全日本ゲーミフィケーションコンペティション2021
グランプリ作品、『ワンダーワールドツアー』制作者インタビュー
「全日本ゲーミフィケーションコンペティション」は株式会社オルトプラスx慶應義塾大学の共同で開催している、ゲームが持つ理論や特徴を活かして、社会問題を解決・認知させようとする挑戦を応援する内容のコンテストです。
第2回目の開催も終わった今、2021年度のグランプリに輝いた高橋真さんにインタビューをさせていただきした!
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『ワンダーワールドツアー』の制作者、高橋さんに色々聞いてみました!
※以下、「高橋」表記。
グランプリ受賞おめでとうございます!感想はいかがでしょう?
高橋:グランプリを取れると思っていなかったので、素直に嬉しいです。
高橋:そうですね…。前回の作品もちゃんとゲームとして成り立つように制作しているし、テストプレイでも手応えは良かったんですけど、小学校4-6年生で20-30分のプレイ時間、大人ではあまりしっかり検証できなかったので、バリエーション観点から見るとちょっと詰めが甘い部分があるかな、と正直感じていました。
あとは、仰ったように昨年も入賞できたんですが、その時は最終調整がすごく大変だった記憶があるので、今回はシンプルで、楽しく、を目指したのですが、その分単純すぎたかな、などの懸念も残っていたので、グランプリいける!という状態ではなかったです。
『ワンダーワールドツアー』の紹介をお願いします!
高橋:今回のゲームのテーマは「交流」です。日本社会では、高校生以上で障害のある方を助けた経験がない、助け方が分からない、と答える人が5割を超えているんです。他にも、これは小学校の先生が言っていた事なんですが、みんな良い子なんだけど、助け方が分からなくて遠慮しちゃうから、助ける経験と一緒に楽しい経験が出来たら、子供はその経験を活かして実社会で助けられるようになる。
これを踏まえて、障害のある人とない人が、一緒にゲームをして、何かしらの問題をみんなで乗り越えましょう、というコンセプトにしています。
昨年のゲームは障害者雇用問題をメインに扱っていたので、社会的な雰囲気が強い感じですが、今回のゲームはみんなが楽しく遊んで、盛り上がれる、パーティゲームっぽい雰囲気にしています。
高橋:障害者雇用をテーマに掲げ、そのメリットをプレーヤーに体感してもらおう、というコンセプトのゲームでした。
企業での仕事って雑務などもついて回るじゃないですか。特に若手の方って雑務を抱えがちなので、そういう仕事を、短時間業務として切り出して障害のある方に出したら、障害者が働く機会も増えるし、社員の方は雑務がなくなる事によって他の仕事に集中できる。
双方向にメリットのある取り組みなので、それを体感してもらうために、業務の割り振りをして、単純作業が全てなくなったら社員のやる気が上がって、障害者は雇用が生まれて、社会に良い循環が生まれます、というゲームでした。
ゲーム制作へと踏み出すきっかけ
高橋:大学院の授業でゲームについて学んだことと、修士論文で支援が必要な子供の小学校選択支援を研究テーマにしていました。普段だったら身構えちゃうような話やテーマでも、ゲームという手段を通すと柔らかく導入する事ができる。言葉で100回言うより、体験した方が分かりやすいこともあります。ゲームは仕組みとして理解をするのに優れていることもあり、ゲーム制作に興味を持ちました。
高橋:きっかけは、私の娘にダウン症と中度の難聴があるのですが、娘が通っていたこども園や自分の子供時代の経験がもとになっています。うちの娘は保育園と幼稚園が一体になっているこども園に通っていて、保育園から幼稚園げ上がるタイミングで入園式があったんですね。
幼稚園から加入する子供もいて、その子達は初めてみんなと集団生活をするのですよね。そんな時、うちの娘は隣の幼稚園組の子に、「あー、あー!」と声を掛けたんです。これは、『遊ぼうよ!』という意味なんですが、隣の子が怖がっちゃって「気持ち悪い!触らないで!」という反応をして。とりあえず後ろの方で見守っていたら、保育園から一緒だった別の子が、「違うよ、ゆうきちゃんは今『遊ぼうよ』って言ったのに、気持ち悪いとか怖いとか、言っちゃダメなんだよ」って言ってくれたんです。
高橋:ですよね〜!多分、娘の友達のように隣にずっといて、一緒に育っていれば当たり前のように感じられるんですけど、知らないと怖い、気持ち悪い、と感じちゃうし、子供だと実際に言っちゃう。いきなり対面すると、どうしてよいか分からない気持ちも生じると思うので、交わるきっかけを作りたいと思いました。
自分が手を使いづらい、話すのが困難、という経験をして、困っている時に助けてもらうと嬉しいと感じたり、逆に助ける経験を通じて抵抗感なく交わる事が出来たら、分からない事への嫌悪感や恐怖は薄れんじゃないかな、と感じてそういう経験ができるゲームを作りました。
ゲーム制作で苦労したこと
高橋:今回は(2人ですが)チームでの制作だったので、知識の部分と楽しめる部分を一つのゲームに落とし込めるまでのすり合わせが大変だったかな。
今回チームにした理由が、昨年のコンペの際に動画の質が低い、アウトプットのクオリティにも問題がある…と反省したので、ゲームが好きで動画も作れる前の会社の同期を誘ったんです。彼もゲーム関係者とかではなく、ゲームがめっちゃ好きなお父さん、という感じの人なんですが、彼はエンタメ寄りの楽しさに重きを置いているゲームを沢山遊んでいて、反対に私は社会ゲームが主なので、今回のゲームの比重をどういう感じにするかぶつかりました。
彼は、良い意味で細かくてきっちりしていて、私は勢いでどんどん作るタイプなので、そこも真逆でした。勢いで作ったものが、結構戻されて、詰め直されることも何度かあったので、制作過程は長引いたのですが、結果複数で作った方が良いものができるので、必要な苦労だったんじゃないかな、と感じています。
『ワンダーワールドツアー』のアピールポイント
高橋:まずは、子供が楽しく、複数回遊べる点ですね。何回か通して遊ぶと「助け合いって楽しいよね」となったり、コミュニケーションがどんどんスムーズになっていくのを見られるのが、こちらとしても楽しいです。
高橋:ああ、試遊会の時は体験時間が限られているので頑張ってファシリテーションしてたんですけど、テストプレイで遊んでもらった子たちには3-4回遊んでもらったので、結構放置して見守っていたんですよ。ファシリテーターがいないと、最初はみんなすごく下手くそなんですけど(笑)段々分かってくるんですよ。その、自分で分かってくる過程も楽しめる要素に繋がるので、そこまでギチギチに定める必要あるのかなぁ…と考えています。
例えば、小学5-6年生の子達のテストプレイの時の例ですが、慣れてきたあと、5年生の子たちはカードを綺麗にびっしり並べて、2時の方向に〇〇があるとか、テキパキ指示していたんですね。対して6年生の子たちはカードを捨てる場所、置く場所をハンディを背負っている人に全部任せて、分かる人たちが回収する、という工夫をされていて、人によって遊びかたや辿り着く解決方法が違うのが目に見えて、面白かったです。
「あえての分かりづらさ」を表現する難しさ
高橋:ちょっと表現方法を工夫しなければいけないかな、と感じているのがカードに導入している「あえての分かりづらさ」ですね。
高橋:例えば「バックパック高原」の中に一枚だけ「パックパック高原」が紛れ込んでいたり…「モリモリモール」と「モリモリリモール」も。絵も少し違って、意図的にハズレカードを盛り込んでいるのですが、みんな最初気付かないんですよ…。あえて、大体同じような作りにして分かりにくくしている部分はあるのですが、細かすぎて気付いてもらえないのは少し考えものです。
高橋:そうですね…。ただ、分かりにくい表現にしているのにも理由があるんです。一般的な資料って大人でもよく読まないと分からない表記って結構ありますよね。文章が冗長で、結局結論はよく分からない、とか。また、色の表記に関しても配慮が足りないことがあります。例として、緑地に赤文字って色覚に異常がある人には読みにくいから、書いてあっても文字として認識できず気付かないことも。学校の黒板に赤いチョークで大事なことが書いてあっても気付けないんですよね。こういうことが分かっていると、みんなに伝わる表記や表現を使うよう意識しますよね。
ゲームの方に話を戻すと、「バックパック」と「パックパック」も文字だけでコミュニケーションをとると勘違いしやすいですよね。カードの表記上でわざと違う色などにすれば、気付きやすいとは思いますが、何も言わなければ気付かずミッションが達成したと勘違いできてしまうような、イラスト部分に違いを持たせることにしました。そうすることによって、ハッと気づく瞬間、そして今後どうしたら良いかのヒントを提示するような表現をしています。
今後取り組みたいゲーム
高橋:ゲームを作っていく上でいつも掲げているテーマが「誰でも楽しく生きられる社会」なので、それに関するものは作っていこうと思っています。
今、案として出ているのは、障害を持つ子供の親がほぼ必ずぶつかるであろう、「小学校入学」時の学校選択を扱うことです。うちの娘も小学校進級のタイミングで、遠く離れた支援学級に行くのか、兄妹同じ学校内の支援学級に行くのか、通常級に行くのか判断しないといけませんでした。保育園の時までは分けることなく子供達は共に育ち、学んでいたのに、小学校になると選択を迫られ、親は悩むことになるんですよね。その悩みを軽減する研究をしていたのですが、それをゲーム化できないかと考えています。
ゲームにするとしたら、ダンジョンゲームみたいな感じですかね。あそこの小学校に入るために古い価値観の校長先生と戦う!そのあとは教育委員会と戦う!みたいな。ただ、すごく悩んでいる人たちもいるテーマなので、ふざけて良いのか、汎用性はあるのか…と悩みます。ワークショップとかの方が向いているかもしれないですね。
高橋:障害支援で取り組んでみたいテーマは沢山あるので、考えればポンポン出てきます。
誰でも少数派になる可能性はある
高橋:それも、もちろんあると思いますが、様々な体験が今に繋がっています。例えば、初めに子供が生まれた時に、社会って大多数にとって都合の良いように出来ているんだな、と実感したんです。駅でベビーカーを押していると、エレベーターに辿り着くのが大変だったり、やっと辿り着いてもみんな乗っているので全然は入れなかったり。あとは、父親がペースメーカーを入れることになって、いきなり障害者になったこともありました。
交通事故とかって誰にでも等しく起き得る出来事だし、ある日突然大多数じゃなくなっちゃう事って全然あり得る事なんですよ。それをあまり見たり、経験しないまま大人になっちゃう環境に今の日本は結構なっている。
清水くんが言ってくれたみたいに、情報の非対称性…という表現のように、まだまだ私たちには知らない世界がいっぱいあるんです。周りにいない、気付いていない、という事っていっぱいあると思います。私は家族のおかげで踏み入れる事が出来たので、困る事もあるけど、良い事もいっぱいあると感じます。だから、ゲームを作っていく事によって、世界を見る視点を増やす一輪を担っていきたいと思っています。
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