ゲーム開発のコンセプトや方針を固めても、それをチームに伝えるのって難しいですよね。
今回は、実際にゲーム開発現場で活躍する内川さんの視点から、コンセプトを正しく伝えるためのフレームワークをご紹介します!
株式会社オルトプラス所属。2013年株式会社ドリコムに入社。
サーバーエンジニアとしてキャリアを始め、その後ゲームプランナーに転向、ゲームデザインやプロジェクト開発手法について学びながら実務経験を積む。その後オルトプラスでは、プロジェクトマネージャーとディレクターを兼務し、ゲーム開発とゲーム運用に従事した。
現在はギルドクリエイターにて活動し、社内外問わずに業務に取り組んでいる。
ゲームコンセプトは何のために必要なのか
ゲーム開発は大抵の場合複数人で行うことが多いです。
そのときにネックになってしまうこと。それは…
「チームに作りたいものを正確に伝達できない」
うまく伝えられない場合、これから作ろうとしているもののイメージがそもそも一致しなかったり、作りたい体験からズレた提案がされ続けたり…と、開発を行う前に根本のところからズレた進行が続いてしまいます。それを防ぎ、やりたいことを伝えるために存在しているのが「ゲームのコンセプト」です。
しかし、ゲームのコンセプトを作り、きちんとチームと共有するのは至難の技。
理由は、「コンセプトはこうやって作るのが良い」というベースの共通認識が存在しないから。創案者の頭の中にしっかりとしたイメージがあっても、それをチームメンバー全員にきちんと伝える表現方法が確立されていなく、また、チームメンバーもどういう風に考えれば良いのか指針がないため、齟齬が起きやすくなってしまいます。
イメージの解釈は絶えず擦り合わせる必要があります。やりたい事が伝わり続けないと、プランナーの手元に渡った際に仕様が上手く落とし込まれなかったり、プログラマに渡った際に適切でない機能が実装されたり…と開発環境にはゲームが変わり、破綻する落とし穴が多いです。この状況が続くと、チームそのものが解散したり、当初のアイデアと全然違うゲームが生まれる可能性もあり得ます。
そこで今回は、コンセプトを正しく伝えるためのフレームワークをいくつか紹介したいと思います。
リーダー:こういうのを作ります!
メンバー:なるほど、こういうのを作るんだな
いざ作ってみる。
みんな:えっ
↑こういうことが起きないようにするためのコツです!
ゲーム開発で概要を掴むためのフレームワーク「インセプションデッキ」
まずは様々な開発環境、プロジェクトで用いられる「インセプションデッキ」というものを紹介したいと思います。
この、「インセプションデッキ」はゲーム開発以外でももちろん使われていますが、この記事ではゲーム開発に於ける話に限定したいと思います。
「インセプションデッキ」とは、プロジェクトの全体像(目的、背景、優先順位、方向性等)を端的に伝えるためのドキュメント類のことです。
それでは…
いきなり実際にインセプションデッキを作ってみましょう。
え?いきなり?
はい。いきなりです。理解には何より実践です。いきなりですがインセプションデッキを作ってみましょう。
インセプションデッキはいくつかの要素で構成されており、
- 作るもののコンセプトを表現する「エレベーターピッチ」
- 開発によって達成したい目標がわかる「我々はなぜここにいるのか」
- 完成形をイメージできる「パッケージデザイン」
- 事前にリスクを洗い出しておく「夜も眠れない問題」
などに分別できます。ここから、各要素の詳細を説明したいと思います。
エレベーターピッチ
「エレベーターピッチ」とは、その名の通り、エレベーターにのっている短い間でも、ゲームのコンセプトを伝えることができるように考えを整理するフレームワークです。
どんなターゲットユーザーに向けたものなのか、似たゲームとはどのような違いがあるのかを簡潔に説明するよう心がけましょう。
テンプレートはこちら ↓
[潜在的なニーズを満たしたり、 抱えている課題を解決したり]したい [対象顧客]向けの、 [プロダクト名]というプロダクトは、 [プロダクトのカテゴリー]です。 これは[重要な利点、 対価に見合う説得力のある理由]ができ、 [代替手段の最右翼]とは違って、 [差別化の決定的な特徴]が備わっています。
この文章の [ ]部分を埋めるとエレベーターピッチは、もう完成です。
ターゲットユーザー、ジャンル、似ているゲームとの差別化など、これから作りたいものを紹介するときに最低限必要な要素をギュッギュッと詰め込んだ文章となります。
実際に穴埋めをして、エレベーターピッチの例文を作ってみました ↓
いかがでしょう?ぱっと読んだだけでも、なんとなくゲームの概要が伝わってきませんか?
我々はなぜここにいるのか?
インセプションデッキは、プロジェクトの全体像を捉えている資料なので、実際に開発が始まり、進むべき方針に迷ってしまった際に見返し、原点に立ちもどれる役割も備えています。
このフレームワークは、我々がなんのためにゲームを作るのか、を明確にする行程です。野望とも呼べるようなエモい文章を綴っても良いと思います。
エレベータピッチの例文から考えを進めると、「かわいいを最も身近にするゲームを作るため」という文言が導けます。
今後アイデア出しや機能開発、デザインをするときに、「その要素は、かわいいを身近にできるものなのか?」を考えながら作っていくことができるようになるので、統一感をもってゲーム制作を進めていく手がかりとなるでしょう。
パッケージデザイン
これまでで、大まかなコンセプトと目的は定まりましたね。
次は、完成したときに「このゲームを遊びたい!」と思ってもらえるか、確かめる段階に入りましょう。ゲームを客観的に見つめるため、架空のパッケージデザインを考案してみましょう。
考案したパッケージが、家電量販売店やゲームショップの棚に並んでいた際、手に取りたくなるでしょうか?買ってみたい!と思うでしょうか。このような観点からパッケージ作りを進めてみてください。
パッケージ作りは自由ですが、以下の順で考えると作りやすいかもしれません:
- ゲームで得られる体験は何か
- ゲームのキャッチコピーは何か
- ついに、パッケージのデザインへ!
簡素ではありますが、パッケージデザインの例はこちら ↓
簡素なデザインを紹介しておいてなんですが、完成形をより具体的にイメージするためには、当然ながら時間をかけてデザインした方が、得られるものは多いです。絵心があるメンバーやデザイナーが既に在籍している場合は、依頼してみると良いでしょう。
ゲーム制作を続けていく上で、このパッケージデザインを繰り返し参照すれば、デザインが当初のコンセプトから離れていく心配も少なくなるでしょう!
夜も眠れない問題
「夜も眠れない問題」はゲーム制作を進めていく上で、いずれ向き合わなくてはいけない問題を発案していくフレームワークです。カジュアルな感じで、ポンポン出していきましょう。この過程を通ることにより、起こり得る危険な状況を事前に察知することができます。
リスクの話をするのは、あまり楽しい話ではないので、気分が乗らない部分もあるかと思いますが、このフレームワークを実践すると、以下のようなメリットがあります。
■ リスクを早めに話し合うことのメリット
・プロジェクトの課題を早い段階で明らかにできる
・おかしいと感じている部分をみんなに云えるチャンス
・話し合って、理解力を深め、気持ちがすっきりする
例として以下 ↓
このフェーズでは、課題をとりあえず洗い出すことの方が優先されるので、その後、実際に課題解消に取り組む価値があるのか、その場合はどのように解消するのか、再度議論するのも良いでしょう。
解決策の例として、「怪しい人が増えるのはむしろ狙い通りなので問題ない」など…でしょうか。
やらないことリスト
ゲーム開発を進めていくと、やりたいことがきっと、沢山出てきます。
ですが、本当に作りたいものに集中するため、予めやらないことを決めておくと、後々「これやらないの?」となったときに対応しやすくなります。
もしチーム以外にも制作に関わる人がいる場合は、事前にこのようなリストを共有しておくと無理な作業を依頼される可能性を減らせるという追加メリットもあります。
例 ↓
最後に…
フレームワーク「インセプションデッキ」、いかがでしたでしょうか?
プロジェクトが進んで、ゲームが完成に近付いていくと、当初作成したインセプションデッキと制作しているゲームの進みたい方向性が変わることもあるでしょう。その時は、この記事を見返してみてください。元々やりたかったことを見つめ直す良い機会となり、場合によってはインセプションデッキの内容を変更することに繋がるでしょう。
どちらにせよ、ゲーム制作の助けにきっとなるので、是非活用してみてください。
その他、インセプションデッキには
・「ご近所さん」を探せ
・解決案を描く
・何を諦めるのか
・期間を見極める
・何がどれだけ必要か
…などのフレームワークも存在します。
この記事ではゲーム開発で特に有効な項目に絞って紹介しましたが、インセプションデッキと相性が良く、他の項目も気になった方は調べて、独自でゲーム開発に取り入れてみるのも良いでしょう。
コンセプトをぶらさず、チームメンバーとの共有を怠らずゲーム制作を続けていくのは大変だと思います。インセプションデッキを駆使してゲーム作りが少しでも円滑に進むよう、応援しています!
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