業を展開する株式会社セガ エックスディーの取り組み事例が紹介されました。

首里城復興AR謎解きラリー

この取り組みは、2019年10月31日に発生した火災により大規模な被害を受けた首里城の復興のため、また文化財の興味喚起や保護意識を醸成するために実施された「首里城復興AR謎解きラリー」。ARの体験型ゲームを通じて首里城について楽しく学びながら、多くの人に「首里城を大切に守っていきたい」と思ってもらえるような取り組みが行われたそうです。

ARスタンプラリー

続いて紹介されたのは、東京都品川区・高知県・福井県坂井市による観光プロモーション「ARスタンプラリー」です。

蛭田さん

この取り組みを知った当初は「規模が大きすぎるから、成功させるのは難しいのでは」と思っていました。

ですが自分がたまたま富山県へ出張に行った際、「ついでだから」と隣県の福井に行って、さらに「どうせだから」と高知県まで行っちゃったんです(笑)。

もしかすると、自分と同じような理由で興味を持ってくれる人がいるのかもしれない、と感じた瞬間でした。

町ちがいさがし

次に紹介されたのは、山形県金山町で行われた“間違いさがし”ならぬ「町ちがいさがし」。現在の町の様子と未来の町の様子をビジュアルで表現し、自分たちが納めている税金がどのように町に影響をもたらしているのかを知ることができます。

自分たちが住む町が取り組んでいる施策や税収の使い道が、未来の町にどのような変化をもたらすのか、ゲーム感覚で楽しみながら理解を深めることができるそうです。

エンタメ避難訓練

大阪府で行われたのは、若者を巻き込んだ防災活動「エンタメ避難訓練」。防災意識が低く、避難訓練への参加率も低い若年層をターゲットに、“友達といきたくなる避難訓練”を目指した活動です。

蛭田さん

街中には非常にに備えて様々な防災グッズが設置されていますが、どこに防災グッズがあるのか知らず、いざという時に使えないケースが多くあります。

この避難訓練を通してどこに防災グッズが設置されているかを知れたり、街中にある防災に関する標識を意識できるようになったりと、参加した多くの方が「良かった」と評価してくれたそうです。

デジタルスタンプラリー

愛知県では、コロナ禍でも安全に店舗集客を行うための「デジタルスタンプラリー」を実施。通常のスタンプラリーにビンゴやミニゲームの要素を加え、遊びながらスポットを巡ることができるそうです。

JNN系列局のゲームによる地域創生の取り組み

蛭田さん
私自身もTBSにてゲーム事業に取り組んでいるんですが、JNN系列局ではYouTubeチャンネルを解説してゲーム実況を行ったりeスポーツ大会を開催したりと、様々な取り組みが行われています。ぜひ皆さんも視聴してみてください!

蛭田さんはこの他にも富山県魚津市のゲームクリエイター育成プロジェクト「つくるUOZU」の取り組みをはじめ、様々な自治体の取り組み例を紹介されました。その中でも熊本県天草市で実施されている「デジタルアートの島創造事業」では、ゲームやアニメの制作会社の誘致に成功。さらに天草工業高校情報技術科にCGを学ぶことができる学科を新設するなど、凄まじいスピード感で成果を上げているそうです。

蛭田さん

皆さん、こういった自治体の取り組みについてご存知でしたか?実は広報力に課題を抱える自治体は多くあるため、こういった取り組みが世の中に広まるよう、皆さんもぜひ関心を持っていただければと思います。

地域力創造アドバイザーを招へいする際に活用いただける制度があります。地元で地域振興のための起業をされる際は、ぜひ活用してください!

ゲーム開発者にできる地方貢献とは

ゲーム開発者にできる地方貢献の取り組みは「クリエイターコミュニティを通じて情報を知り、広めること」だと、蛭田さんは語ります。たとえばゲームイベントの運営サポートを通してイベント運営スキルを身に付け、自分の地元でゲームイベントを主催したり、会社で培った人材育成スキルを自治体などに教えたりすることも立派な地方貢献になるとのことでした。

中には「ゲームをプレイするのが得意」「趣味でゲーム実況をやっている」という人がeスポーツの講師として講義をしたり、ゲーム制作で培ったプログラミングスキルを生徒に教えたりと、オンライン講師として活躍している人も増加しているのだとか……!

蛭田さん主催のクリエイターコミュニティ「クリコミュ」
蛭田さん

ありがたいことに、現在は様々な企業・団体・自治体がゲームによる地方創生に取り組んでくださっています。しかし地域振興のための助成金制度やルールがあることを認知されていない、という課題もあります。

「自分たちの業界が順調ならそれで良い」と思うのではなく、ゲーム業界が社会全体に貢献できることは何かを皆さんにも考えていただけると嬉しいです。これらの取り組みが巡り巡ってゲーム業界のさらなる発展に繋がっていく……今回のセッションがそのきっかけになればなによりです。

 

Q&Aコーナー

地方には高齢者が多く、ゲームが産業になっていることを知らない方も多いと思います。中には「若者が来てくれるのは大歓迎だけど、地元の産業に従事してほしい」という声もあると思いますが、そういった軋轢などはあるのでしょうか。

私がアドバイザーとして関わらせていただいた自治体でも「ゲームなんかで良いのか」と考えている方はたくさんいらっしゃいました。

この自治体まずは高齢者の方にゲーム産業への理解を深めていただくため、ゲームイベントを開催したり高齢者の方も楽しめるコンテンツを作ったりしました。その結果「自分たちも応援しようと思えた」との声をいただくことができました。

 

地方創生は長期的な取り組みになると思いますが、指標となる数字はありますか。また、そういった数字はどのように意識すれば良いのでしょうか。

自治体の取り組みは、たとえば「3年以内に会社を創業する、企業誘致を〇件取る」などのKIPが設定されています。とはいえ大きい数字はどうしても時間が掛かってしまうため、WebサイトのPV数など分かりやすい数字を追いかけていくと良いかもしれません。

ご登壇者

蛭田 健司さん

NPO法人 国際ゲーム開発者協会日本理事、SIG-地方創生 正世話人

<講演者プロフィール>

サクラ大戦シリーズ、無双シリーズ等の開発に携わり、「真・三國無双Online」の技術責任者を経てカナダスタジオに出向。現地責任者として経営を担った。その後、ヤフーにてゲーム部門長、事業戦略室エグゼクティブプロデューサー、グループ会社の執行役員CTOや人材開発室長などを経験。上場企業顧問、トヨタグループ企業アドバイザー、富山県新分野産業育成事業の総合戦略アドバイザー等を歴任。

著書「ゲームクリエイターの仕事」はゲーム開発者推薦図書第一位を獲得。世界最大級のITカンファレンス「世界情報社会サミットフォーラム2020」開会式典セッション、大使館招待講演他、登壇多数。現在はTBSテレビのゲーム事業責任者として幅広い新規事業に取り組んでいる。

<受講者へのメッセージ>

CEDECでは4回目の登壇となりますが、今回はゲームによる地方創生の事例をご紹介します。急激な少子高齢化が進む日本の地方都市は危機的な状況に直面しています。一方で、ゲーム業界は右肩上がりの成長が続いている数少ない産業のひとつです。地方のためにゲーム業界ができる貢献は数多くありますので、ゲーム開発者の皆さまにもぜひ興味をお持ちいただきたいと思います。

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ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)

スキルや知識を学びゲームクリエイターとして成長・活躍し続けたい、同じ業界にいる仲間と市場の動向や技術についてなどの交流したい、日本のゲーム業界・職業自体の価値を上げ今より良い環境を作っていきたい……。そんなゲームを愛する人たちの未来に、必要な情報や機会を提供します。
ゲームクリエイターズギルド公式サイト ▶ https://game.creators-guild.com/

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