CEDEC2023が8月23日~25日に開催されました。楽屋でまったりで行ったアンケートをもとに、様々なセッションのレポートをお送りいたします。
今回は『モーションキャプチャーを使ってアニメライズされた動きを撮影するためのノウハウ共有』のセッションをご紹介いたします。迫力満点のモーションを生み出すための撮影技術について、また撮影後の後処理についてなど、モーションキャプチャーを使った撮影の裏側を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください!
モーションキャプチャーを使ってアニメライズされた動きを撮影するためのノウハウ共有
カットシーンにおいて、「こんなシーンを作りたいんだけど、どう発注すればいいんだろう?」等が起こるとお察しします。単に物理的に正しいだけのモーションでは、なかなか想定通りの画を創れず、手直しのコストも増えるのではないでしょうか?
そんなときどんなふうに撮影すれば、クオリティーが高く後処理の楽なデータを狙って撮影出来るのか? そういったことを様々な実例を挙げてご紹介致します。
同時に全てを嘘にせず出来るだけ本物を残す為、スタジオが行なっているデータ整理についても講義させて頂きます。
受講スキル
- ディレクター
- モーションデザイナー
- アニメーター
- ゲームデザイナー
- ゲームクリエイター
得られる知見
- モーションアクターを使ってのさらなる表現幅の拡大と、納品データのクオリティについて
“リアル”から安全で効率よく“リアリティ”を生み出す方法
株式会社モーションアクターは、仮想現実を構築するすべてのクリエイターに3つの価値を提供しています。
- 高度な身体表現:クリエイターのイメージを現実化する
- モーションデザイナー
- アニメーター
杉口さん:たとえどれだけアクターの運動神経が良くても、人間には再現不可能な動きがあります。我々は空を飛ぶことはできませんし、ジャンプ力を強化したりスピードを強化したりすることはできません(笑)。しかしそんな再現不可能な動きをより自然に魅せるために、様々な撮影技法を組み合わせてリアリティある“嘘”を作り出しています。ぜひ皆さんの加工技術を駆使してモーションにバフをかけて、カッコ良い表現を生み出してください!
ケース1:着地と同時に敵を斬りたい
「刀剣を手に大ジャンプをしてから着地斬りをしたい!」「高所からの飛び降りと併せて迫力のある斬りつけデータを撮りたい!」
こういったアクションを撮影する上で、着地と斬りつけのタイミングでどうしてもラグが生じてしまうそうです。実際の撮影では前方ではなく後方にジャンプをすることで、着地と斬りつけのラグをなくすのだそう。こうして撮影したモーションデータはX軸を調整して前方に飛ぶようにすると、リアリティある表現ができるそうです。
後方ジャンプなら刀剣を振りかざしても綺麗に姿勢が保てるほか、顔を撮影するカメラにも余裕を持って目線を送ることができるんです、と杉口さん。私たちが普段目にするあのアクションゲームのモーションも、こうやって撮影されているのかもしれません……!
ケース2:空中でシルエットを作りたい
続いては、バックジャンプをしながら銃撃したり、空中から急降下しながら突撃したりと、空中でカッコ良いシルエットを撮影する際の撮影方法。空中飛行をしているキャラクターがシームレスに着地して、すぐにダッシュする……そんな離れ業は流石に人間の体だけで再現することはできません。たとえジャンプをしながら銃を構えるモーションはできても、空中姿勢を維持したり地上動作へのシームレスなスイッチは困難を極めます。
そんな空中シーンの撮影は、補助の人間を付けて無理なく空中姿勢を維持できるようにサポートしているそうです。
Maoさんが後ろにジャンプをしたタイミングで杉口さんがMaoさんの体を支え、銃撃をするシーン。この状態だけでも十分カッコ良い……!
空を滑空しながら刀剣を構える、というシチュエーションでは椅子や補助の人間がアクターの体を支えて無理なく撮影。その後は映像の角度を調整するなどして、綺麗な滑空シーンへと昇華させていきます。この画像を見るだけでも、アクションシーンのインスピレーションが湧いてきます!
ケース3:オーバーに滑りたい
ダッシュからの急激な方向転換など、足を滑らせながらもベクトルを変えて瞬時に移動するシーンも、アクションには欠かせないシーン。このようにオーバーに滑る動きを撮影する場合、どうしても床の摩擦が障害になってしまうため、毛布や段ボールなどを強いて摩擦をなくしているそうです。ロケーションによっては、靴下やビニール手袋を装着してアクションをすることもあるのだとか。
滑るのをこらえる際は、紐を活用して撮影するそうです。確かに、こういうシーンも見たことがありますよね!
ケース4:本気(マジ)で殴りたい
殴る・蹴るなどの表現をする際、実際にアクターを殴ったり蹴ったりすることは(当然)できません……!そういった撮影ではアクターの立ち位置をずらしつつ、ミットを思い切り蹴るなど安全に撮影をされています。こうして撮影したデータを編集で組み合わせてアクションシーンを作っていくそうです。
ちなみに、武器を使用する場合は柔らかいスポンジ素材の疑似ソードを使って本当に体に当てているそう。杉口さんは「全然痛くないですよ!」と仰っていましたが、実演でソードが体に当たった時に“バシッ”と大きな音が鳴っていて、とても迫力がありました!
ケース5:長尺に合わせたい
“空中でセリフを発してセリフ終わりに斬撃を繰り出す”などのように、長尺のセリフを伴う一連のモーションを撮影する際は、実際のモーションとセリフの尺が合わない問題が生じてしまいます。空中での動作を伴う撮影を行う際は、台に乗ったり補助の人間を活用してポーズを維持しているそうです。
ケース6:危機一髪!死にたくない!
「崖から落下するが、すんでのところで木の枝などに掴まり助かるシーンを撮りたい!」
もちろんこのシーンをを人間の力だけで再現するのはとても危険です。こういったシーンを撮影する場合は、キャスター付きの椅子などを活用して、横滑りで落下を表現するそうです。
初海さんを棒に見立て、初海さんの脚を掴んでくるくると回るMaoさん。杉口さんいわく、この撮影スタイルを“ワイヤレスワイヤーワーク”と呼んでいるのだそう。
モーションアクターの皆さんが大切にされているのは「本物(リアル)っぽく迫力のある嘘(リアリティ)を創る」こと。たとえ人間には再現不可能な動きであっても、身体の動きの理論に基づいて限りなくリアルなモーションを提供されています。
こちらのYouTubeでは実際の撮影の様子がダイジェストで紹介されていますので、ぜひ一度ご覧ください!
スタジオの撮影技法とクリエイターの加工技術でリアリティあるデータに
セッションの後半はスタジオイブキの初海さんにバトンタッチ。モーションアクターのデータをどのように収録し、どの状態まで処理しているのか説明がありました。
データ処理の流れ
(1)ノイズリダクションを行ってアクターの骨格アニメーションを再現する
スタジオイブキでは光学式のモーションキャプチャーシステムを採用し、1名のアクターに対しておよそ50個のマーカーセンサーを付けて収録が行われています。収録直後のデータは、画像のように50個のマーカーセンサーの点がアニメーションとして動きます。
次の工程ではマーカーセンサーの動きからアクターの骨格の動きを再現するそうですが、その前に収録時に隠れてしまったマーカーセンサーの動きを修正するなど、ノイズや欠落を処理する「ノイズリダクション」を行うそうです。
(2)骨格アニメーションをCGモデルへリターゲットする
(1)の工程で制作したアクターの骨の動きをCGモデルへと流し込む「リターゲット」。初海さんいわく、この処理の中で最も大きな壁となるのが、アクターとCGモデルの骨格差だそうです。下記画像のように、アクターの骨格の動きをCGモデルに流し込む際、骨格の違いによって“本来なら刀を持っているはずなのに外れてしまう”など、モーションに破綻が生じてしまいます。
(3)Rigを使用して流し込んだデータの「めり込み」等を調整する
(2)の工程で破綻したモーションは「Rig」を使用してアニメーションを調節したり、武器等のprop処理や手指付を行うそうです。
初海さん:私たちとしては、ノイズリダクション後のアクターさんの骨格データが100%のクオリティだと思っています。このクオリティを100%で引き出せるようにするために、データを調整するスタッフは必ず案件の収録に立ち会って現場の空気感やアクターさんの想いを記憶し、細部の動きをきちんと再現できるように調整しています。
さいごに
杉口さん:よりハイクオリティなモーションデータを生み出すためには、我々とキャプチャスタジオ、そしてディベロッパーの三社の風通しを良くすることが大切です。三社でより円滑なコミュニケーションを実現して、クリエイターの皆さんが思い描く理想を再現したいと思っています。
プロ向けのモーション・キャプチャ体験会実施中!
ご登壇者
杉口 秀樹さん
株式会社モーションアクター 代表取締役社長
<講演者プロフィール>
株式会社モーションアクター代表取締役
モーションアクター・コーディネーター
CEDEC2021(モーションアクターによる、より質の高い人の動きを表現するためのノウハウ共有)
CEDEC2022(撮影現場でモーションアクターの動きをより引き出すためのノウハウ共有)
スタントマン、スーツアクター(仮面ライダーウィザード等)などを経て、2020に法人設立
数々のトリプルAタイトルのモーションアクターを担当
動きの言語化・体系化を得意とする。<受講者へのメッセージ>
ご興味を持ってくださってありがとうございます。
これまでの講演では「リアルな人の動き」を求められるプロジェクトに向けての講演を行って参りましたが、昨今は実写の映画作品も含めて非常にアニメライズされた演出・表現が主流になってきていると感じております。
我々モーションアクターも、生身を活用しながらもそういった作品のお力になれるよう日々研究を重ねております。その一部をご紹介させていただくことで、プロジェクトのお力になることが出来れば幸いです。
Maoさん
株式会社モーションアクター ダンス事業部 モーションアクター・ダンス事業部部長
<講演者プロフィール>
幼少期よりダンスを始め、全国大会優勝、世界大会2連覇(Canada Street Dance Camp トロント)など、国内外の数々のダンスバトルで成績を残す。
カナダ、アメリカでの2年留学を経て、ワールドワイドなダンスを学ぶ。そこで培った技術で数々のオリジナルの振り付けを多くのプロジェクトに納品。アクターとしても英語でのセリフも含め、あらゆるキャラクターに対応。
モーションアクターのみに留まらず、メディア、CM、映画など様々な分野で活動中。<受講者へのメッセージ>
初めまして!
株式会社モーションアクターのMaoです。昨年に引き続き、CEDEC2023に参加させていただくとこになりました。
前回はオンラインでの講演でしたが、今回は皆さまと直接お会いしてお話させていただけることがとっても嬉しいです!!講演を聞いてくださる皆様にとって有意義で素敵な時間となるよう、モーションアクターとして講演させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします!
初海 健さん
株式会社グリオグルーヴ スタジオイブキ テクニカルディレクター
<講演者プロフィール>
2002年から株式会社スタジオイブキで仕事を始め今年でモーションキャプチャー業務は21年目になり
現在、統合後の株式会社グリオグルーヴ・アニマロイドチーム・スタジオイブキに所属しています。
アニメ・映画・ゲーム・MV・CM等々 多種の収録を行った実績があります。<受講者へのメッセージ>
モーションキャプチャーについて、どのような収録ができるのか等まだまだCG業界内に知られていない点が多く
ゲーム開発やCG映像制作の企業やスタッフ様に知っていただきたいという思いからこのような機会をいただきました。モーションキャプチャーデータの収録や処理の経験があまり無い方々にとって、納品されるデータのクオリティや
どの状態までの処理がされているのかイメージや判断ができない点が多いと思います。
処理されたモーションキャプチャーデータの特徴やデータ処理の内容を知っていただくことは撮影を行うかどうかプロジェクトで
判断するうえでの重要な判断材料になると考えますので、その点を講演内でご説明させていただき
アクターとスタジオ側、両者がそれを理解していることで見えてくる新たな可能性についてもお伝え致します。
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ゲームクリエイターをはじめとしたゲームに関わる/関わりたい人たちが、プロ・アマチュア/学生・社会人/企業間など、あらゆる垣根を越え「学び合い」「語り合い」「教え合う」ゲームクリエイターのための拠点(ギルド)です。
※現役ゲームクリエイターやゲーム企業を目指す学生が約5500人参加しています。(2022年12月現在)
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