各回豪華ゲストを招き、キャリアヒストリーをインタビュー形式で紐解くクリエイターヒストリア。今回のゲストは、株式会社Luminous Productionsのシニアプロデューサー 、新小田 裕二(しんおだ ゆうじ)さんです。セガの店舗運営からゲームプロデューサーにまで登り詰めた彼の成功と挫折のヒストリーに迫ります。
セガの店舗運営から一転、プロデューサーとしてのキャリアをスタートさせた新小田さん。ディレクターの松永氏とともに進めたプロジェクト『チェインクロニクル』(以下『チェンクロ』で統一)は、Free-to-Playゲームのスタンダードを築き上げたと言っても過言ではないほどのヒットタイトルになりました。
パブリッシャーも開発も「同じゲームをお客様に届ける」という共通の目的を持っている仲間。とはいえ売り上げ責任を持つパブリッシャーの立場上、数字的な目標を達成することも大きなミッションの一つです。しかし当時はその部分を上手く調整できず、パブリッシャーと開発の間に摩擦を起こしてしまったと、新小田さんは語ります。
僕の人生は基本的に失敗だらけなんですが、ここでの失敗は一番心に傷を負いましたね…(笑)。多分、有頂天になっていたんです。開発側の仕事で一番最初の明確な成功体験を味わうことができたのが『チェンクロ』だったので。
当時は「開発側であることが使命」だと、変にあぐらをかいていたせいで、皆同じ目的がある人たちなのに「こちらが上流だ」みたいな態度を取ってしまっていました。本当はチームに上流も下流もないんですけど……。これは今でも大きな反省点になっています。
その後は『チェインクロニクル』のプロデューサーを一旦外れることになって、マネジメント側に移られましたね。経験値としては一つステップアップですが、プロデューサーを外れるのはショックな出来事でしたか。
そうですね。明確な挫折だと思います。なのでセガを辞めようと思って松永さんにも相談したんですけど、松永さんに「泥水すすってでも一緒にやりましょうよ」と言ってくださって。
言葉を尽くして作り上げたUXプロデュースセクション
その後、アーケードゲーム『コード・オブ・ジョーカー』や『スターフォース』『三国志大戦』をアプリ化させる取り組みが発足。そこで立ち上がったのが「UXプロデュースセクション」です。
ざっくり言うと、マーケティングやマネジメント、プロデュースを兼務しつつWebマーケティングも見ていくようなセクションですね。
二足の草鞋ならぬ、三足の草鞋ですね(笑)。当時のチャレンジとしては、マーケティングとパブリッシング、そしてゲームコンテンツを連動させる、ということだと伺いました。
言ってしまえば、ゲームもプロモーションも全て“お客様とのコミュニケーション”なんですよね。ゲームとプロモーション双方が連動して、相乗的にお客様の体験価値を上げていくことが理想だったので、その両方が見れるセクションを目指しました。
先ほどの「チームに上流も下流もない」という話に通ずるものがありますね。
そうですね。このプロジェクトは代理店の方とタッグを組んだんですが「僕たちは“お客様とコミュニケーションをするチーム”なので、上流も下流もないフラットな立場で一緒にモノづくりをしてほしい」とお伝えしました。
社外の方と一体感のあるチームを作るのは難しいと思うんですが、どのようにチームビルドされましたか?
言葉を尽くす、ということは徹底しました。その言葉にどれだけ思いを乗せられるか。それが伝わっているかどうかは相手次第なので、相手の方のハートにも依存するんですけど。あとは行動で示していくしかないですかね。
外部も内部も関係なく、一人間としてハートに向き合っていくというところが重要なんですね。実際に三つのタイトルを立ち上げた後は、どのように次のステップに移られたんですか?
UXプロデュースセクションのタイトルが落ち着いて「役割を終えた」という感覚があったのと、当時44歳でセガも22年目と、ちょうど人生の半分だったんです。このタイミングで一区切りかな、と思って次のステージに行こうと思いました。
アーケードとモバイルを経験して「次は家庭用ゲームに携わりたい」と思っていたところ、ちょうどそのタイミングでお話をいただいたので、2018年に株式会社Luminous Productionsに転職をしました。
プロデューサーに必要な資質とは?
新小田さんが思う「プロデューサーに必要な資質」は何でしょうか。
大きく三つあると思っています。一つ目は数字感覚。収支目標をざっくりでも書ける必要があるからです。僕自身はセガで経営に関わっていたので、その部分はかなり強みになっています。
二つ目はバランス感覚。プロデューサーはゼネラリスト的な能力を求められるので「100点とはいかなくとも70点、80点ならどの分野でも取れる」みたいなバランス感覚があると理想的だと思います。
三つ目は何といってもコミュニケーション力ですね。開発チームには様々な役割をもつ人がいるので、どうしても全ての意見を拾い切れない部分が出てきます。ディレクターがそこで困っていればまずはディレクターの味方になって、その中でチームの意見も上手く拾っていく。そのためにもしっかりとチームメンバーと言葉を尽くしていくと良いんじゃないでしょうか。
なるほど。では、どういうステップを辿っていけばプロデューサーになれると思いますか?
スキルを磨くことに限ると思います。自分を表現したり、相手が考えていることを自分の言葉で変換する力を身に付けておく。例えばデザイナーの方であれば相手の考えをさらっと絵にしたり、プログラマーの方だったら簡単なコードを書いてみたり。相手が「やりたい」と思っていることを汲み取って形にする力は重要になってくるので。
僕自身、言葉を使って精度高く表現する力は持っていると自負しています。こういう武器を持つために、色んな価値観を雨のように浴びてインプットしていくと良いと思います。
「どういう職種をやった方が良い」とかではなく、言葉の表現力を磨いたり、コミュニケーション力を磨いたりと、ベースのスキルを上げることが大事なんですね。逆に、そのスキルがあればどのような職種からでもプロデューサーになれる、と。
そうですね。こういったスキルを磨くために、皆さんにおすすめしたいことがありまして。
僕も実際にやっていることなんですが、ホワイトボードに書き出すことをやってほしいです。対面で意見を出し合うと、どうしても対抗意識が出てしまうことがあるんです。ですが、ホワイトボードに意見を書き出すと、共同作業をしているような錯覚に陥って対抗意識が自然と薄れてくるんですよ。
それに、文字にすることで「自分の言葉をちゃんと汲んでくれている」っていう安心感が生まれるし、書いている途中で「あれ、矛盾しているな」と自分の発言を振り返られる。こうやって客観的視点を入れるのは大切なので、ぜひ実践してほしいです。
客観的な視点を入れるのは大切なことですよね。では、プロデューサーのやりがいは何でしょうか。
僕が「良かったな」と思うのは、一人でも多くの開発メンバーが「このタイトルに関わって良かった」って言ってくれることと、一人でも多くのお客様が「このゲームをプレイして良かった」と言ってくれることです。これは僕自身の“プロデューサーとしてのテーマ”でもあります。
結局モチベーションってこれしかないんですよ。仲間とお客様が喜んでくれる、しかないので。一人でも「すげぇ良かった」なんて言ってくれたら、僕はそれだけで報われます。
「相手に対して常に真摯に向き合って正解を出し続けていってほしいです」
では最後の質問です。もしタイムマシンがあったとして、ご自身の歴史をやり直せるとしたら「どこかをやり直したい」とかってありますか?
無いですね。これまでの人生を全部自分の意志で選択してきた、という自信があるので。僕は人生において「良かったこと、悪かったこと全て踏まえて今の自分が最強」という考え方と「選択肢を人に委ねないこと」が大事だと思います。
選択を間違えることがあっても「でも自分が決めたんだからしょうがないよな」と思えるかどうか。「あの人に言われてこうしたけど結局ダメだった」みたいに、その人のせいにしてしまうのが一番不幸なことなので。どんな選択肢でも常に「自分で考えて自分で決めた結果だ」と思えるようになれば、後悔はしないと思います。
なるほど。では振り返ったときに後悔しないクリエイター人生を歩むには、どうすれば良いでしょうか。
「相手に対して常に真摯に向き合うこと」はすごく大事だと思いますね。分からないことを分からないままにするのは絶対にNGですし、伝わっていないと思ったら伝える努力をしないといけない。
特に非常に多くのスタッフが関わるゲーム開発は、少しのコミュニケーションのズレが致命的なミスに繋がってきます。これを踏まえて常に向き合う努力をすること、そして常に正解を出すこと。めちゃくちゃ難しいことですが、それらが常に100%できるようになることで、コミュニケーションの精度が向上しますし、信頼にも繋がってくると思います。
常に正解を出し続けるのは難しいですが、常に意識することは大事かもしれないですね。
そうですね。経営とディレクターを繋ぐ橋渡し的な役割もあるので、上から降りてくる指示を100%に近い形で理解するっていうのはすごく大事ですし。対上司、対部下でもそこを疎かにしないことが大事ですね。
ビジネス畑から一転、ゲームプロデューサーとして様々なプロジェクトに関わってきた新小田さん。大きな成功と挫折を経験した彼が得たものは「相手に対して常に真摯に向き合うことの大切さ」でした。皆さんもコミュニケーション力を磨いて、常に相手と真摯に向き合うことを大切に、後悔のないクリエイター人生を送っていきましょう!
それでは今回のクリエイターヒストリアはここまで。また次回をお楽しみに!